空の中
気が付くと空の中に居た。
飛行機に乗っているわけでも、高い場所から飛び降りた訳でも無い。
というか、ここが空なのかすら分かっていない。
上も、下も、右も、左も、何もない。
ただ、澄み渡っている蒼穹の様な、紺碧の空を幽霊の様に漂っている。
光が見えた。
その光に手を伸ばす。
その瞬間、大量の情報が頭に直接流れ込んでくる。
まるで、一人の人間の人生を丸ごと覚えさせられたかの如く濁流みたく流れ込んで来る所為で脳が悲鳴を上げる。
果たして、漏れ出す苦痛の声。
どれだけの時間、知識の波に吞まれていたのだろうか?一年ほど長いように感じていたのだが、本当は一瞬だったのかもしれない。
とにかく、その苦しみも終わった。後に残ったのは、これは、人間に対する、怨み?それに、憎しみ。そして、恐怖だろうか?
どうしようもない程叫びだしたくなるような感情に襲われる。
これは怨み?憎しみ?恐怖?
涙が頬を伝い、落ちていく。
何故、涙が流れてしまうのだろうか?どうしてこんなにも悲しいのだろうか?
分からない。それに、おかしい。こんな感情を持つことなんて無かったはず。心当たりが在るとすれば、それはあの記憶だろう。
『おまえのせいだ』
え?だれ?
声が聞こえた気がする。でも、何もない空間であるここには誰もいないはずだし……
『おまえがすべてわるい』
後ろから声が聞こえてくる。
振り返るが何もない。
『おまえさえいなければ』
今度は横からだ。
しかし、やはり何もなく、空が続いている。
『わかったか?』
下から聞こえる。
もちろん、何もない。
いや、何か違和感が……
足には影の様な物が……
これは、何だ?
『おまえの咎だ』
その言葉と共に、足が引っ張られる。
これは「影の手」だ。この黒い靄は手なのだ。実態が無いように視えるのに、振りほどこうとしても万力のような力で締め上げ、離れない。
足掻く。足掻く。足掻く。
悲鳴を押し殺し、恐怖にすくみそうな自分を叱咤しながら、逃げる方法を探す。
『おまえが、おまえが』
どんどんと引きずり込まれていく。逃げ出す方法は未だに分からない。分からないが、何かを思い出しそうな気がする。一体何を?いや、そんな事を考えている時間はない。このままじゃ逃げられない!
『「シネ」』
この言葉、どこかで聞いた気が……
どこだ?思い出せない……、思い出してくれ!
『消えなさい!【ジャッジメント】』
凛とした声と共に、天を染め上げるほどの光量を持った光の柱が乱立し……
―――雷鳴
轟音と共に雷が辺りを包み込んだ。