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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王、娘が他国の勇者と戦うことに心配する編
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88 魔王、朝食中に新聞を読む

今回から新展開です!

「ほほう、マスゲニア王国と隣国の間での貿易問題、長引いておるのか」

「魔王、朝食中に新聞を読むのやめてよ。行儀悪いよ」


 アンジェリカに行儀のことで注意されてしまった。

「アンジェリカよ。たしかに夕飯で新聞を読むのはよくないことだ。しかし、朝食中の新聞は魔族では許されている。その日のはじまりである朝から情報を集めるのは、理にかなっていることだからだ」


 これは言い訳ではない。朝食の新聞が許容されているのは事実だ。ワシの父親も読んでいた。行儀が悪いとすぐ怒る性格だったのに、新聞は読んでいたのでアリだったと考えて間違いない。当時とは時代が違うだけかもしれんが。


 ただ、新聞といっても、ここは農村なのでマスゲニア王国の大きな町に行ったりして、そこでまとめて買ってきたりしている。なので、そんなに最新ではない。


 魔族の新聞は毎日入手しているのだが(執務室にちゃんと届けられる)、それでは当然ながら人間の情勢とかはたいして書いてない。いくつも読むのは、なかなか面倒だが、そういうものなので仕方ない。


「レイティアさんも新聞ぐらいはいいですよね? それともマスゲニア王国では朝食時の新聞もよくないでしょうか?」

「そうね~。朝に新聞を読むお父さんっていうのは、なんだか締まって見えるわね~。わたしのお父さんもそういうの読んでた気がするし~」


 レイティアさんが自分のパンにバターを塗りながら、そう言った。

「ほら、見てみろ。レイティアさんも同意してくれている。これで二対一だな」


「ママを利用するのはずるいわ……。ママって基準が甘々なんだから……」

 たしかにレイティアさんはたいていのことは許してくれると思うが、こっちは職業柄いろんなことを知ってないといけない立場なので、そこは大目に見てほしい。


 なにせ、魔王の身で、少しでも知識がないことを知られると「魔王なのにそんなことも知らないのか」「魔王って世間知らずなんだな」と陰口を叩く奴がいるのだ!


 いや、魔王だからってあらゆることに通暁つうぎょうしてるわけないだろ……。どんな分野にも造詣ぞうけいが深い完璧超人なんてそうそういない!


 だいたい、そういう完璧超人になったらなったで、「完璧すぎて温かみがない」などと言われるのだ! どうすればいいのだ!


 なお、秘書のトルアリーナはこの手の経験があるそうで、学生時代に「できすぎてかわいげない」と教師に言われたことを、いまだに根に持っている。

 過去に三回ほど「はっ? お前にかわいいと思われるために生きてるんじゃないですけど!?」と思い出しギレをしていた。


 まあ、偉かったり優秀だったりすると必ず誰かから文句を言われるということだ。偉い奴や優秀だったりする奴のほうが少数派だから仕方ないのだ。有名税だと思っておこう……。


「ところで、ガルトーさん、少し気になったんだけど~。はむっ」

 最後の「はむっ」はレイティアさんがパンを口に入れた音だ。今だけパンになりたい。


「この王国って、隣の人間の国と上手くいってないのかしら? さっきも貿易問題がどうとか言ってましたよね。わたし、田舎で暮らしてるから、そういうのに疎くて」


 レイティアさんが少し不安そうに目を細めた。

「魔族との戦いが終わったのに、今度は人間同士で戦争となったら大変だわ~」


「ああ、なるほど。そこまで心配することはありませんよ。貿易というのは揉めるものです。ぎくしゃくはしてますけど、戦争にまで進むことはありません」

「うん。サントレ公国を旅したこともあるけど、普通の国だったわ」

 冒険者だけあって、アンジェリカもかなり行動範囲は広い。


「戦争になると、貿易のことが問題にならないぐらいのお金がかかりますので。気にすることはありません。万一、戦争になったとしても――ワシが命に代えてもレイティアさんをお守りいたします!」

 ちょっとかっこをつけてみた。


 いや、命に代えるようなことをしなくても、とくに何の問題もなくレイティアさんを守れるのだが。

「もう、ガルトーさんたら恥ずかしいわ~♪」

 よし、レイティアさんが喜んでくれている!

「魔王たる者、自分のものを奪われるわけにはいきませんからな~♪」

「じゃあ、ガルトーさんが持ち上げやすいように、ちょっとダイエットしてみようかしら~♪」

「いえ、レイティアさんは今のままで十分に美しいですよ~♪」


「ああ、もう! 朝から暑苦しいわっ!」

 アンジェリカが叫んで、せっかくのいい時間が終わりになった。


「話を戻すわよ。だいたい、サントレ公国って魔族と領土を接してなかったでしょ。だから、戦争にも慣れてないの。当然、冒険者も弱いのよ。だから、全然怖くないわ」

 ドヤ顔でアンジェリカが言っている。


「私たち、王国の冒険者や軍隊は魔族や強いモンスターとずっと戦ってきたけど、サントレ公国の奴らはその必要がなかったわけ。攻めてこられるわけないの。ママ、安心して」


 あんまり隣の国を侮っていると相手の成長を見落として痛い目に遭うこともあるのであまり関心せんが、軍事力という面からすると、今はマスゲニア王国のほうに一日の長があるというのは本当なんだろう。


「たまに公国から来た冒険者も見るけど、装備が貧弱なの。洞窟に入っても早目の階層で引き返してるわ」

 そのあともアンジェリカは得意げにマスゲニア王国の冒険者のほうが強いと語っていたが、半分ぐらい割り引いて考えるにしても、だいたい当たっていると思う。


「魔族も人間もそうだが、必要に迫られないとその分野での進歩はないからな。まあ、冒険者が弱いままですんだだけ公国は幸せだったのかもしれん」

「そうよ。だからかもしれないけど、公国の冒険者ってよく王国の高名な冒険者に勝負を挑んできたりするの。そこで、王国の冒険者に勝てばハクがつくでしょ」


 一種の道場破りみたいなものか。

 でも、そこでふと気になることがあった。


「アンジェリカよ」

「何よ、魔王。変に深刻そうな顔して」

「お前、公国の冒険者たちからモロに勝負を挑まれる立場なんじゃないのか?」


 この国の勇者だし、しかも――魔王の義理の娘だし。


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