異世界へ飛び立つ
昔話の締めに、「声」はこう続けてきた。
『と、まあ、陰とは国1つを単体で堕とせるだけの力の保有者です』
それだけの物を一撃で消し飛ばしたあの光と、それを使ったこの「声」は一体何者なのかという疑問が出てきた。
それが顔に出ていたのか、心を読まれたのか分からないが、律儀にも「声」はその疑問に反応してくれた。
『おや?何か疑問でもありそうな顔ですね。あぁ、私の正体が気になるのですね?』
少しだけ笑うような気配の後に、答えようとする。
『私の正体はですね……え?なに!?これは、エラーコード??でも、なんで?私の権限を上回るのなんて……』
返ってきた返答は、しかし望んだものではなく、むしろ切羽詰まった声だった。
『と、とにかく!あなたへの支援が出来なくなりました!な、なので、この世界において最強になれる可能性を最も持っている特殊な職業に就いてもらいます!!』
最強だとか言われても分からないし、転生するつもりも無いというのに、「声」はさらにまくし立てる。
『今の私ができる最高位での転生です!ヒト種を召喚、使役して戦えます。強化などの様々な魔法も使いこなせるので仲間と戦うなら最強です!!』
後半の言葉に嫌な予感が警鐘を鳴らす。仲間が必要なのか?
自慢じゃないがMMORPGなどでは国内最大級のゲームですらソロでやっているし、リアルでは、本物の友人がいなかったのが死因だというのに、そんな人間にパーティー専用の職業に就けというのか?
絶対に無理だという事を言おうと思い口を開き、驚く。
――声が出ない。
しかし、「声」はこちらの驚きなど無視して言葉を続ける。
『あ!そうです、剣を、剣を貸します!!銘は『人魔剣「ヘルヴェティア」です』
あれ?今、他の声が聞こえた気が……
『それでは、剣と魔法が支配し、魔物や魑魅魍魎が跋扈した世界。人と魔族の対立により争いの絶えない世界へ。異世界へ行く準備は出来てますか?』
できてないのだが……
そんな不安を抱いていると、心配するなという声が聞こえたような気がしたのだが、ついに幻聴まで……
『まあ、準備出来てなくても行ってもらいますがね』
ボソッとそんな言葉を「声」が発したと同時に視界が白く染まった。
そして、「声」が聞こえる。
『「さあ、蒼穹を駆けようか」』