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97 魔王、夜に異常な体験をする

「――というわけで、事務作業のペースも落ちていたのだ……。ワシの肉体にもガタが来たのだろうか」

「なるほどね。魔王も傷つくことってあるのね」

 ワシのことを心配してくれるのか。腐っても娘だな。


「魔王といっても心ない言葉には意外と傷つくもの――覚えておこ」

「攻略法として記憶しようとするな!」

 勇者なんだし、もうちょっと他人に対してやさしくなるべきだ。


「魔王も納得してないようだけど、私も老化にしては不可解な気がするわ。もっと、別の理由がありそう」

「だろ? これは断じて老化ではない!」


「けど、魔王にとってそこまでつらい出来事だったのね」

 ふふふっとアンジェリカは笑った。

「だって勇者の私にまで話してくるんだもん」


「違うぞ、勇者のお前ではなく……魔王の皇太子であるお前に相談したのだ」

「そこはこの際、勇者でいいじゃない」

 アンジェリカが頬をふくらました。


 本当のことを言うと、「勇者のお前ではなく、娘のお前に相談したのだ」と言いたかったのだが、照れくささに負けた。

 いい歳をして、ワシの心もまだまだ未熟だ。


 そんな折、勝手口からレイティアさんが出てきて、手を振った。

「二人とも、ごはんよ~」



 原因はわからないまま、夕食の時間になった。魔族系のシチューだ。

「おおっ! レイティアさん、魔族の味を完全に再現されてますな! お見事です!」

 レイティアさんの料理は相変わらず、非の打ちどころがない。


「ありがとうございます♪ おかわりもたくさんありますからね~」

 一方で、アンジェリカはやけに慎重にシチューをすくって内容物を確かめている。魔族の料理だからって虫が入ってたりはしないぞ。レイティアさんに変なものを食べさせるわけにはいかん。


「ママ、料理に聖水を使ったりはしてないよね?」

 アンジェリカの言葉に、はっとした。


「魔王がさ、なんか弱くなってるの。もしかして、食材のせいかなと思って」


 アンジェリカのやつ、ワシが不調であることを気にしてくれているのだ。

 うれしい。レイティアさんにやさしくされるのとは別種のうれしさがある。


 あと、アンジェリカの想定が当たりである可能性はおおいにありうる。

 聖水の中でも最高品質のレナールの泉の水を二人のために取り寄せていた。本来は飲料用だが、それをレイティアさんが食事に使っていたのかもしれない。


 しかし、レイティアさんは不思議そうに首をかくんと傾けた。


「そんなことはしてないわよ~。聖水がガルトーさんにとって毒になることはわたしも知ってるし。飲み水ぐらいでしか使ってないわ。お皿洗いに使う水だってもったいないから、当然井戸水だし」

 だとすると、ワシの口に入る可能性はないな……。


「じゃあ、お風呂で使ってる水は?」

「それこそ、聖水を使うだなんてもったいないことはできないわよ。どれだけガルトーさんに買ってもらっても足らないわ。そんなの王様ぐらいにしか無理な贅沢よ」

「魔王は王様と言えば王様なんだけどね……」


 うん、王の割にはつつましやかに暮らしています。レイティアさんは消費をしまくることを好む性格ではないので、日々の生活を少しよくする程度に留めている。


 とにかく、どうやら聖水の問題ではないようだ。


 ただ、聖水のように直接的にワシの体に効くものが原因というのはありえそうではある……。


「あっ、そうだわ。最近変わったことといえば、あれがあったわね~」

 ぱんとレイティアさんがゆっくりと手を合わせた。


「いったい何ですか、レイティアさん?」

「ほら、わたしとガルトーさん、同じ部屋で眠ることになったじゃない」

 これにはワシもアンジェリカも顔を赤くした……。


 うん、そうだ……。そろそろアンジェリカもワシに慣れてきたと思ったし、あと、前妻のササヤにも会ったということもあって、少し前から同じ部屋で眠ることにしたのだ。


「ここ最近の変化と言えばそれぐらいしかないわ~。それじゃないかしら~♪」

 何の恥ずかしげもなくレイティアさんが言うので、余計にこっちが恥ずかしくなる!


「はぁ? じゃあ、ママがサキュバスみたいに魔王の力を吸い取ってるとでも言うの!? バカらしいわ! 魔王が義理の父親だと思ったら、今度は母親がサキュバスだったってわかったとか? そんなわけないでしょ!」


 アンジェリカは席を立って、自分の部屋にこもってしまった。

 まあ、けっこうハードな話題ではあったよな。


「あららら。アンジェリカにとっては嫌な話題だったのかしら~」

「それはそうですね……。極力、この話題は出さないことにしましょう……」


 何も言わなければ黙認するけど、かといって、話題にはしてほしくないことってあると思う。これって、なし崩し的に同じ部屋で寝てるということにしておかないといけなかったのだ。


 まあ……自分の親の性生活(に近いこと)が話題になってうれしい子供はいないよな……。


 ワシとしても協力してくれていたアンジェリカにダメージになってしまい、多少の申し訳なさがある。


「それで、人間に密着すると、魔族って体が弱ったりするものなんですか?」

「いえ、決してそんなことはありません。レイティアさんが毒だなんてことはありえません!」


 その説は成り立たないのは間違いないとして――

 結局、何がワシの弱体化の原因って何なんだろうな?



 その日、ワシはいつもどおり、眠りについた。

 同じベッドのすぐ隣には当然レイティアさんがいる。

 それだけで無茶苦茶幸せだ。今日は変なことはしてないぞ。


 あと、疲れがたまりやすいのは本当なのか、ワシの中では早めに睡魔がやってきた。

 なお、この場合の睡魔とは魔族のことではなく、眠気という生理的現象だ。夢魔とも呼ばれるナイトメアいう魔族はいるが、また別。


 窓からは虫の鳴き声もするが、騒々しいというほどではない。むしろ、ほどよい雑音になって、眠りにいざなってくれる気すらする。


「おやすみ、レイティアさん――あっ、もう寝てますね」

 レイティアさんから寝息が聞こえてくる。レイティアさんは 不眠症という概念を知らないのかというほどによく眠る。その代わり、朝も早いので寝すぎなどではないのだが。


「くぅ……ガルトーさん、今日は大胆ですねぇ……」

 うわ、どんな夢見てるんだ!


 ワシもかなり疲れていたのか、すっと眠りに落ちていった。


 ――しかし。


 何かまぶしいものを感じて、ワシは目を開けた。

 もう、朝か? そんなに時間がたった気はしないのだが、それだけ深い眠りだったということだろうな。


 しかし、窓を見ると、まだ闇だ。月の明かりもほとんどない。

 では、ワシは何の光を感じたのだ?


 その答えはすぐそばにあった。


 レイティアさんの体がほのかに発光していた!


 いつもレイティアさんはまぶしいと感じていたが――


 比喩ではなく本当にまぶしかったのか!


ニコニコ静画でもコミカライズ3話あがっています! よろしくお願いいたします!

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