第6話-2.作曲をしよう ~実践編~
というわけで、僕はパソコンを抱えて資料室へやってきた。何も決まっていないがとりあえず作曲するか。
僕は資料室の扉を開けようとしたら。
「直之さん」
「あれ? 杏子?」
「報告があります」
「報告って?」
杏子はここで僕を待っていたのだろうか? 僕がここに来ることを知っていたのだろうか?
「あのさ、会場を探しにどこを当たっても断られるんだけど」
「ああ、それか。僕なりに考えたんだけど」
「はい」
「名声が無い。つまり人気が無いから断られてるんだろうなって」
「だったら、今会場探しをしてもずっと断られ続けるってこと?」
「今のままならね」
「もっと有名になれってことか。難しいなあ」
杏子がしみじみそう言っているが、有名になるって本当に難しい。だけど前に進まなければいけない。
「そっか。もう一つ聞きたいことがあって」
杏子はまだ聞きたいことがあるという。なんだろう?
「衣装は? あのままで行くの?」
「あー。前は余裕が無くて勝手に決めちゃったからな。後日改めて決めようかと思う」
「後日?」
「何か、これは今じゃなくてもいい気がする」
「どうして?」
僕がそう思う理由は、まだ曲が出来ていないからだ、まず出ることよりも、曲を作りたい。杏子は不思議そうに僕を見つめていた。
「まだ次のライブが決まってないからさ。それが決まってからでも遅くはないよ」
「うん。でも、いずれはやるんだから、早いに越したことはないよ。でも、直之さんはこれから作曲するんだし、だから私が会場を探してくるからその間に衣装の事も考えとくね」
「あれ? 今日会場探すの?」
「うん、早めにライブのしてくれそうなところを探しておかないと」
「それは曲が出来てからでもいいと思うんだけど」
なかなか、杏子に僕の思いが伝わらず、頭を抱えてしまう。どう言えばいいんだろうか?
杏子の方も、少し納得がいっていないような顔で、そわそわしている。
「いや、ライブの予定は早めに入れた方がいいから! じゃあ、行ってきます!」
「あっ、杏子!?」
と言って、杏子は出かけてしまった。彼女はせっかちな所があるので、思いを伝える時間も限られてくる。
杏子は僕が会場探しをしても断られるって言ってるのに会場を探すって言うし、衣装のことは後からでもいいと言っているのに、会場探しの間に考えておくと言っている。僕としては作曲やダンスの方を先に考えたいんだけど。まあ、次の機会に話してみようか?断られそうだけど。
僕は資料室へ入ったが、相変わらず書類や不良品の山ばかりで作曲の参考になるようなヒントがあるものがない。家ではやる気にならないから会社でやろうかと思ったんだが、ここではこれ以上のアイデアが浮かばない。
そこで、資料室がだめならどこに行こうかを考えた。公園でも行こうか?いや、社内の方が近い。社内で思いつくのは保管倉庫の西の部屋しかないな。そうか。前、「吉田さんが作曲について悩まれてるようだから、彼女だと役に立つだろうと思いまして」って織田さんも言っていたな。そこへ行こう。
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僕は保管倉庫の西の部屋へやってきた。早速、中へ入ると、ゆったりした姿勢で動画を見ながらその美しい声で何かを歌っている海音がいた。本番でもないのに、いい声をしている。
「海音」
「あ! 吉田さん、今の見た?」
「ごめん、ばっちり見た」
「え、はずかしい・・・」
ロボットにも恥ずかしいって感情、あったんだ。それはともかく、
「海音、ちょっとさ、僕、今日から作曲しようとおもうんだけど、全然イメージが湧かなくて、海音に協力してもらいたくて」
「協力? わたしに、出来ること、あるかな?ないかも」
「協力はしてくれる?」
「はい、出来る限り、ですけど」
僕は本論を持ち出したが、海音は二つ返事で了解してくれた。やった!これでいいアイデアが浮かぶはず。
「海音、何ができるの?」
「歌が、歌える。伴奏も」
「伴奏も歌えるの?」
「うん、でも、伴奏は、直之さんが、歌ってくれなきゃ、無理」
「僕が歌えばいいんだね。じゃあさ」
海音の要望に対して、ここでパソコンが登場する。僕の歌なんか誰も聞きたくないだろうし。
「海音、パソコンと接続してもいい?」
「はい、お願いします」
海音は目を閉じて深呼吸した。そして、緑色のきれいな目を見開いた。僕はうっとり、見惚れたけど、すぐ我にかえり、海音とパソコンとの接続を続けていく。その間、当たり前のように海音が近くに見え、当然、顔も近くで見ることになる。海音の白い肌や青い髪を見ているうちに、曲のコンセプトを思いついた。
接続が終わったので適当に音を入れる。すると、パソコンから音が流れた。ここまでは昨日やったとおりだ。
「直之さん、すごいです」
「ここまでは、ね、問題はここからだよ。海音」
ここから、とりあえず何かメロディーを入力してみる。いい音はないかと、音を変えようとすると、「UMINE.K」というコードが出てきた。
「何これ? 海音の事じゃ・・・」
海音は僕の声に反応して画面を覗き込んだ。海音から機械らしからぬ髪の感触と匂いが僕を麻痺させて・・・いや、麻痺してたら作曲が出来なくなる。
「確かに・・・私の名前」
「選んでみようか?」
「え?」
海音は緩い感嘆の声を上げる。彼女は今どんな気持ちなんだろう? でもとりあえずそのコードを選んでみる。
「あ!」
海音が声を上げるも、僕はとりあえず思いついたメロディーを入力してみる。メロディーを入力したら、僕は再生ボタンを押す。そうしたら、海音が歌った。
「あれ? 海音が歌った!」
「はい、確かに、歌いました。口が、勝手に、動いて」
「何だそれ?」
最初は何のことか分からなかったが、これは入力すると海音が歌うというシステムになっているようだと分かった。このシステムは製作時には使えるけど、普段は海音の生の歌声が聴きたいな。
「ねえ、直之さんには、私の声、どう、聞こえてるの、かな?」
「海音の声はすごくいいよ。いい歌ができそう」
「本当? ありがとう、ございます」
海音がお礼をしたところで、さらに僕はメロディーを作っていく。さっきの音から何回もずらして行って、海音は何回も歌ってくれる。僕はロボットでありながら海音には悪いと思いながら、強引かもしれないが海音がそこまでしてくれるのを嬉しく思った。
さらにそこから、試行錯誤をしながら、そうしていくうちに最初の部分が出来ていった。
「やった! 海音!」
「できた」
僕と海音はハイタッチをした。ただ、作曲だけで一日つぶれてしまっていた。そう、これはあくまでメロディーだけを作った状態だ。曲にはさらにリズムや伴奏が入ってくる。
ドラムに至っては何も手がかりがない。どうしよう。海音に聞いても、分からないか?
「でも、作曲は終わりじゃない。リズムを作らないと、海音はどうすればいいと思う?」
「曲を、たくさん、聴けば、いいと、思う。私も、そうやって、歌、覚えた」
そうか、曲に合うリズムを見つけて入れる。のか? いや、結構難しそうだ。1日やそこらで何とかなるようなものではない。
だけど、僕は早く次へ進みたかったから、海音の言われた通り、次の日から曲を聴いて合うリズムを作っていった。
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それを続けて数日後、様々な曲を聴いて入力を繰り返してやっと曲が完成した。ずっと作曲していたので、早くできたと思う。これを海音に聴かせよう。
「直之さん、おはようございます」
「おはよう、海音。まずはこれを聴いてみてよ」
まず僕は、作った曲を海音に聴かせた。海音は晴れやかな顔で感想を述べた。
「すごい、いいです。でも、もっと、私を、頼って、くれても、よかった」
「いや、頼ったじゃないか」
「一応、音楽の、こと、知ってる、から」
「リズムやドラムの音も私と一緒に考えられたらよかったな、ってこと?」
「はい」
海音は、今度は寂しそうな顔をして返事をする。海音はロボットなのに感情表現は豊かだ。彼女の脳はどうなっているんだろうか?
「申し訳なかった。次は一緒に作ろうか?」
「わあ、嬉しい、です」
海音が一緒に考えたいと言っていたので、僕はこれを了承した。そうすると、海音はまた、晴れやかな笑顔を僕に向けてくれた。
ただ、僕にはまだしないといけない事が残っている。
「次は衣装か」
「衣装、ですか」
「どうしたの? 海音」
「それだったら、力になれるかも、知れません」
「っていうのは?」
「私の、友達に、衣装が、作れる人が、います」
「そうなの?」
「はい。布を持って行けば、縫ってくれます」
海音の友達か。これで衣装は、布さえあれば何とかなりそうだ。ところで、みんなはどんな衣装がいいのかな?
「海音はどんな衣装がいいのかな?」
「うーん、空、かな」
「さっき空の曲作ってたもんな」
「はい」
空のイメージね。分かった。




