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推しを侍らせお忍び視察(なおお忍びの意味)

「いい天気ね」

 さんさんサンシャイン。太陽が照り付ける。夏である。

「久しぶりに来ましたが、あまり変わりませんね」

「私が手を入れていないのだから、大きく変わっていたら困ります」

「ここがコルディエー……」

「アルは初めてだったかしら。あまり珍しいものがあるとは思わないけど、王都からあまり出ていないのなら見慣れないものもあるかもしれないわね」

「……! 気を引き締めて参ります!」

「いつもどおりでいいのよ。リンは……慣れている感じがしますね」

「私の出身はここより北の村です。王都へ参る際に、コルディエーを通ったことがございます」

「そう、では共に歩くのに不安はありませんね。さあ、行きましょう」

 さーてやってきましたコルディエー。どうせしばらく王宮のほうで私がいないとダメ系の公務がないので、毎年遊びに来てるのと同じ感覚でノリで来てしまったぜ。まあ今回は仕事しに来てるんだが。視察でーす。それもこれも金のためなの。推しに課金するための。

「普段確かに代理人から報告を受けてはいますが、直接町を見ることも必要なことだと思うの。私も王女として、民の姿を知らなければ」

「流石はアルミナ様! 素晴らしいお考えです!」

 ってな具合。推しが私の全肯定Botみたいな返事してくるのイズ何。まあ難しい言い訳を考えなくて済むのは助かる。ルベウス、こいつ大学首席で卒業するくらい頭いいから討論になったら私絶対負ける気しかしねえわ。私自身は討論になったことないけど他の騎士とかと口喧嘩になっても絶対勝つもんこいつ。それで追い詰められた相手が暴力に出てもねじ伏せるし。はー、敵に回したくなさすぎる。

 お目付け役状態のリンさんに関しては、まあ、ベルベル兄さまに害がなければ邪魔してくることもないであろうということで、気楽に考えていく。顔が良いから絆されたなんてことは若干しかないよ(若干はあるよ)。

 コルディエーは田舎町なので、特に王宮やその周辺のような華々しさはない。しかしお茶の産地なので、ちょっと遠くを眺めれば茶畑が広がっていてのどか。私の紅茶趣味は大体ここから来た。あと前世の漫画で覚えた。

 サーピルス地方の端っことして特筆するところがあるとすれば、海に面しているということ。広大な茶畑をまっすぐ突き抜けていけば、ちゃんと海がある。いい船があるわけではないので、漁師たちはあくまで自分たちが食べていけるくらい、町の人に売れるくらい、そういう漁を細々とやっている感じ。町自体が小さいので、立派な港があるというわけでもない。本当に最低限の設備状態。ここ将来的な投資ポイントかしら?

 あとは一般通過旅人がときどき立ち寄るくらいか。サーピルスの大きい港から遠方へ行きたい場合、コルディエーを通過しないといけないことがあるから、それくらい。まあ私みたいに避暑地扱いしてる人が全くいないわけじゃないと思うけど、それは少数派。でもまあ、宿の周りは少し賑わしいか。私がこの町の特徴として思っているのはそんなもん。

 さて、それはそれとして、当然だが、この視察にはルベウスにアルくん、そしてリンさんが一緒に私について回っている。まーこれでも王女だからね。万が一のときのためっていうのあるよね。一応町の視察はお忍びってことでいつもより質素なドレスを着ているし、ポチはこっちの私の屋敷で留守番だし、メイドとかも皆置いてきたけど逆にこれどういうメンツだよって感じ。屈強な男、屈強になりそうな男、屈強そうな女、それに守られてる少女(私)。もう明らかにやんごとなき身分感出てるんだよな。家族旅行とか言い張るのにも無理がある。それ通用するのルベウスとアルくんだけだわ。顔コピペだから。

「ほーん旅の人かい。どうだい、ちょいとうちの店も見ていってくんな。こんなのとかどうだい」

 それでも町の人たちは普通に旅人に接するように、私たちを歓迎してくれた。何ならちょっと土産物とか買い物するときふっかけられそうにもなった。みんなちゃっかりしてやがる。その辺りはリンさんがさりげなく止めたが。控えめに見えてリンさんはそういうの対応できる人種かー。アルミナ心のメモ追加。

「アルミナ様が見たいと思ったものは見ることができたでしょうか」

「ええ、概ね満足です。よくよく考えたら私の顔を知る民が多いのだから、隠したところであまり意味がなかった気がするわ」

 コルディエーの町を一通り歩いて、レストランで休憩しながら呟いた私の一言に、アルくんとリンさんが驚いた顔をした。そんなビックリポイントあったか?

「で、では町の者たちは、アルミナ殿下のことをわかっていて、あのような態度を?」

「お咎めにはならないのですか?」

 おとがめ。おとがめ……なんだそれ考えたことなかったですわぞ。

 うーん、言われてみればここの住民たち王族不敬ポイントバチクソ稼いでるな。王族相手に別に頭を下げるわけでもなく、普通に皆私に対してその辺の娘っ子相手にする感じだったわ。私は全然気にしないし気楽でいいけど。まあ王族相手にふっかけようとする商魂たくましい感じはめちゃくちゃ肝据わってるなとは思う。怖いもの知らずかな? ここが王宮だったら秒で打ち首だけどここは王宮じゃないからセーフ。幸運な民たちよ。

「……まあ、私がそう扱われたがっていると察してくれていたのでしょう。特に問題だとは思わないわ」

「そういうものですか……」

「ただ恐れられるだけの怪物同然の何かになるよりは余程よいことです。それに、本当に危険なものであれば、おまえたちが対処してくれるでしょう?」

「もちろんです!」

 アルくんの元気なお返事花丸百点満点です。これが若さ~。実際、近距離は剣の得意なアルくん、中距離は槍の得意なルベウス、遠距離は弓の得意なリンさんに任せれば私大体無敵だな。たぶん。知らんけど。

「屋敷に戻ったら次の仕事があります。私、折角だからやってみたいことが沢山あるのよね。時間はあるから焦る必要はないけれど、手を付けられるところから手を出していくことにするわ。おまえたちにもあれこれ相談することになるかもしれません」

「我々にできることであれば、何なりと」

 まあ騎士は騎士なのであんまり本来の職務から外れるようなことはさせないつもりだが。しかしまあ基本的に強いだけじゃなく賢い者たちの集まりなので、それを活用せずにおくのもどうなのかという話。そもそもリンさんだってベルベル兄さまとの連絡係だし。

「ちなみに、アルミナ様はこれから何をするおつもりで?」

「できることをできる限りね。もう少し調べものよ」

 全ては推しへの課金のためにな。そのために推しも働かせるのどうなんやって一瞬思ったけどよくよく考えたら前世でやってたソシャゲの周回とか推し過労死させるくらいクエスト連れまわしてたんだからまあそういうもんですわ。うん。

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