84 魔王、お化けと出会う
「ササヤ、今年もやってきたぞ」
ワシはまず用意していた花束をササヤの墓の前に手向けた。
「ワシも律儀だろう。これまで一年も欠かさずこの日にやってきておるぞ。いいかげん、お前も鬱陶しく思っておるかもしれんがな」
背後から、嗚咽のような音が聞こえた。
アンジェリカが泣いているらしい。あいつ、涙もろいというか、こういうところでは泣いてしまうんだな。勇者らしいといえば、そうかもしれない。
「草が伸びているな。また、掃除をしておいてやる。魔王の力ならどんな雑草も楽勝で引き抜けるからな。ああ、あと、紹介しないといけない人がいる」
後ろを向いて、レイティアさんとアンジェリカに視線をやった。
「再婚したのだ。レイティアさんと、その娘のアンジェリカだ。二人とも魔族ではないが、今では三人で暮らしている。ササヤ、お前に惚れて以来、二度目の恋愛だ」
レイティアさんはお墓に対して微笑む。
それに対して、アンジェリカは本当にそこにササヤが立っているみたいに、きをつけの姿勢で硬直していた。
「ササヤさん、レイティアと言います。ガルトーさんと楽しく暮らしています。もし、あなたが生きていれば、きっとお友達になれると思うんだけど、それがかなわなくて残念だわ」
いつもと変わらないゆっくりとした調子と、慈愛に満ちた表情で、レイティアさんはお墓に話しかける。
「は、はじめまして! 勇者のアンジェリカです! かつては魔王と戦ってたけど、今では義理の娘です。よ、よろしくお願いします!」
アンジェリカのほうは緊張しすぎだな……。面接か何か受けに来たみたいな態度になってるぞ。
「ウソじゃありません! そこそこ魔王と楽しく暮らしてます! だ、だから……呪ったりしないでください……」
こいつ、そんなことを恐れてたのか!
「呪ったりなんてせんだろ! 緊張してると思ったら、それが理由か!」
「だって……少なくとも魔王がママと出会うまで、魔王の子とを一番愛していた魔族でしょ……。魔王と戦ったことある私って、いかにも呪われそうな立場じゃない……」
「だから、呪いなんてない! 墓の中で呪いの魔法をかけられるわけじゃないし! お前も、呪いを信じてたら、勇者として魔族と戦うとかできんかっただろ!」
「たまに、一人で夜にトイレに行けなくなってセレネについていってもらったりしてた……」
こんなところで意外な情報を聞いてしまった。
「とにかく、ワシの元妻は呪いなどかけんから心配するな! 生前も小さなことにはこだわらない性格だった!」
「ふふふっ、ふふふっ!」
レイティアさんとは違う笑い声が聞こえた。
しかも、やけになつかしさを覚えるような。
ワシははっとして、その声のほうに顔を向ける。
墓の前に――ササヤが立っていた。
どうして見間違うことがあるだろう。それは確実にササヤだった。
その角も、おっとりした表情も、よくくびれた腰も、すべてササヤ本人だ。
しかし、それがササヤに見えたからといって、すぐには受け入れられなかった。
ササヤはとっくの昔に死んでいるのだ。この墓の下にはササヤの宝石が入っているだけだ。
なんだ、ワシは幻影でもかけられているのか?
「うわっ! お化けだ! お化けが出たわ!」
ワシだけじゃないのか。そのアンジェリカの反応からすると、見えているらしい。
「アンジェリカ、ササヤのことが見えるのか?」
「だって、いるじゃん! 黒くて、スリッドが入った黒いドレス着て立ってるじゃん! 体はなんか半透明だけど……」
そういえば、体が透けているので、ササヤの背後の墓がそのまま見える。
「あらあら、わたし、お化けを見るのなんて人生初だわ~♪ 得しちゃった~♪」
冒険者ではない一般人のレイティアさんすら視認できるのか。反応がやっぱり、ズレている気がするけど。
「そうです、お化けですよ。ササヤのお化けです。あなた、お久しぶり。それとお二人には、はじめまして」
ササヤは宮廷式のあいさつをワシらに対して行った。
まだ驚きのほうが強くて、ワシのほうは素直に再会を喜べる状態ではなかった。
「ササヤ……なんだな? でも、どうしてこんなことが……」
「わたしもはっきりとしたことはわからないんだけど、ある時に宝石になってる自分の意識が生まれたの。宝石というモノとしては残っているから、そこに生前の精神みたいなものが戻ったみたいね」
ササヤのほうは冷静だが、こっちはまだそんなに落ち着けていない。
とくにアンジェリカが「お化け、怖い……呪われる……」と怯えていた。
冒険者にあるまじき態度だが、本当にお化けが墓から現れたら、やむをえないのだろうか。
「おそらく、宝石とここの土の相性がよかったみたい。ここに姿を現せるってわかったのは、ごく最近のことだけど。ただ、お墓というか宝石の近くからは動けないの」
くるくるっと、その場でササヤはまわって見せた。
「ねえ、魔王、お化けの話って魔族の中にもあったの?」
アンジェリカ、怖がりなくせに掘ってくるな。
「お化けといっても二種類いる」
「難しそうな話はできるだけシンプルでわかりやすくしてね」
注文が多い。
「まず、いわゆる魔族やモンスターの一種のお化けがいる。これはお前も倒したことがあるはずだ。ほかのと同じく倒すと宝石になる」
「うん、そういうのは倒してきたわ。ごく普通に剣でも当たり判定があったり、当たり判定がなくても攻撃魔法は効いたりした」
そう、そっちはなんら珍しいこともない。
「それと、もう一つのお化けはいわゆる、アンジェリカが怖がる怪談みたいなのに出てくるタイプだな……。それこそ墓から変な人影が現れるとか……」
「じゃあ、まさに今回のじゃん! お化けって魔族にもあるんじゃない!」
アンジェリカはレイティアさんの後ろに隠れた。
お前、一般人の母親を盾にするなよ……。
だが、お化けに遭遇するという現象という点には誤りはないのか……。
「レイティアさんでしたっけ」
ササヤが少し居住まいをただし、レイティアさんのほうに顔を向けた。
おいおい……。本当に呪いをかけるみたいなのは困るぞ……。




