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第五章 猿より猿らしい推し

 それから、婚約発表を逃れようと十才女児なりにあれこれ画策してみたものの、まあ全部失敗した。


 なんで!?普通転生令嬢なんて元の職業に関わらずめっちゃ頭良くて、すごい運もいいじゃない!?私だけなんでダメなの!?


 とにかくリチャードの正式な婚約者になってしまった私は、彼の十一才の誕生日を祝うために王宮へ来ている。あれからそこそこ勉強もするようになったみたいだけど、まだバリバリに解釈違いだ。今日もリチャードは、挨拶もそこそこに王宮の中庭を全速力で走り回っている。


「ああー!リチャード王子があんな高いところに!お洋服が汚れてしまうので本日は木登りをおやめくださいませ!」


 今日も世話役の悲鳴が静かな王の庭にこだましている。庶民より庶民らしく育ってしまった王子に、皇妃様は何を思っているのだろうか。チラリと皇妃様を見上げると、はあっとため息をついた。


「エリザベス……少々強引でしたが、あなたのような聡明なお嬢さんがリチャードの婚約者になってくれて、本当によかったと思うわ。」

「とんでもない、リチャード王子とご婚約だなんて国中で一番の名誉ですわ。」


 一方私は、貴族の振る舞いというものを段々身につけ始めていた。まだ拙いが、そこは十才だし。婚約破棄計画の数々がどれも儚く散って行ったので、最近の私はちょっぴり弱気だ。もしリチャードに嫁ぐなら、皇妃様とは懇意にしておかなきゃいけない。ああ、本当にいやだなあ……。



「あら、スミス王子とセーラ様。本日はリチャードのお誕生日会にお越しいただいてありがとう。」


 皇妃様の少し刺々しい声を聞いて顔をあげると、第二王子のスミスとその母親が到着したところだった。


「お久しぶりでございますわ皇妃様、リチャード王子の健やかなご成長誠に喜ばしく思っております。本日は息子共々ご招待いただきましてありがとうございます。」

「スミス王子とリチャードは兄弟ですもの。本日は楽しんでらして。」

「あら、そちらの可愛らしいお嬢さんはフォンディーヌ公爵家のエリザベス様ではなくて?」


 父親のフォンディーヌ公爵は完全に第一王子派なので、私はこの親子に会ったこともなかったはずなんだけど。そこはしっかり調査済みってわけなのね。


「初めてお目にかかります、セーラ様、スミス様。フォンデーヌ公爵家のエリザベスですわ。」

「まあ可愛らしい!お人形さんのようなお嬢様ですのね!」

「あらセーラ様、エリザベスは可愛らしいだけではなくってよ。聡明で学業も優秀ですわ。」

「そうですのね、この国の王妃にぴったりのお嬢様でいらっしゃいますわ。」


 あ、今“リチャードの妻”でなく“この国の王妃”って言ったな?さすがに私でもわかったぞ。皇妃様はというとピキピキと音が聞こえて来そうなほどご乱心だ。スミスも不穏な空気にオロオロするばかり。まあ十才だからね。


 アルステリア王国の第二王子、スミス・ルイ・アルステリア。リチャードや私と同い年で、紫の髪が印象的なお色気お兄さんである。スミスの母・セーラはクリントン男爵家出身の側室で、その分スミスを王にしようと色々と画策している。スミスのルートはややヤンデレ展開で、何もないけど朝チュンとかスチルの胸チラとかとにかく刺激が多い。

 俺様腹黒が好きな私としては、あんまり興味はないかな。しかも私はエリザベスなので、あまりこの王子と関わりはない。


「そうですわ!皇妃様、エリザベス様、国王様にお借りしたお庭で珍しい品種の薔薇が咲きましたの!ここから近くですのでぜひ見にいらしてくださいな!」

「まあ、機会があれば拝見いたしますわ。」

「皇妃様はお忙しくてらっしゃるし、エリザベス様はいつも王宮にいらっしゃる訳ではないでしょう?ぜひ今見に来てくださいな!」


 この人、空気読めないのかな……。執拗なお誘いに皇妃様が折れる形で、珍しい薔薇とやらを見に行く羽目になった。リチャードは呼んでみたものの、木の上から降りてくることはなかった。私たちが化かされているだけで、あれは猿か何かなんじゃないだろうか。


 息子は言うことを聞こえる範囲にすらいないわ、第二夫人は国王様の庭を勝手に間借りして薔薇育てたとか言うわで皇妃様のご機嫌は過去最低である。この後国王様が来た時にどうにかなればいいんだけど。なぜだかセーラ様が皇妃様の横にべったりくっついて離れないので、スミス様と肩を並べてご自慢の薔薇まで歩く。


「エリザベス様……初めまして、スミスです。」

「初めまして、エリザベス・フォンデーヌですわ。」


「エリザベス様は、恋をしたことがありますか?」


 ええっ、この十才児……何言ってくれちゃってるの?


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