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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王、娘が他国の勇者と戦うことに心配する編

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89 魔王、娘が決闘を申し込まれて焦る

今年もよろしくお願いいたします! 6日からマンガワンでコミカライズ開始します!

「あ~、公国の冒険者の決闘の申し込みか~。何度かそういう話が来たことがあるわね」

 やっぱり、来ていた!

 あんまり、勝負を繰り返すとケガの危険が高くなる……。

 古来、決闘で死亡した冒険者など枚挙に暇がない……。


「でも、これまではすべて断ってきたわ」

「むっ、そうなのか」

 もしかして、自信がないからキャンセルしてたんだろうか?

 でも、アンジェリカの性格ならそれはなさそうであるしな……。


「だって、魔族と戦うのが最優先でしょ。なんで、公国の奴が名を上げたいってだけの話に付き合わないといけないのよ」


 思った以上に正論だったので、なんかワシまで誇らしくなった。

 たしかに勇者の本分を考えれば、人間の国と戦ってもしょうがない。そりゃ、そうだ。そのあたりの自覚はあったのだな。


 あれ、待てよ。

「じゃ~、今は魔族との戦争も終結したし、アンジェリカも心置きなく戦えるわね~♪ はむっ」

 ほわほわした様子でレイティアさんが言った。

 最後の「はむっ」はまたパンをくわえた音だ。

 そうだ……。レイティアさんの言うとおりで、公国の奴らがやってくるのでは――


 そこにドアがどんどん、どんどんとノックされた。

「はいは~い。今、行きますね~」と言うレイティアさんをワシが制した。


「念のため、家長のワシが行きます。美しいレイティアさんに不埒なことを考えてる輩かもしれませんからな」

「魔王、私だって美しいでしょ。ちゃんと数に入れなさいよ……」


 変なところでアンジェリカが突っかかってきた。

「いや、お前は勇者だから勝てるだろ……。とにかく、ワシが出る」


 ドアを開けると、それなりに目鼻立ちの整った若い男が立っていた。

 なんだ? 冒険者の服装のようにも見えるが、あまり見慣れない様式だ。


「いったい、何の用かな? 新聞なら間に合っているが」

「ここがマスゲニア王国の勇者、アンジェリカさんのご自宅でしょうか?」

 その表現が少しばかり気になった。

 王国の人間なら、王国の勇者と言う必要はないだろう。


「はいはーい。私よ、私ー」

 奥からアンジェリカの呑気な声が聞こえてきた。

 お前、勇者なんだから威厳のある態度をとらんか。


「ああ、よかった。合ってましたか」

 男はほっとした表情になって、改めてワシの顔を見た。


「僕はサントレ公国の勇者です」

 胸の前に片方の手を置き、男はあいさつの姿勢をとる。

「勇者同士での腕試しを申し込みに来ました」


 その表情はなかなか自信に満ち満ちていた。多少、驕慢きょうまんな面もあるが、それも若い盛りの連中にありがちな稚気とでも考えれば、かわいげもある。


「僕の名前は勇者コクク。サントレ公国では十年に一人の逸材と言われてきました」

 十年に一人の逸材ぐらいだったら、毎年そう言われる奴出てきそうだな……。一生のお願いって毎年言う奴がいるようなもので。


「これまではマスゲニア王国は魔族との争いの最前線でしたから、自重して腕試しにも来ていませんでした。ですが、その争いも終わったはず。両国の勇者、どちらが強いか決着をつけたいと思っております!」


 言葉づかいは横柄なものではないが、その目を見て、こやつの考えはすぐにわかった。

 アンジェリカ程度になら勝てると思っているな。


 たしかにアンジェリカは小娘と言えば小娘だ。これまでもセンスだけで強引にのし上がってきたようなところがある。

 これはあくまでも褒め言葉だ。でないと、こんなに若いまま勇者にまではなれん。


 しかし、それは逆を言えば、歴代の勇者の中でも、御しやすい存在ということでもある。若さゆえに経験が浅い、だからそこを突けば脆いところも出てくる。


 こやつも今の王国の勇者になら勝てるはずだ、名を上げるチャンスだと考えているのだろう。


 このコククとかいう奴の実力はよくわからんが、アンジェリカと戦わせるのは、ちと不安だ。こいつもまだまだ若いが、二十歳前半ぐらいだろう。冒険者としての活動期間だけなら、アンジェリカの倍以上の長さがあるのではないか。

 いくら平和な公国の者とはいえ、アンジェリカよりははるかに経験豊富と見るべきだろう。


 どうしたものか?

 ここは魔王であるワシが代わりに決闘を申し込んでやろうか?

 申し込まれたら、辞退はしづらいだろう。


 で、こてんぱんにしてアンジェリカと戦うどころではなくしてやる。

 そのほうがアンジェリカの名誉を守るためにはいい。こんな奴をぶちのめしてもワシの良心などまったく痛むこともないし、冒険者が多少ケガをしても、修練不足の自業自得だと言える。もちろん、回復はこっちで責任をもってやってやるぞ。


「コククとやら、実はワシはな――」

「はいはーい。勇者のアンジェリカよ」

 後ろからアンジェリカが来た!


「おい、来るんじゃない! 下がってろ!」 

「だって、公国の勇者が来たんでしょ。声、聞こえてたわよ。勝負をしろってことよね。いいわよ。受けて立とうじゃない」


 急速に話を進めるな!

 ここは誤魔化そう。娘がケガをするリスクは回避せねば。



「実は、娘は膝に矢を受けていてその回復中で――」


「派手にいきたいわね。せっかくだから、王都の真ん中でやるっていうのはどう?」

 状況をさらに悪化させてどうする! いちいち背水の陣を敷くな!


 コククがにやりと笑ったのが見えた。

 そりゃ、そんな観客が多そうな場所で勝ったら、一気に公国での英雄だからな!

 こいつにとったら、願ったりかなったりだろう。自分が得する状況に勝手になっているのだから。


 ていうか、アンジェリカのやつ、自信過剰にもほどがある! もっと慎重になれ! 油断は冒険者の大敵であろうが!


「いいでしょう。王都まで距離もありますし、準備も必要だと思います。日程は今から二十日ほど先。来月の初日ということで、どうでしょうか? その日は聖人の祝日のはずですし」

 こやつ、人が集まりやすい日程を選んできたな……。

 どうせなら、もっと地味な日の夜にそうっとやったほうが隠蔽もしやす――


「うん、いいわよー。スケジュール帳に書いておくわ。王様にも連絡入れておくね。勇者が公国の勇者と戦うって言えば広場を使わせてくれると思うし」



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