幕間 「魔王」
丘の上に一人の青年が立っている。
彼は大木に背を預けている。
風が吹く
若葉の瑞々しい香りが運ばれてくる。
しばらくその場でのんびりしていた青年はハッとし、後ろを振り向く。
しかし、その場にあるのは大木だけだ。
――違う
青年が感じた気配は決して大木では無い。
〝彼女〟の気配だったはずだ。
しかし、視界には大木しか映らない。
声が聞こえた気がする。
――あり得ない
そう、あり得ないのだ。〝彼女〟はもういない。
いるはずが無い。
そんな風に否定する自分がいる。
しかし、しかしだ。
あの日、あの時、あいつはどんな顔をしていた?どんな目だった?
あきらめていたのか?
いや、あいつは何か隠していた。決してあきらめていなかった。
何かやっていた。
それが何かは分からない。分からないが、絶対にあいつはやっているだろう。
――死は絶対だ
あぁ、確かに死は避けられないだろう。
死んだら終わりだろう。
例外などなく、死者は蘇らない。
魔法でも、それは絶対だ。
死者蘇生も、復活呪文もない。
でも、〝彼〟は、〝彼女〟は『本物の魔王』だ。
俺の様な偽物の、仮初の魔王ではない。
だから、もしかしたら
そう思いながら、ふらふらと大木に寄って行き、触れる。
――期待するだけ無駄だ
そうかもしれない。
でも!
あれ?おかしい。この木は何だ?
確かに俺はこの木に寄り掛かっていた。
だがもっと前だ。
あの時、この木は在ったか?
あの時、ここには何があった?
木だ。
でも、こんな太く瑞々しい大木では消しってなかった。
朽ちかけていたはずだ。
じゃあ、これは?
この木は一体……
『やれやれ、やっと気が付いたか』
そんな声が聞こえた。
聞きなれた〝彼〟の声と〝彼女〟の声が被って聞こえる。
涙を堪えながらもう一度前を見る。
そこに大木は無く、ただ一振りの白い剣が在った。
何故だろう?
本編が進まない……