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私の青春の一区切りとしてー…

なるほど、引きずり込まれるのもわかる。

大自然と口にしてしまえば簡単に思われるが、実際目にすれば否応なく、そんな事を感じさせられる。ー


もういい時間だから帰ろうかと思うのだけれど、それが正しい事なのか、全くもって怪しく思えてくる。

いっそ海に還ってしまおうか?

空も見えるが、とてもそこが自分のもと来た場所の様には思われない。


受け入れてもらえるだろうか?

溺れる事が苦しいのは百も承知である。だけれど、それが自然の厳しさだと、どうして言えるだろう。

これから一生涯、感じていくであろう生きていく事の苦しみを、窒息による一括払いで全て請け負ってくれる。

それは海の優しさかもしれない。


長いこと海辺を歩きながら、打ち上げられた岩を超えてくる大きな波、手前で引き返していく小さな波を、見るでもなく見ていた。


砂浜に落ちている無数の貝殻が、今はもう朽ちてしまった動物の骨の様に見えた。

その一つ一つは、とても同じ種類のものとは思えない程に形に統一感がなかった。

平たいものから分厚いもの、何層にも折り重なったような模様をしているものなど、様々である。

そもそも同じ種類のものではないのかもしれない。

その中の一つを拾って砂を払い、ズボンのポケットにしまった。


浅瀬の中程には、鳥達が群れを成して止まっている。

それは遠目に見ると逆光で黒く見えるが、実際は白い鳥なのだ。


波が押し寄せる度に、そのアブクが弾けて音が鳴る。それが時々、人の足音の様に聞こえて何度も振り返った。

人の影は遠くの方で黒くなっている。


波打ち際に白いものが打ち上げられていて、海鳥がそれに近づき、また離れていった。

誰かの捨てていったゴミだと思われたそれは、近づいて見ると鳥の死骸だった。

おそらくは自分と同じ種類の鳥であろう、それを見たさっきの鳥は、その時、何を想ったのだろう。

傍目には何かに頓着している様子には見えなかった。


砂浜には細いタイヤの轍が二本あり、何処までも続いていた。

出来る限り遠くまで見渡してみても、その轍を引いた何物かは見付からなかった。ー


いい加減歩き疲れて、砂に足を取られるのが苦しく思えてきた。

何処へ、かえろうかしら?

日はさっきより少しだけ傾いている様に見える。

風が妙に冷え切って感じられて、さっき買った缶コーヒーの温みなど、今更あてになるはずも無いのに、思わず握り締めてしまった。


家に帰る事に決めた。


寒さに少し震えながら、歩き続けた海辺を引き返すのかと思うと気が重くなったが、実際に引き返してみれば何てことはない、すぐにまた入り口まで戻ってきた。

さっき見た人影も、まだ残っている。


もう一度振り返るとそこには、暮れかけた空と、浅瀬にたむろする鳥達と、押し寄せる波の音とがあった。



また来ようと思った。

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