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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王、娘が他国の勇者と戦うことに心配する編

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94 勇者、勇者対決に勝利する

 ちょんちょんとレイティアさんがワシの肩を叩いた。

「あの、ガルトーさん。アンジェリカって、鎧や鉄仮面の呪いで操られたりしちゃってます? 鉄仮面には髑髏マークもついてますし」

「ああ、そう見えますよね。そのお気持ち、わかります」

 娘があんなことを口走ってたら、普通は心配しますよね。


「ご安心ください。精神に作用するような呪いは何もないです。あれは完全に正常なアンジェリカです。気分が高揚して言いたいことを言ってるだけです」


「あ~、そうなんですね。だったらよかったわ~」

 レイティアさんは楽しそうにうなずいていた。

「冒険者ですものね。強い装備が手に入ったらはしゃいじゃうわよね~」


 レイティアさんは心が広い。これも多分、母性というものだろう。


 ただ、それを聞いていた魔法使いのセレネが頭を抱えていた。

「わたくし、めまいがしてきましたわ……」

「セレネ、アンジェリカはおそらく一種の中二病的な傾向があるのだ。鉄仮面のおかげで顔も隠れるしな。顔が見えない分、好きなことを言っているんだと思う」


 あと、ずいぶん前から、あいつ、魔族の刀工が作った剣を使ってるしな……。天剣山であいつが見つけた(ことにした)剣だ。

 なので、アンジェリカはこれまでも魔族サイドの技術は利用しているのだ。それは本人には言ってないけど。


「魔族に魂を売ったなんて、勇者の風上も置けません! 勇者アンジェリカ、僕がその性根を叩きなおしてやります!」

 公国の勇者コククが剣を抜いた。


「はははははっ! 魂を売る? どこの店でそんなことができるの? 魂なんて売れるわけないでしょ。私は私、死ぬまで、いいえ、死んでもアンジェリカよ!」

 かっこいいセリフなのか悪役のセリフなのか謎だが、本人がノリノリなのは間違いない。


 あいつ、思った以上に魔王の適性があるな……。

 まったく問題なく、魔王の地位を譲れる気がしてきた。


「ふん! 僕は闇堕ちした勇者になど負けませんよ!」

 勇者コククは剣を抜いて、アンジェリカに斬りかかっていく。


 その動きはたしかにかなり洗練されているものだ。

 勇者になるだけの資格はあると言っていい。だが――


「遅いわ!」

 アンジェリカが振るった剣の一閃いっせんで、勇者コククははじき飛ばされていた。

 コククの悲鳴が響き渡った。

 その声には自分が弾き飛ばされたことが信じられないという驚きも感じられた。


「つまらないわね、コクク。あなた、私のこの姿を見て、心中穏やかじゃなかったでしょう? そのせいで動きに隙ができていたわ。勇者たるもの、みんなの手本として、常に堂々としていなければダメなのよ」

「今の君にだけは言われたくない!」


 僧侶のナハリンもうなずいていた。パーティーの仲間からの評判は悪いらしい……。

「コクク、覚えておきなさい。理想を語れるのは力のある者だけなのよっ!」


 アンジェリカがすかさずコククのふところに入り込み――

 まりでも叩いたみたいに、剣で見事に吹き飛ばした。


「喰らいなさい! これが理想を語り、実現できる勇者の剣よっ!」

「ぐああああぁっ!」


 それで勝負はあった。王国の勇者アンジェリカの勝利だ。審判役がアンジェリカの名前を告げた。

 うん、これでアンジェリカの名誉は守られた。

 ……いや、名誉は守られたのかな?


 でも、勇者の勝利に王国の民衆はそれなりに湧いていた。

 勝てば官軍ということだろうか。



 公国の勇者を見事に退け、自身の危機も乗り越えたアンジェリカだったが、周囲の評判はあまりよくなかったらしい。


 後日の夜、アンジェリカは不満げな顔をしていた。


「なんかさ、今日、セレネとナハリンに叱られたの。魔族の装備はともかくとして、発言が勇者らしくないって……。もっと勇者らしい振る舞いをしなきゃいけないって」

「そっか……。たしかに、なかなかラディカルな部分もあったと思うしな……。勇者がしゃべると、おかしいんじゃないかと言われるのかもな……」


 おそらく、力こそ正義みたいな要素が怒られたのだと思う。

 それは、わからんでもない。魔王のワシが言ったほうがしっくり来るとは思う。


「やはり、表面上は愛のために戦うとか言っておくべきなのだろうな。きれいごとだとは思うが、そのほうが印象がよくなるだろう」


「けどさ、私、愛のために戦うだなんて考えたことないわよ。今はとくに好きな人なんていないし。力が正義って部分があるとは前々から思ってたし。少なくとも力が悪だったら冒険者は悪人ってことになりかねないし」


 アンジェリカは素でそう言っていた。

 とくに偽悪的な意識など持っていないらしい。


「うむ、アンジェリカよ」

 ワシはアンジェリカの肩をぽんぽんと叩いた。

「お前は本当に魔王に向いている。魔王の皇太子として、これからも頑張ってくれ」

 こいつ、魔王になるために生まれてきたような女だ。今回の一件でそれがはっきりとわかった。理想論を語り続ける勇者より、よほどこの世界のためにもいいのではないか。


「私、基本的に勇者としてやっていきたいんだけど……」

「魔王はお前にとって天職だ。将来は魔族と人間の橋渡し役をやってくれ」


 アンジェリカが渋い顔をした。

 いくらなんでも強引だっただろうか。あくまでも勇者だというプライドがあるだろうか。


「でもさ……魔王っていつも事務仕事でひいひい言ってるイメージあるのよね。魔王をやるのって、すごく大変そう……」

 こいつ、魔王をやるかの基準、事務があるかどうかなんだな。


「まあ、事務の仕事は多いが……」

「じゃあ、やっぱり勇者がいいわ……。事務って私が最も苦手なものの一つだし……。この国の半分をあげますって書類にあっさりサインしちゃいそうだし」


 それはたしかに恐ろしい事態だ!


「……事務の仕事は、部下に丸投げできなくもない。むしろ、丸投げしたほうがいいかもしれんな。魔王は細かい作業には関わらんぐらいのほうがいいという意見もある」

「それだったら、魔王をやってもいいかも」


 魔王アンジェリカが誕生する可能性が少し現実味を帯びてきた。


 勇者をやめるのは嫌だと言うだろうけど、勇者も兼任だったらOKするのではないだろうか。



魔王、娘が勇者と戦うことに心配する編はこれでおしまいです。次回から新展開です!

コミカライズ、ニコニコ静画さんでもはじまりました! ぜひごらんください! 詳しくは活動報告をごらんください!

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