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第八章 そんな表情の立ち絵は本編になくってよ!

 それから、なぜかリチャードは王宮の使者を公爵邸によこしては、度々私を誘ってきた。



「リチャード様主催のお茶会?」

「ええ、このあいだのお詫びだそうです。」


「街に遊びに行くですって?」

「先日ご体調が悪かったとのことだったので改めてと……」


「今度は丘でピクニック……」

「どうしてもお越しいただけませんか?」



 だから!リチャードよ!もし目的を達成したいならお前はもっと卑怯な手を使うんだ!馬鹿正直にあれこれ手を変え品を変えするんじゃない!皇妃様を引き込むとか、うちの両親に言いつけるとか、色々あるだろう!

 今のところリチャードは一途な子犬系男子といったところだ。何一つ腹黒要素はない。


「それは私は……」

「そう言うと思って、今度は俺が直々に来たぞ!!」


 気まずそうな使者の足元からチラリと顔を出したリチャードは、年相応ににっこりと笑って見せた。

 ああ!なんてこと。こんな表情の立ち絵は本編になくってよ!


「リチャード王子……なぜ来るなら先触れを出して下さらなかったのかしら?」

「父上に相談したら“レディはサプライズが好きだ”って言われてな!」



 さすがリチャードの父親・レインハルト陛下……。正室の他に側室を5人も抱えており、度々侍女にも手を出して、私生児が何人いるか知れないほどのプレイボーイだ。不倫は文化だと言った芸能人が現代日本にもいたけれど、陛下はあの人にも負けないほど女の噂がたえない。ゴシップ誌にすっぱ抜かれても平然としているところを見ると、肝は座っているようなのだけど……。

 まあ、一説には陛下が政治にさっぱり興味を持たれないのは陛下の代に聖女が出現しなかったからだと言われている。アルステリア王国は国土の大半が肥沃な農地で、海にも面しているので貿易も盛んだ。さらにご都合主義なことに、国境は山と言うか人が登れない崖に阻まれていて、国境警備もかなり楽。

 国民は、その代にゾンビの脅威があったかなかったか。さらに聖女と協力できたかどうか、でしか国政を判断しないとされている。歴代の国王たちの関心も基本的には聖女とそれにまつわる脅威にしかない。要するにリチャードたちの父親はとんだボンクラということだ。



「陛下がどんなアドバイスをされたのかは存じませんが……リチャード様は第一王子であらせられるのですから、こう軽々と来られても困ります」

「そうか?まあ次からはサプライズにならなそうだから先触れを出すか!」


 だからそう言うことじゃなくって……目の前でニコニコお茶を飲む王子は、私の愛したリチャードではない。顔が同じ分むしろイライラが倍増しそうだ。


「……リチャード様、本日はどのようなご用で?」

「うん、ちょっとエリザベスに用事があってな」


 もしかして回復魔法のことだろうか。皇妃様は秘密にすると言ったけれど、そういえば息子にも秘密にするとは言ってない!発動した時にはまだ知識がなかったようで、ぽかんとしていたから油断していたけど……。くそっ、念には念を入れておくべきだった。


「前にしてくれた吟遊詩人の話があっただろ?」

「ええ?あの時の吟遊詩人のお話ですの?」

「そうそう、その吟遊詩人本人を探してみようと思ったんだけど見つからなくて……。忘れないように絵本にしてみたんだ」


 リチャードが取り出した絵本は、綺麗な絵で私のおぼろげな記憶の話がしっかりとした筋で描かれていた。絵本の出来もそうだけれど、リチャードがあんなに適当に話した物語を覚えていたのも驚きだ。やっぱりなぜか竜は書けなかったらしく、代わりにトカゲ型の実在するモンスターになっていたけれど。


「どうだ?気に入ったか?」

「ええ、えっと……」

「気に入らなかったら困ると思って、宮廷画家全員に同じ絵本を描かせたんだ!どれでも好きな絵本を持ってってくれ!」


 奥から出て来たのは、ありとあらゆる画風で描かれた同じ筋の絵本だった。いやいやいや、ちょっと安心して関心した私がバカだったよ!いくら王子が婚約者に渡すプレゼントだからって、そんなことするか普通!?


「最低の発想ですわ……」

「ん?そっちの方が気に入ったか?」

「最低の発想ですと申し上げましたわ!!書かされる画家の気持ちにもなってくださいまし!」


 リチャードは私の怒りの導火線に火をつけてしまった。私の前世は夢女子でもあるがブラック企業の社畜でもある。時に使うんだか使わないんだかよくわからない資料を作らされ、だいたい使われずに終わってしまう。行けたはずの約束!寝れたはずの昨日!あの時の無力感ときたらない。

 まあ宮廷画家なんて破格の給料をもらっているはずだけれど、結構なページ数の超大作なのだから、そこそこの日数がかかっているはずだ。


「エリザベス?な、何で怒ってるんだ?」

「よろしいですか殿下!この画家たちも他の仕事や創作活動があるはずですのよ!こんなに全部を描かせて試さず、試すだけなら表紙だけで試せばいいんですわ!」

「そんなに怒らなくったって……」

「この絵本を描くのに何日かかったか殿下はお聞きになってまして?」

「知らないけど……」

「いいですこと、街には一日働かなかっただけで飢えて死んでしまう民だっているのですわ!」


 これはちょっと言い過ぎかもしれないけど……。でも、リチャードは反省しているみたいだ。よしよし。


「ごめん、次から気をつける……」

「……でも、この絵本は嬉しかったですわ。大切にいたします」


 並べられてしまうと困るけど、最初の一冊を手にとって胸に抱いた。きっと膨大な試行錯誤の末に生まれた絵本だ、大事にしなくちゃ……。


「おうっ、また土産を持ってくるな!」

「マカロン!次からは王宮のマカロンにしてください!!」


 なんだ、マカロンなんかでいいのか?と言いながらリチャードは無駄に豪華な馬車に揺られて帰っていった。恋愛経験もなかった私が貢がれて怒るだなんて……。前世の私が見たら、ツイッターに「リア充爆発しろ」って呟くだろう。



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