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お兄ちゃんには敵わない(権力的な意味で)

 先日助っ人ピンチヒッターとしてやってきたアルくんだが、ちゃんと私のところで騎士できてたということで、今後はルベウスと一緒に私についてくれることになった。

「これからよろしくお願いいたします」

「おまえのことも頼りにしますね、アル」

「ご期待に副えるよう、精いっぱい務めさせていただきます」

 そう言ってアルくんは私に膝を折った。やはり似てる、つむじの巻き方とか。アルくんのほうがちょっと眉薄くて目が大きい印象あるけどそれ以外はほとんど同一パーツ流用だよこれは。いや身長差はあるけど、それにしたってカルブンクルス製造工場の量産型だよ最早。まあ私は眼福なので問題ないです。

「アルミナ様のため、よく励めよ、アルマンダイン」

「叔父上に言われずとも。槍では叔父上には及びませんが、剣であれば僕も自信があります。アルミナ殿下を傷つけようとするものは全て切り伏せてご覧に入れます」

「わかっているならいい」

 いや会話が物騒よ物騒。まあ私も慣れっこだし、そう、騎士が物騒な気持ちにならなきゃいけないこの世の中がポイズン。日常的に刺客がぽんぽこやってくるのどうかしてるわ。暗殺者に萌えを見いだせるのは自分が他人事のとき、つまり二次元の中だけやで。現実にそんなもんきたらただ怖いです。ナイフグサーされたら私普通に死ぬからね。私はやってきた刺客さえ魅了するほどの超絶美貌アンドカリスマの持ち主ってわけじゃないんだわ。普通の地味な王女。普通の王女って何。

 それにしてもなんかこの叔父甥通じ合ってる感あるな。アルミナ推し二人が仲良くてにっこり。遠慮なく言い合える仲っていいよね。カルブンクルス箱推しになる。でももうちょっとアルくんが大人になって身長でかくなったらマジ区別つかなくなりかねないのでは? アルミナは訝しんだ。

 ところで、そんなカルブンクルスハッピーセットを連れ歩いている私は、王宮内での立場がちょっぴり変わろうとしている。気がする。

 そう、私はドラゴンライダーであるルベウス・カルブンクルスを顎で使える立場(傍から見ると)。実際のところ正しい雇用関係としては王国所属、つまり国王であるパパ上の騎士であって、私は単に護衛として力を貸してもらっている立場。王国のものは別に王女のものじゃないんだわ。なので本当の意味で好き勝手命令できるわけではないのだが、そんなこと周りからしたら関係ない。ルベウスは騎士らしく努めようと私に懸命に尽くしているが、それはつまり、私がドラゴンを兵器として扱えると思われていることと同義なのだった。別に私自身は襲われないだけでドラゴンをひょいっと自転車みたいに借りられるわけじゃないので勘違いも甚だしいのだが。ドラゴンちゃんだって生き物だし……機嫌とかあるし……そういうの慣れてるルベウスじゃないとわかんないし……でもエサのキャベツをもぐもぐしてるのはかわいいねえ。世の連中はこの愛玩ドラゴンを普通に戦闘機扱いしようってわけ。ぴえんぴえん。嘘。ぴえん通し越してぱおん。やめて! 私を政権闘争に巻き込まないで!

 しかし立ち回り次第では私の株が上がり、ついでに推したちにより良い暮らしを提供できる可能性も出てきたってわけ。私の胃痛と引き換えにな。

「麗しの妹アルミナよ、その慈愛の精神でどうか兄におまえの立派な騎士を貸してくれないか」

「ごめんなさい、よく聞き取れませんでしたわ、ベルトランお兄さま。もう一度、わかりやすく仰っていただける?」

「お兄ちゃんにルベウスくん貸ーして」

「アーアーアアアー聞こえたくなーいーでーすーわーねー」

「しっかり聞き取っているじゃないか」

 目の前にいるのは輝く金髪と若草色の瞳が眩しいベルトラン・ルチル・ベルゼアお兄さま。ルチル派閥の筆頭、我が同腹の兄、この国の第二王子。ちなみにハッピー騎士セットはベルベル兄さまの付き人と一緒に部屋の外で待機している。兄さまの部屋の窓は鉄格子付きだし、他に入口もないので結構な安全圏なので。いやもしかしたら私が知らん隠し通路とかあるかもしれんけど私が知らんってことはそんじょそこらの暗殺者も知らんだろうし。秘密のお話するときはまさにココがベストって感じ。お上品なだけで監獄感はないこともないけど。息苦しくないですか?

 兄と妹水入らずでお茶会しよ! とお誘いを受けて断れるはずもなくノコノコやってきた私だが、開口一番とんでもねえお願いが飛び出してきた。こっわ。それどういう意味? ルベウス貸したら何が起きるんです? ルベウス昇進チャンス?

「先日のドラゴン退治は見事だった。噂は聞いているよ」

「退治というか飼いならしてますね」

「我が国にかような立派な騎士がいるということを父上は喜んでおられる。そして父上は他の騎士たちも皆がドラゴンを制するほど強くなれば、この国は安泰だとお考えだ」

「絶対反逆されない自信がないと湧いてこない発想。流石パパ上、頭がお花畑だわ。将来モメるの目に見えてるのにアホほど子供こさえるだけのことはありますわね」

 パパ上大体何やるにしても何とかなるやろって思ってそう。精神が頑強すぎなんだわ。私だったらクーデターが怖くてできない発想それ。アーサー王伝説だってモードレッドやらランスロットやらのゴリラ騎士の裏切りで円卓ズタボロボンボンボンなわけ。確かに騎士たちが皆ゴリラになったらそりゃあ強そうだが、個人の強さと軍隊としての強さは別なのでは? まあ虚弱なもやしの集まりよりはゴリラの集まりのほうがいいのは、それは、そう。それはそう。私としては単純に国防のためというなら先に兵士の待遇アゲとか良い装備の支給とか他にやることいっぱいある気がするが。肝心なところで寝返られるとか逃げ出されるとか困るから、結局裏切られないことが一番大事だょ……!

 まあそんな私の言葉も気持ちも一切スルーで兄さまのお話は続くのであった。ハイ、アルミナ大人しく聞きます。

「とにかく陛下は騎士たちを強くしたい。そこで訓練のため、ルベウス卿に指導させたいという話。なぜルベウス卿かというと、お兄ちゃんの騎士にも強い人いっぱいいるんだけど皆ドラゴンライダーに興味津々なんだよね。あとアルミナちゃんがドラゴンよしよししてるのお兄ちゃん羨ましくなっちゃった」

「私がルベウスに訓練をお願いしたとしてベルベル兄さまがドラゴンちゃんをよしよしできるかは別問題ですけど」

「貸してくれるんだね! ありがとう!」

 うーん会話できてる気がしない。良いとも悪いとも言ってねえんだけどなあ。断られるなんて微塵も考えてませんって感じ。確かに立場上断ることはできないが。ルベウスったら鷹狩で貸し出される鷹みてえな扱いだあ……。そもそも私もここに呼び出されてる時点でイエスかハイしか答えられないようになってる。

 まあルベウスも私の手前嫌とは言わないだろうし、本人も騎士として研鑽を積むことは重要視しているところがある。私のためにもっと強くなってきてね(はあと)とかやっときゃ張り切って鍛錬してくることだろう。しょうもない王女でも王女は王女なので。王女の誉め言葉は騎士の誇りになるやつっぽいので。知らんけど。

 しかし鍛錬の指導役か。やはりドラゴンライダーになったのは注目ポイント高かったということだ。推しの将来も安泰か? つよつよナイトなら最悪私に何か起きても他の王族が放っておかないだろうし引っ張りだこでしょ。ルベウス昇進チャンス……! いやでも待って。私に何かあったら逆の意味で放っておけんわってなってクビ(物理)の可能性も……やはり油断はできない。渡る世間厳しくて泣ける。推しにも私にも優しい世界の到来を待ってる。

「折角だからお兄ちゃんも鍛錬に混ざることになっているんだけど、アルミナちゃんも見においで。アルミナちゃんの応援があればお兄ちゃんも騎士たちも頑張れる気がする!」

「私がいなくてもちゃんと頑張らないと、周りに示しがつきませんよ。それに、私、お邪魔にならないかしら」

「広い鍛錬場にアルミナちゃんのように小さい女の子が一人紛れていたって何も問題ないさ!」

 つまり絶対来いってこと。騎士サーとか汗臭そうだな……。あとさりげに身長ディスられたわ。ベルベル兄さま巨人だからな……多分二メートルくらいある。パパ上の血が色濃く出たんかな。パパ上もジジイなわりにでかいし。そんなのとママ上に似たか弱い私を一緒にしないでほしい。私は一般身長です。

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