表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/178

95 魔王、仕事の能率が落ちる

今回から新展開です!(章タイトルはもう少し話が進んでからつけます)


「すいませ~ん。開けてください! 手がふさがってるんです!」


 この間の抜けた声は任期付き臨時職員のフライセだ。

 トルアリーナは全然知らん顔で書類に何か書き込んでいる。

 むしろ、聞こえないふりをしているという可能性すらある。


「おい、トルアリーナ、こういうのは秘書がやることだと思うのだが――」

「今、忙しいのであとにしてください」

「いや、秘書が――」

「申し訳ありませんが、忙しいので」


 しょうがないので、ワシが立ち上がった……。

 たしかに同じ身分の奴が並んでると、誰が来客の応対をするかとかで、微妙な駆け引きの間ができたりするのだが、秘書なんだから、そこはちゃんとやってほしい。


 でも、直接、文句を言う勇気もあまりない。

 今日はトルアリーナ、機嫌悪いよな……。応援してるアイドルの脱退でもあったのか?


 ドアを開けると、本当にフライセは両手に書類の束を抱えていた。

「ああ、よかった~。重くはないんですけど、デカいのが混じってて困ってたんですよ」

 たしかに、束の上に大きな丸めた紙が載ってある。

 こいつのせいで視界が閉ざされたりしていたのだろう。


「このデカい紙は何だ? ポスターか?」

「そうです、そうです。医療衛生省から配布されたものです。各部屋に貼っておいてほしいとかで。食中毒の注意喚起らしいですよ」

「魔族ってそんなに食中毒は起こさんはずだがな」

 人間と違って、魔族は体からしてタフなのだ。


 ワシは床にポスターを広げてみた。


===

聖水にご用心!


人間との争いがなくなったことで、人間の土地に行く魔族も増え、中毒になるケースが相次いでいます。

一部の高級な飲食店や教会などでは、神官たちによって聖別された水、つまり聖水が利用されています。これは魔族にとって極めて有害です。絶対に飲まないようにしましょう。


とくに以下の聖水はとくに清らかなので危険です。

・レナールの泉の水

・フスタ大聖堂の水

・第六使徒教会の水


医療衛生省

===


「ああ、なるほどな……。そういうことか……」

 清らかな水に気をつけろというケースもあるわけか。


 といっても、清潔な水が魔族の体に有害というわけではない。魔族だって泥水は飲みたくない。清潔な水と聖水はまた別なのだ。


 聖水とは、人間にとって邪悪と考えてられていたものを祓うのに用いられてきた水の総称である。


 その中には魔族に威力を発揮するものも含まれている。

 かけられたからといって、弱いモンスターであるスライムなどの類でなければ体が溶けるなんてことはないが、飲めば健康被害は十分に出るだろう。臓器までは鍛えられんしな。


「これは重要なことだな。トルアリーナ……ではなくてフライセ、そっちの壁に貼っておいてくれ」

 今日のトルアリーナに頼むのは少し怖い。その点、フライセという選択肢ができたのは素直に歓迎するべきことだ。


「魔王様は人間と暮らしているわけですから、ことさら注意するべきですね」

 書類に視線を落としながら、トルアリーナが言う。結局、聞いていたのか。


「まあな。実際、レナールの泉の水はレイティアさんのために買ったりしてるし。体の老廃物を外に出す効果があるとか」

「そこまでしてるんですか……」

 トルアリーナはあきれてるな。でも、半分ぐらいは妬みだというのを知っている。


「飲むだけで美容にも効果があるなどと謳われている。そこまでいくとうさんくさいが、健康にいいのは本当だろう。レイティアさんがさらに美しくなるなら、ワシはなんだってするぞ。ついでにアンジェリカも冒険者をしてる時は食事のバランスが偏るし、いい水を飲んだほうがいい」


 トルアリーナに言っても、「黙れ、ノロケ」などと返されるのがオチなので黙っておくが、ここ最近、レイティアさんはさらに美しくなった気がしている。


 ワシも男だからな。異性の目があると、格好にもより意識がいくのだろうか。

 そういえば、魔族の中でも男子校も女子校も獣の集まりみたいなところだと聞くしな……。異性がいないと、いろいろ雑になる。いやいや、レイティアさんはもちろん出会った時から美しかったが!


「近頃のレイティアさんは美しさのせいか、光り輝いて見える時すらある」

 まあ、アンジェリカが勇者であるということは、その母親のレイティアさんも特別な存在と言っていいし、なんら不思議はない。

 アンジェリカに関してはけっこう邪悪になってきてる気がするが……。


「はいはい、アツアツでよろしいことですね。爆発魔法を自分にかけて爆発してください」

「お前は秘書なんだから、魔王を呪うな」


 やっとトルアリーナは顔を上げた。

 少しイライラしている時の顔だった。こいつ、機嫌悪いことを自覚しているのだろうか。自覚しているんだったら、対策を講じてほしい。ワシのほうから何か言うとかえってキレられる。


「呪いたくもなりますよ。ここ最近、魔王様の仕事の能率が微妙に下がってるんです。そのサポートを私がやってるんですからね」

 げっ、まともな職務上の理由だったか。

「マジか……。それはすまなかった……」


 そういや、最近、有休をとることが多かったしな。それの挽回がまだ間に合ってなかったのかもしれない。


「私から見ると、集中力が以前より落ちているというか、疲れるのが早い気がします。歳ですか?」

「ストレートに言うな。まだまだ、若い。体力的には問題ない」

 人間基準だとすごい年齢だろうが、魔族からすればどうということのない次元だ。


「若さを強調しだしたら老いのはじまりですよ」

「あ~、それはわかります、わかります。若者は若いことを言ったりしませんからね~」

 フライセまで同調してきて、多数決でこっちが少数派になった。女性二人、男一人の環境だとこういう時に不利である。


 くそ……だって若くないとは言いたくないじゃないか。

 かといって、今ので「そうだな、歳だな」と言っても、「老いのはじまりですね」と返されたはずだ。つまり、否定しても肯定しても同じ目に遭ったのだ。ワシは絶対に破れる落とし穴にはまっていたのだ!


 ワシは自分の机についた。

「老いなど感じさせないほどの仕事っぷりを見せてやるわ!」

 衰えてないことを形で示してやるぞ!


 ――ただ、一時間後。

「あれ……。思ったよりも進んでないな……」

 こんなの、今までなら気合いを入れなくても、だらだらやっててもできていたレベルのことのはずなのに。


 ワシはちょっとショックを感じた。

 本当に老いで能力が落ちてきているのか?

活動報告に2巻の表紙をアップしております! また、コミカライズがニコニコ静画の漫画ランキングで週間ランキングの何か(うろ覚え……)で1位になりました! 本当にありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ