推しと秘密の共有(色気はないよ)
元々やりたいことについては大体下々の者たちにお金握らせてやっといてーしておけば大体何とかなるので、私は空いた時間で目のことを調べることにした。なんかね、なんでも動き出したら楽なんですわこの領主とかいう仕事。細かいことの責任を取るだけのお仕事。それが一番つらくもあるけど私は王女なので早々何やっても文句は出ません。これが権力。こんなやつが領主とかやってていいの? 我ながらトップ向きじゃないと思う。でも他に任せられるやつおらんし……私の保身のためには私の領地は小さくても守っていかなくちゃいけないし……推しの課金にも繋がるし……。
そんなことはさておき、お屋敷の古書を漁っていると、ルチル家のゆかりの魔法使いが記したのであろう本がゴロゴロ出てきた。なんでこういうの本家じゃなくてここに置いてあんねん。私には都合いいけど。
まあこれも楽しい読書の一環よね~ってことで全部目を通す。日記とかもあった。どうやら分家筋から魔法使いが生まれて、その関係でコルディエーの統治を任されていた人がいたということらしい。あーね。
古い言葉なので辞書翻訳がないと読み進められないが、なかなか興味深いことが書いてあった。簡単に訳すると、魔法使いになりたいからってしつこく弟子入りしてこようとするやついたんだけどそいつ才能がマジでミリ単位もなくて困ったッピ、みたいなこととか記録が残っている。そういう苦労も負ってたんか……。歴史的資料じゃん。こういうのが図書館で残していくべき財産なんじゃないの?
よくよく読み進めていくと、弟子になりたいやつを選別するために、才能のあるナシを判断する魔法のアイテムを作った、という話が書いてある。適性がある人にだけ反応して、強引に魔法の力を目覚めさせるものらしい。もしかして私が触った石碑、アレのこと……? 勝手に古代人の弟子にされたの私?
「ええと、魔法の一覧……」
当時作成された魔法書というやつである。精霊への祈り方とか魔法を使うときの手順、注意点とかが事細かく書かれている。これは完全に取説。
その中でほんのちょこっとだけ書かれていたのが、魔眼である。
「これは目で見ると発動する魔法である。その効果は人によって違うものが現れる……?」
つまり私の目についての取説はない。解散!
集合! 取説がないなら実地調査! 実験して効果を調べるしかありません隊長! 隊長誰だよ。私か。
しかしまあこの恐らく魔眼――毛糸玉の視界、人間相手に試すわけにはいかない。万が一のやべー事故が起こったらマジ無理なので。
とりあえずオン! すると生物が全部毛糸玉に見える。その辺に活けてある花にも細々と糸が巻きついている。お屋敷で働く人間もみんな多少差異はあるけど毛糸玉。比較的お年を召した方のほうが顔が見えることが多いかな? 若い子は完全に毛糸玉。まあぱっと見そんな感じってだけなんだが。料理とかは別に毛糸見えないから、死んでる生き物は対象外と思われる。あと自分にも毛糸は見えない。手とかにも巻き付いてないし、鏡を見ても普通だ。自分も対象外と思われる。
あんまり大っぴらに実験すると目立つので、とりあえず庭の雑草とか引っこ抜いてそれで色々試すことにしよう。倫理的問題は知らんけど大まかな扱い方だけでもわかれば御の字。というわけでお花摘みだぞ! ファンシーでしょ。王女っぽいでしょこれは! 目的が実験なので何も可愛くないが。女子力とは。
「そういうわけだから庭師にちょうどよさそうな花を頼んだら薔薇を見繕ってくれたわ。実験に使うなんて言い出せなくてちょっと気が引けるわね。こんなに綺麗なものを粗末に扱うことになってしまうから」
「アルミナ様のためになるのであれば、この花も本望でしょう」
ナチュラル傲慢すぎて笑う。いやまあ私も花なら実験に使ってええやろぐらいの気持ちでいるの動物様は食物連鎖の上だから偉いんやで~みたいな態度と言われればそれは、そう(それはそう)。動くものはなんというか共感してしまうっていうか……いやまあ何でも食えば美味いから食い物として考えればいいのかもしれないけど、実験に使うのは食べ物にならないものにしたいよねみたいなとこある。薔薇もジャムとかにして食うとかあるけどね。でも穀物とかよりはタブー感少ないよね。なんでだろうな。私の倫理観がガバなだけかもしれん。兄弟平気な顔してぶっ殺す兄とか姉とかよりは絶対マシなつもりだけど傍から見たら五十歩百歩の可能性充分ある。
とりあえず必要なのは、この毛糸のようなモノに何の意味があるのかを探ること。触るとどうなるか確かめること。大まかにでも理解しておかないと、よくない事故が起こりかねない。なので庭師に用意してもらった薔薇を触ったり触らなかったりしながら観察していくことにする。
ちなみに実験内容は全部ルベウスに監督してもらいます。敵を騙すにはまず味方からとかいう言葉もあるけど今一応明確な敵いないので。腹違いの兄姉たちが敵ではないとは言い切れないが、表立って私と直接敵対しているわけではないのでそれは横に置いておく。そもそも私がこういう特殊能力あるっぽいわ、という話をルベウスに黙っておくのはあまり得策ではないと感じた次第。ルベウスは優秀な騎士くんだし何やかんやで結構長い付き合いなので、今更護衛対象の私に謎の属性追加されたところで態度変わることはないでしょという信頼の気持ち。推しは心が強いので大体何でも受け止めてくれる(と勝手に思っている)。そもそもドラゴン相手に平気な顔して突っ込んでいける男が珍しい魔法やなんやと言ったところで怯えるはずがないです。これ信頼。信頼だよ。幻覚ではないはずだよ。
「アルミナ様からはこの薔薇がどのように見えるのですか」
「どれも赤い薔薇よ。赤い糸が絡まっている。でも、黒い糸が巻きついているのもあるわ」
「色に意味があるのかもしれません。魔法というのは何かしらの法則があると聞きます。その目に見えるものが魔法によるものであるのなら、アルミナ様にとって理解しやすい形で効果が表れているのでしょうね」
なるほど私に理解しやすく毛糸玉になっている、と。今のところ色は赤と黒しか見えてないから、大雑把に二種類の何かが見分けられるということなんだろう。
健康優良児のルベウスや、瑞々しい薔薇は赤い糸が太く巻きついて見えるあたり、赤い糸は良いものっぽい感じはする。なら黒い糸はよくないものなのか。そういえば糸が少し細い。赤い糸のような力強さは、黒い糸からは感じられない。直感的に。でもぱっと見だと魔眼オフしてるときの薔薇はどれも同じように見える。どういう理屈?
とげに触らないように毛糸に手を伸ばすと、触れることができた。うーんファンタジー。どういう原理なんだ。考えてもわからんのでひとまずわかることだけ頭に入れよう。触った感触は完全に毛糸のそれ。若干ごわごわしている。
「アルミナ様に見える毛糸というのが触れるのなら、切ったり結んだりということもできるのでしょうか?」
「切ったり結んだりしたら何か起きそうな気がするのだけど……」
「何が起きるのかを知るための実験ですよ」
それはそう。その辺の倫理的問題を無視するための薔薇なんだよな。何が起きても大きな問題にならないようにってやつ。その辺ちゃんと切り替えられるようにならないとやってらんねーんだよな。てか私は何をそんなに悩んでるんだよ。花で実験するだけで何を躊躇することがあるというのか。切り花なんて世話してもいずれ枯れるというのに、罪人裁くときのほうがやりやすいのイズ何。やっぱ私倫理観どっかバグってるな?
気持ちを落ち着けて改めて薔薇に向き合う。まずは赤い糸。ゆるく巻きついているそれをしっかりと指先で絡めとり、少し力を入れて引っ張ってみる。そのまま引っ張り続けると、そのまま糸がするりと外れる。
「は、外れたわ……」
何だろうこの緊張感。ルベウスに見られているからだろうか。別に恥ずかしいものとかではないけど推しと秘密の共有をしてると思うとこう、なんか、心の奥底がざわざわする。これが共犯を誘う気持ち。いや犯罪でもなんでもないんだが。
赤い糸を解かれた薔薇は、みるみるうちに萎んでいく。あからさまに生命力を失っていますねえ! 一度解いた糸は結びなおそうとしても元の花には上手く結べず、薔薇はすっかり枯れてしまった。ほんの一瞬のことだ。ええ、こわ……ホラーじゃん……。
「ふむ……糸はまだ見えているのですか?」
「え、ええ。まだ持っているわ」
「それを切ったり、あるいは他の花には結べないのでしょうか」
その発想どっから湧いてくるのおまえ。目の前の怪奇現象をよくそんなに冷静に分析しようとできますね。推しやっぱ精神が頑強。いやまあ確かにそれをやろうとは思っていたんだけど、私はまだ心の衝撃が取れないぞ。
とりあえず推しの意見を拒否する理由はないので、言われるがまま手元に残った赤い糸を、強く引っ張ってみる。ちぎれる。ちぎれた。ちぎれるんか……なるほどな?
他の花に結びつけようとすると、自然と元の花に巻きついていた毛糸と繋がった。そうなるんだ……。
「ふむ。解いた糸は元には戻せなくとも、他のものに移すことができるのですね。では次の実験を行いましょう」
容赦ないなこいつ。私も私で何か精神的にバグってるとこあるけどおまえも大概だよ。流石恐れ知らず。ドラゴンライダーになるにはメンタル面が頑強じゃないとやってらんねーというわけ。この国やっぱ修羅の国かもしれん。




