恐怖! ウェルナー視察
「アルミナが助けてくれると思うと心強いわ。うふふ」
「おお、アルミナ王女。あなたの名声は聞き及んでいますよ」
ご機嫌なセレス姉上と、その隣にいるハンフリー侯爵。もてなされているということは期待を裏切ると死が迫るのでは? しかし相当上手く立ち回らないとウェルナー領の民の恨みを買うのでは? 恐怖がいっぱいフラグだらけでつらいアルミナちゃんなのであった。心は地獄の三丁目。
とまあ私の精神状態はさておき、現状確認。
まず、私の今回のお供は護衛としてのルベウスとポチ、そしてベルベル兄さまとの連絡係としてのリンさん。あと言うまでもないかもだけど世話係の侍女たちも。アルくんは「留守はお任せください!」とコルディエー領主代理をしてくれている。理解がある男、助かる。アルくんは元々カルブンクルス家の跡継ぎとして育ってるからか、政治の話には理解がすごくとても深い感じがある。ルベウスも賢いけど別ベクトルって感じなのよね。これが長男と次男の違い……? 貴族社会でその差は大きいぞ。まあルベウスにもウェルナーで私が何をするかって説明はしてあるからわかってくれているとは思うけども。
っと話が逸れたので戻すけど、私がウェルナーに来るのにポチまで連れてきてるっていうのはマジで誰にもナメられたらダメだから。ポチは別に私のペットってわけじゃないけど何かと「ぎゃおん」と言うことを聞いてくれる賢いドラゴンたやなので、本当に困ったときはルベウス共々頼りになりすぎるってワケ。元々私命狙われがちだからね、暗殺者とか湧いてきてもやる気喪失させるくらい威嚇してナンボなのだ。国一番レベルの騎士とやべードラゴンいたらそう簡単に手は出せんでしょ。侍女とかは完全にウェルナーの人を信用しきれないからですね。何かあったらそれ死なんだ。冗談じゃなく。大人数ってほどでもないが身の回りはある程度信用のある人間で固められる程度には固めておきたいそんな所存。
ウェルナーの町の様子は移動中の馬車の窓から見たくらいだからハッキリしたことは言えんけど、ハンフリー家のお屋敷はなんかスゲーご立派だなと思った。いやまあ貴族の城が立派じゃなかったら逆にヤバイんだが。でもたぶん外側というか、目に付きやすいところだけだ。私たちが泊まる客室はとりあえず綺麗に取り繕ってある感じはするけど、ここへ案内されるまでの廊下の灯りはちょこちょこ消えてるやつあったし……火を入れる担当が間に合ってないか掃除が行き届いてないのを隠すためか、どっちにしても貴族の大邸宅と聞いて想像するような生活の質は保たれていないように思われる。使用人の数足りてるんかしらコレ。そんな金はない? そうかもしれない。この世界の魔法がもっと身近で扱いやすいものだったらこういう問題は解決したんかしらね……(魔眼のことからは目を逸らしたい)。
使用人の数は下々の者と顔を合わせたくない派閥の人の家だとそもそも出会わないようになってることあるからとりあえず保留としても、それじゃあ当のハンフリー侯爵はどうなのか。セレス姉上は王女なので王宮からの支援が沢山あるけど、ハンフリー侯爵はどうだろう。歳はパパ上よりちょっと若いくらいだけどまあ十分おじさんの範疇、中年と言えよう。別に太っているわけではないが、痩せているわけでもない。見栄えに関わるからか姿勢がめちゃくちゃ良いので、実年齢よりはもうちょっと若く見えるかもしれない。まあ実に健康的な体型のおじさんだ。服の趣味は目に刺さるくらい眩しい金の刺繍がちょっと悪趣味拗らせてる感じするけど。これもお金かかってそうだな……。
「いやはや、かのベルトラン王子からも期待されているとか。どうかお力を貸していただければ、ハハハ」
「……そのために参りましたから。これは第二王子たるベルトランお兄さまのご意向でもありますわ。私の言葉はお兄さまのご意思と思ってくださいね」
どこまで言うこと聞く気があるのかわからんけど。この侯爵の笑みは何なんや。にこにこというかにやにやというか。とりあえずまとまったお金の工面できそうと思って安心しているんですかね。油断禁物やぞ。たとえ私が小娘でセレス姉上の妹だとしても今はベルベル兄さまの権力と権威を背負って来てるんやぞ。虎の威を借りまくる私。虎が行けって言ってるんだから許してほしい。
「今日は時間も遅くなってしまいましたから、ひとまず休ませていただきますが、明日からは領内の視察や経理状況の確認をします。そのうえで新事業とやらの精査をすることになりますが、よろしいですね」
「せ、精査? ご支援をいただけるというお話でしょう?」
「無論、ベルトランお兄さまはウェルナーの今後を案じておられますから。新しいことを起こすときには予期せぬ事態がつきものです。そういったリスクをなるべく避けられるよう手配するのも支援のうち。そのためには綿密な調査が必要ですわ。まさか、侯爵はそうしたベルトランお兄さまのお心遣いを無下になさるおつもりなのかしら?」
「いえいえ、そんな、滅相もない!」
「そうよ、アルミナ。私たちがベルトラン兄上のお気持ちをないがしろにするはずないわ」
「そうですか。では問題ありませんね」
「ええ、ええ、勿論です!」
なんかこのまま突っついてたらボロがボロボロって感じで出てきそうな気もするけど、追い詰めすぎたら窮鼠猫噛み的に暴走するかもしれんのでここら辺にしておこう。深掘りするのはもうちょっと後にしよ。
それにしても、ハンフリー侯爵とセレス姉上の並びに侯爵夫人もその子供も出てこないのはどういうことなのか。いるはずだぞセレス姉上のイトコ殿が。社交界で顔見たことないけど年齢的には青年のはず。そもそも王に嫁いだ女の実家の関係者が話題にも上がらんって謎すぎない? 今表に出られない事情でもある? これも調査ポイントなのかしら。エッ困る。タスク増やさないで。
まあ深いことを考えるのは明日にして、今日はもうお休みモードです。客室のほうへ籠もるんじゃ。
ルベウスはハンフリー家の人が近くにいないことを確認して、警戒を解いた。
「あのハンフリー侯爵に時間をお与えになってよろしかったのですか?」
どうやら私を心配しているらしい。何か私が一方的に意見聞かなかったことへ若干の気まずさを感じてるだけでコイツ全然気にしてねえや。その精神の頑強さ分けてくれ。まあ切り替えの上手い男だから頼れるというのもある。推しは強い。なるほどね。それかもしかしたら近くにアレ兄貴がいないから落ち着いてるだけかもしれん。なるほどね? とりあえず私の意向を理解してくれているっぽいことは助かりどころ。仕事人ルベウス。言えばわかる男。私が今まで説明不足が多すぎた……? 会話大事だね。反省。
「今更多少の細工で誤魔化せることはないわ。何か後ろ暗いことをやっているのなら、ずっと前からやっているはずよ」
「たかが一晩くらいでどうなるものでもない、と。確かに、金がないのなら人手もないでしょうからね」
「まあそういうことね。まずは休息を取って冷静な行動を心掛けないと。偽りがあるかどうか見抜くことも、今回の私の仕事なのだし」
仕事。仕事なんだなあ。割と今私バリキャリ感出つつある気がする。高貴な女性は使用人に全部丸投げして何もしないのが優雅みたいな風潮もなくはないけど、私が何してても特に咎められないのはベルベル兄さまが寛大だからなのか、一般淑女じゃなくて王女ともなれば政治力がモノを言うということなのか。変に邪魔されないのは良いことかもね。末っ子なりに私もチカラパワーが欲しいしな……推しに良い生活をさせられる程度の……。
と雑に思考に沈みかけているところへ、リンさんがやってきた。
「アルミナ殿下。城内の物見から戻りました」
「ありがとう、リン。どんな様子だった?」
「はい。屋敷の作り自体はさして特別なものではないのですが……」
しばらくウェルナーに滞在するにあたって敵情視察は必須事項。いやまだ敵ではないけど。とりまこれから長期滞在になるであろう王女の側近が屋敷の中をうろつく程度、深追いしなければ特に怪しまれるほどのことでもあるまいて。難癖つけられたら隠し事でもあるんですかァ!? 疑わしいですねェ! って切り返せるし。金のあるルチル家のほうが立場が上よ。世の中は金。私悪党みたいなこと言ってない?
リンさんの報告によれば侯爵の生活スペースは入らないよう釘を刺されたとのこと。プライベートな場所はダメっていうのはよくあるから不思議ではないけど、隠し事するにもピッタリな場所ではあるな。ハンフリー長男はそこに引き籠ってるんかしら。とりあえずウェルナーの視察して、事業計画とかお金の流れ確認して……私どこまでやれるんです? 本当にちゃんとやれるんです? 不安しかない。強くありたい。




