第七章 聖女ではありませんが何か?
リチャードのお誕生日パーティは無事終了した。セーラ様はあの後すっかり大人しくなり、あの後は何も仕掛けてこなかった。
しかし、もちろんパーティー終了後に皇妃様の私室に呼ばれてしまった。場を和ませる能力だけしかないリチャードは不在だ。肝心な時に役立たずだなオイ。
「エリザベス、まずは私とリチャードを助けてくれてありがとう。」
「いいええ…」
「その顔を見ると、発動は初めてだったのかしら?」
回復魔法の使い手は、ごく一部の神官と”聖女”しかいない。この世界では常識であり、例えば怪我をしたからといって回復魔法をかけてもらえる訳ではない。
要するに、私って聖女です!と公言してしまったようなものだ。本物が四年後に来るっていうのに。
「それにしても、リチャードの婚約者が聖女だなんて素晴らしいわ。いつ公表しようかしら?」
皇妃様はすっかり私が聖女であると信じ込んでるようだった。無理もない、それくらい貴重な魔法なのだ。でもダメ、今から聖女としてちやほやされて十六才で全部なくなるなんて、いくらわかっていても耐えられない!!
「皇妃様、恐れながら私が聖女様である可能性は低いと思いますわ。」
「ええ?なぜ?」
いやいやこっちが聞きたいくらいだ。おそらく転生した時にあれがこうなってぐちゃぐちゃっとして私の魔法適正が歪んでしまったのだと思う。異世界転生のチートがこんなところに反映されてしまって、ラッキーとか頭いいとか前世の知識とかに生かされてないんだから本当に嫌になる。
「私、神官様に聞いたことがありますの。聖女様の条件は、異世界から来た少女で、回復魔法をはじめとした聖魔法の適正があり、奇跡の泉から突然現れると。」
「……まあ、そうだったわね。でも、回復魔法が使えるのだから可能性はあるかもしれないわ!」
「……実は、私の遠縁に神官がいるのです。フォンデーヌ家に回復魔法の適正が少しあるのかと。」
「そうだったかしら?うーん、でも……」
「それに!私の予感ですが、聖女様は四年後くらいに現れる予感がしますわ!」
皇妃様はなかなか納得しなかった。そりゃそうである、歴代聖女は王子と結婚し、王妃になる可能性が高いのだ。結婚相手が公爵家で聖女だったら、最強の後ろ盾を2つ得たリチャードは即位待ったなしだろう。
聖女と結婚した王子が国王になりやすい理由は色々あるけれど、一番大きな理由は民の人気がかなり得られるからだろうか。地味〜に戦争を防いだり治水工事に税制改革にと尽力する真面目な王より、派手なパフォーマンスがウケるのはこの世界も現代日本も同じだなあ。
しかし、私は聖女がリチャードを選ぶ可能性に賭けている。もしこの国を救った聖女がリチャードを選んでくれたら、私とリチャードは綺麗に婚約破棄できるだろう。そして、王家以外に嫁いで領地で夫や子供たちと暮らすんだ。
私は何を隠そう、この世界ではできる限り普通の暖かい家庭を築いてみたい。アラサー夢女子社畜で終わった前回の人生からのたっての願いだ。皇妃様には申し訳ないが、日本人が考えた甘々なこのゲームの中でも王妃や皇妃、その他の側室たちはあまりいいシナリオを辿らない。
「四年……やけに具体的なのね。エリザベスは予知の能力が?」
「少し勘が鋭いとは言われますわ!!」
さすがは皇妃様、やや不満げな顔も美しい。私はこの身内びいきだけど、正義感が強くてこの国の誰よりも美しいこの皇妃様が嫌いではない。姑として付き合っていくのも悪くないけれど……残念ながら、王族になる気にはなれない。
「わかったわ、そこまで言うなら待ちましょう。」
「待つ……何をですの?」
「もし、四年後に本物の聖女様が現れたのなら、もちろんその子を聖女とするわ。」
「本当ですか!」
「でも、もし四年経っても聖女が現れなかったら……その時は、神官たちに今日のことを言う。それで良いかしら?」
本当に四年後に来るか不安になってきたが、賭けるしかない。なんだかちょっと違うけれど、この世界は乙女ゲームの世界に違いないのだから。
「もちろんですわ!ご配慮感謝いたします!」
四年だ、四年すれば泉から本当の聖女がやって来る。皇妃様もきっとわかってくださるだろう。