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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王、先妻と出会う編

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87 魔王、妻と同じ部屋で寝る

「――ということなのですが……レイティアさん、同じ部屋を使ってもよろしいですか?」

 その日の夜。

 ワシはレイティアさんにササヤと会ったことと、あいつに言われたことを伝えた。


 ちなみに、アンジェリカが風呂上がりで出てきたタイミングだ。つまり、アンジェリカに直接言ってはいないが、聞こえはするという時間である。

 面と向かって言ったら、アンジェリカはどう考えてもOKできないだろうから、こうやって間接的に伝えるという技だ。


 気をつかいすぎだと思われるかもしれんが、長らく魔王という立場をやっているから、こういうことには慣れている。誰の顔もつぶさずに事を認めさせるにはこういう技が必須なのだ。


「へ~、ササヤさんがそんなことを~」

 家族においてはかなり重大な話だと思うのだが、レイティアさんの反応はまったくの平常運転だった。

 この人がびっくりする局面ってあるのだろうかと逆に気になる。


 あと、背後からはしっかりとアンジェリカの視線を感じる。あいつも無視できない内容だからな。むしろ、スルーされてしまってはこちらが困る。


「わたしはもちろんかまわないですよ~。だって、夫婦なわけですし~」

 頬に片手を当てながら、レイティアさんは微笑んだ。

 よし! これでミッションはクリアしたぞ! ワシは大きな壁を乗り越えた!


 後ろにいるアンジェリカからも反論はないようだ。このまま黙認するということだろう。

 うん、ワシの政治的判断は実に冴えている。冴えわたっている! 自分で自分を褒めてやりたい!


「でも、アンジェリカにも聞いたほうがいいのかしら?」

 げっ……。

 ワシはまずいぞと思った。

 ちなみに背後にいるアンジェリカから「げっ……」という小声が聞こえた。魔王の耳はわずかな物音も聞き逃さないのだ。


 そんなの、娘からしたら一番されたくない相談の一つだろう。そこで「どんどん子作りしたらいい」とか言えるの、クマみたいな豪傑の冒険者だけだぞ。

 ここでアンジェリカに尋ねてしまっては、あいつも反対するしかなくなる。すべてが白紙に戻る!

 それは阻止せねばならない……。


「あの……アンジェリカはお風呂に入っていて、いないのではないでしょうか……」

「もう、上がっていた気がするんだけど。アンジェリカ、いる~?」

 勇者らしい俊敏な動きでアンジェリカがさっと自室に逃げ込んだのが気配からわかった。

 あいつにも苦労をかけさせてしまったな……。


「あら、アンジェリカはいないのかしら。まあ、いないなら仕方ないわね~」

 ピンチを乗り切った!

 もっとも、次の問題がすぐにやってくるのだが。


「それじゃ、ガルトーさん――――いえ、あなた、枕をわたしの部屋に持ってきてもらえます?」

 恥じらう様子もなく、レイティアさんはそう言った。

 そう、早速同じベッドを使う生活がやってくるのだ。



 レイティアさんの枕の隣にワシの枕が並んでいる。

 今日からこれがワシの枕の定位置になるのだ。


「なんだか、新鮮だわ~」

 レイティアさんは自分の枕側のベッドに腰掛けていた。見慣れているパジャマもいつも以上にかわいく見える。

 ワシはというと、ドアの近くで立ち尽くしていた。まだ、自分の部屋という実感はない。据わりが悪いというのが本音だ。


「このベッド、けっこう大きいから足は出ないと思うんだけど、もし窮屈だったら言ってくださいね。改造しちゃいますから」

「いえ、そこは魔王なので買い替えぐらい――あっ……ご主人の形見だったりするんですかね……」

 それは女性用のベッドではなく、確実に夫婦用だ。

 ということは、レイティアさんの夫が生きていた時に購入したものではないか。


「あなた、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ」

 やさしくレイティアさんは笑った。

 夫に向けるというより、子供に向けるような笑みだと思った。


「大切なのは心ですから。あなたがササヤさんを忘れないのと同じように、わたしも大事な人のことを忘れません。でも、今、あなたを愛することは矛盾しないわ」

 そのとおりだ。ワシの今の妻はレイティアさんだ。そこを勘違いしてはいけない。


「うん、レイティア。ええと……この部屋では、レイティアと呼ぶ……」

 アンジェリカの前では、まだ落ち着かんからな……。

「そうね、それでいいわ。あの子も少しずつ慣れてくるでしょう」


 ワシはゆっくりとベッドに入った。

 どこを見ていいかわからんので、ずっと天井を見ていた。


 その隣にレイティアさんが入ってくる。

 当たり前のことなのだが、そんな当たり前のこと一つ一つに緊張する。


 そっと、レイティアさんがワシの手をつかんだ。

「目をつぶりながらだと、あなたの手、本当に大きいなって感じるわ」

「レイティアの手は……思ったよりひんやりする」


「手って冷たいほうが心が温かいって言うわよね」

「そんな俗信なんてなくたって、レイティアの心は知ってるさ……」


 ワシができる限界のキザなセリフがそれだった。

 ササヤ、見ているか?

 ……いや、恥ずかしいからやっぱり見ていなくてもいい。



 翌朝、ワシはレイティアさんと一緒に部屋を出て、ダイニングとキッチンのほうに向かった。

 すると、すぐさまアンジェリカが飛び出してきた。


「おはよう、アンジェリカ。……あら、わたしの顔に何かついてる?」

 アンジェリカはじっとレイティアさんの顔を確認している。

 こいつ、何がしたいんだ?


「いつもより、顔がつやつやしている気がする」

 妙なことをアンジェリカは言ってきた!


「そ、そりゃ、肌に張りがある日もあれば、元気がない日もあるだろう……。うん……」

「魔王、なんでわたしから目をそらしてるの?」

 娘と目を合わせづらいことだって世の中にはあるのだ。世の中、いろいろあるんだからおかしなことではない。


「アンジェリカ、聞きたい?」

 レイティアさんが天然ぶりを発揮してそんなことを言ったので、ワシもアンジェリカもびくっとした。


「それはいいわ……。早くパンの用意をして……」

「ワシも朝食の手伝いをしよう……」


 ワシもアンジェリカも露骨にばたついていた。

 この家で最強なのは魔王でも勇者でもなく、レイティアさんだ。


「ふふふ~。いい朝ね~」

 レイティアさんの笑顔だけがいつもと変わらなかった。

魔王、前妻の墓参りに行く編はこれでおしまいです。次回から新展開です!

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