むかしむかし
むかしむかし、神に愛され、祝福を受けた肥沃で美しい土地があった。
あ!むかしむかし、と言っても私たちが生まれた時という程ではなく、ちょうどヒトが火を使い始めたころの話。
そこで初めて『人殺し』が起きた。いや、ここがこの世界で初めて『同族殺し』が起きた場所であり、この伝承から、人殺しと同族殺しという言葉と概念が生まれた。
もともと、殺しというのは狩りの時にしかやらない事だった。それが起きるのは本来あり得ない事だった。
なぜ、『人殺し』が起きたのか、それは私たちも分かりません。ただ、気が付いたらそこは
――地獄に変わっていた。
神に祝福され、綺麗な花が咲き誇っていて、ここが地に顕現した天界、天国だとしても疑う者のいなかった美しい世界は一変し、辺り一面が赤く染まった。
見渡す限りに咲き誇っていた色とりどりの綺麗な花は血の海に沈み、腑肉が、臓物が、頭が、細切れになった“誰か”が散乱していた。
生きとし生けるもののいない、まさに地獄。そんな場所にただ一人立ち尽くすものがいた。
この惨状を作り上げた張本人だ。
いや、彼をもうヒトと表現するかは分からない。
彼はすでに死んでいた。いや、死んでいなくてはいけないのだ。
人殺しの罪で殺されていたのだから。
――しかし、彼は動きを止めない
――決して倒れることは無い
――すべての存在を否定し、消し去るまで
彼こそが、この世界に現れた陰の最初の一人。
この世界を侵食し蝕むただの害悪へと成り果てた最初の犠牲者です。