表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/82

推しのコピペ

「アルマンダイン・カルブンクルスと申します。討伐隊が戻るまでの間、叔父に代わり、アルミナ殿下をお守りさせていただきたく思います」

 ルベウス(最推し兼メイン盾)が他の騎士の仲間たちと共に出立した。王宮に残された私のもとへやってきたのは、ルベウスと雰囲気の似たショタであった。いや年齢的に私と同じくらいらしいから全然ショタではないんだけど、普段見ているものが七歳年上の男だから、こう……概念的にショタ。というかもう……これは美少女なのでは? ルベウスは眉とか濃いめで雄々しいけど、このアルマンダインくんにはそういう成熟した男らしさみたいなのがまだない。いや男の娘というには普通に筋肉がっしりしてるから本当に概念の話なんだが。美少女なのは顔だけである。身長も私より高いしな。

「おまえ、私と少し名前の響きが似ているわね」

「そう……でしょうか?」

「ええ。なんだか親しい兄弟が増えたようで気に入ったわ。アルと呼んでも?」

「殿下に新しい呼び名をいただけるとは光栄です。どうぞアルとお呼びください」

 ピカーッ! 後光が見える。美ショタの笑顔眩しいな。おまえが次推しだ。最推しはルベウスだから。

 身内とはいえ、ルベウスは真面目な男なので、半端な騎士を寄越すことはないはず。ということはこのアルくんは若いながらにしっかり仕込まれてて優秀な人材ということだ。私のほうが媚びとかないと死じゃん。なんかの拍子に私と違う派閥に行かないとは限らないんだし。

 それにしてもルベウスの甥。兄弟と言われても納得の顔。似てる。カルブンクルス家の血こんな濃いの? 流石にコピペ顔とまでは言わないけど並べなくてもご親戚ですねって感じ。ごめん訂正するわこれはコピペ顔だわ。細かいパーツ違うけどマジで似てるんだわ。推せる顔がいっぱい生まれる血筋か……いいな……(いいな)。ベルゼア王家なんて兄弟みんな顔バラバラだわ。母親が違うんだからそりゃそうだ。そもそも同じ母親から生まれたベルベル兄さまだって私と似てるのは髪の色くらいのものである。金髪!

「どうかされましたか?」

「ちょっとカルブンクルス一族の奇跡に感謝していただけよ。ところでおまえ、紅茶は好きかしら。良い茶葉が手に入ったのよ」

 末っ子王女の私はぶっちゃけそんなに仕事が多くない。将来の結婚に備えて花嫁修業のノリで音楽とか芸術とか勉強させられるくらいである。あと亡きママ上の遺産を形見分けされてるので、すっごいちっちゃいけど私個人の領地がある。それもやらなきゃいけないのはその領地で変なこと起きてませんかね~大丈夫っすかね~という書類の確認くらい。本当はもうちょっとそこ頑張りたいんだけどなー。私のお小遣いそこから出てるからなー。でもあんまり派手に動こうとするとまーた他の兄弟に目をつけられてしまうんだ。賢い(ように見える)王族ってそれだけで権力狙いマンからすると警戒対象なんですわ。ほんと世の中クソ。領地経営に本腰入れるのはもうちょっと様子見してからにします。ぴえん。

「殿下にお茶を淹れさせるなど……!」

「いいのよ、私がやりたいの。アルは大人しく待っていなさい」

「――はっ、まさか毒の心配を? アルミナ殿下は常に危険に晒されていらっしゃるのですね……」

 それもまあなくはないけど茶を淹れるのはただの趣味やで。

「美味しい……」

「そう、よかったわ。王族や貴族がお互い顔色を窺いあうお茶会なんてよくある話だけど、本当に大切なのは美味しいお茶を飲んで気持ちが落ち着くかどうかなのよ。緊張は解けたかしら」

「……未熟なところをお見せしました」

「あら、悪いことだとは言っていないわ。おまえが私に敬意を払ってくれているということでしょう。私の噂は聞いているんでしょう?」

「はい。叔父は殿下が心優しく、聡明なお方だと申しておりました。実際にお会いして、叔父の言っていたとおりのお方だと感じています」

「……そう言ってもらえるのは、嬉しくないこともないのだけれど。そうね、はっきり言います。私、王族の中では立場が弱いのよ。陛下の娘とはいえ末の子ですもの。私の機嫌をとったところで、大しておまえの得にはならない。だというのに、おまえは私のために緊張してくれたわ」

 ルベウスもめっちゃ真面目にやってくれてるけど、アルくんもすごく真面目だよね。カルブンクルスは真面目の血筋かな?

 私の王族としての立場はほんとに雑魚なので、私に奉仕しても見返りみたいなものはあんまり期待できないのだ。だというのに誠実に騎士として仕えようとしてくれている、そういう意思があるってほんと貴重。ヘタするとメイドにもナメられてるからね私。いや良い子もいっぱいいるけども、ほかの兄弟に仕えてる専属のメイドとかには下に見られてる気がしてる。気のせいじゃないと思う。王女だから金はあるけど他の兄弟ほどの金はないしな……まあ推し活するのに不足はないからいいけど。そもそも推しが課金を受け付けてくれん。いや王宮から給与は出てるんだけどさ、それは基本給じゃん。それ以外に推させてほしいんだよな。顔がいいから。その顔に免じてスパチャさせてほしい。そういうハナシ。……そういうハナシかな? 違うな、真面目に相手してくれて嬉しいって話だな。オタクすぐ話逸れる。

「おまえ、その感性は大切になさいね」

 そういう善良さは王宮の中では清涼剤だから。ほんと。あと後ろ暗いところがあるよりは善良な人間として胸を張って暮らせるほうが絶対いいです。私? 私は中身がこんなだから……ささくれだってるから……。うーん王女なのに可愛げというものが足りない。なんでだろう。顔はチャーミングなはずだが。兄弟みんな顔は良いから私が顔良くないはずがない。好みかどうかは置いといて。

 とまあそんなノンキにしてたところへ景気よくカーンッ! ゴングの音! 違います。暗殺者が投げた短剣をアルくんが剣で弾き飛ばした音です。

「曲者!」

 そしてちょちょいのちょいっと暗殺者は取っつかまって警備の兵士に引き渡されてドナドナされていきましたとさ。なんというか、その一連の流れの手際の良さときたら若造とは思えないスマートさなんだよな。アルくんもルベウスとそう変わんないよ……アルミナ覚えた。やっぱカルブンクルスはゴリラ。

「殿下のことはこの僕がお守りいたします。たとえこの命に代えても!」

「え、ええ。頼りにしているわ。あとおまえもちゃんと生き延びなさい。また一緒にお茶を飲みたいわ」

「はっ、必ずや!」

 そこまで気負わなくていいよ。いや私も死にたくないからおまえを盾にするけど。よくよく考えると推しをメイン盾にしていく暮らし、イビツなのでは? 私が推しを守るべきでは? 残念それは立場が許しません。かなし。でも実際私が前に出て怪我でもしようもんならそれこそお付きの騎士の首が飛ぶんだわ。物理で。物騒。

 それから数日、アルくんは立派に騎士の役目を果たし、私はルベウスが戻ってくるまでちゃんと五体満足無事に過ごした。ありがとうアルくん。歳の近い友達とか全然いないから新鮮な気分だったわ。まあ前世の分あるから歳が近いとか言っていいのかわかんないけど。そしてあくまで仕事上の付き合いのそれを交友関係に数えていいかも謎だけど。

「ただいま戻りました、アルミナ様」

「よく戻ったわね。おまえが連れてきたアルマンダインのおかげで退屈せずに済みました。……それは?」

 帰ってきたルベウスはドラゴンに首輪をつけて引き連れていた。

「倒しにいったはずなのですが、なぜか懐かれたので我が家で引き取って躾けることにしました。乗り心地はなかなかいいですよ」

「おまえ……想像の斜め上を行くわね……」

 推しがドラゴンライダーになった。倒すのも大変なはずのものを……手懐ける……???? どういうことだかアルミナわかんない。チベットスナギツネ感。虚無顔で推しが連れ帰ってきたドラゴンを見つめていると目があった。こうして見るとつぶらな瞳がかわいい気がする。ちょっとイヌっぽいな。私ネコ派だけど。落ち着いて観察してみれば、襲ってこないぶんには愛せる。大丈夫これは余裕。暗殺者より絶対かわいいポイント百万点上だから。

「おや、アルミナ様も好かれたようですね。流石です」

 流石 #とは。何を見てそう思ったのおまえ。どういうつもりで言ったのそれは。私はおまえと違ってゴリラじゃないんだけど。というかドラゴンもおまえなんで私に頭下げてるの。自分が認めた相手にしか傅かない気高い生き物とかそういうんじゃないの?

 とりあえずドラゴン退治、推しはちゃんと帰ってきたし……ドラゴンスレイヤーじゃないけど、別のハクがついたから……いい……のか……?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ