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83 魔王、墓地に乗り込む

 ササヤの命日、ワシは一度、自宅に戻って、レイティアさんとアンジェリカに合流した。


「レイティアさんが黒の喪服というのはいいんですが……アンジェリカ、なんでお前まで喪服なんだ?」

 冒険者の格好ではなく、黒のドレスを着ていた。


「だって、お墓参りなんだから、この格好でいくべきでしょ。首にも護符をつけてるわ」

「お前の場合は、いつもの冒険に出る姿に着替えておけ」

 メモにも書いたけど、痛恨の一撃をやたらと出してくるモンスターが出現するのだ。防御は高めて損することはない。


「はいはい。心配性ね。わかったわよ」

 アンジェリカも最近はワシの意見を聞く比率が高くなってきた。

「でもさ、どうせ空間転移魔法で一発でたどり着けるんでしょ。じゃあ、ほぼ問題ないんじゃないの?」

 アンジェリカの疑問はわからなくもない。これ、空間転移魔法を使える奴がよくされる質問ベスト3に入るやつだ。


「そう簡単な話じゃないことはすぐにわかるから、着替えてきなさい……」

「アンジェリカ、安全第一でなきゃダメよ。ママからもお願い」


「そうね。今できる範囲での最強装備で行くわ。このドレス、着るの面倒だったんだけどな……」

 アンジェリカが冒険者用の格好になって戻ってきたので、ワシは空間転移魔法を唱えた。



 一瞬で、ワシらは魔王とその一族の墓に到着した。

 ただし、入り口の門の前に。


 その先に墓域が延々と広がっている。一部、森になっているようなところもある。あれは墳丘に木が生えてきたせいだろうな。すべての墓は管理しきれんからな。


「ここから歩いていく。なかなか時間がかかるから覚悟しておけ。あっ、レイティアさんは疲れたら、すぐにおっしゃってください。お姫様だっこで運びます」

「娘の前でお姫様だっこはやめて。それより、目的のお墓の真ん前には来れないの……?」


 だから、そう簡単ではないのだ。

「空間転移魔法は入り口にしか出てこれないようになっているのだ。墓の場合、墓地全体の入り口に飛んでしまう。ここからはずっと歩きだ。その最中にモンスターが出る危険性は常にある」

 なので、それなりの難易度のダンジョンそのものなのだ。アンジェリカの力では苦戦するようなモンスターがわんさか出てくる。


「つーか、魔王の墓ならモンスターが出てこないように管理できないの?」

「お前、王国の墓だって、墓地の中に棲息するミミズや虫や鳥までは排除できんだろ。それと同じだ。ここではミミズや虫や鳥がかなり危なっかしいのだ。しょぼい魔族なら墓参りに来たつもりが、自分が死んで宝石になって墓に入ることになる」


「じゃあ、もっとモンスターが弱いところに墓を作りなさいよ」

 このアンジェリカの言葉は正論だと思うが、同意するわけにはいかない。


「しょぼい魔族が来れないようなところに墓を作るのが一種のステータスなのだ。墓荒らしに遭う率も下がるしな。苛酷な環境を支配してこそ偉いという考え方が魔族の中にはある」


「そういえば、人間の土地にいるモンスターはのどかなところに出てくる子ほど、弱いイメージがあるわね~」

 レイティアさんの言葉のとおりだ。


「ですです。なので、しょぼい魔族になると、魔族の土地では墓参りすらできないので、人間の王国の領土内にお墓を作っています」

「それ、かなり問題があるんじゃないの!?」

「魔族の土地に住めなくなった魔族はその時点で落伍者だからな。やむをえんことだ」


 さて、いよいよ出発だな。

「アンジェリカ、ワシはあくまでも非戦闘員のレイティアさんを守ることを優先する。お前の身はできるかぎり、お前で守れ。防御を重視していれば、すぐに致命傷ということまではないはずだ」


「わかったわ……。正直、こんなおどろおどろしい墓地に即席で入れられたくはないから、頑張るわね……」

「いや、お前はすでに魔王の娘なわけだから、どこで天寿を全うしてもここの墓地に入れられるぞ」

「うわー! なんか、想像したらかなり嫌だわ! もっと太陽の光が降り注いで、野兎が戯れるようなお墓に入りたい!」


 野兎が暮らしてるお墓だったら、絶対、そいつらがそのへんに糞をしまくると思うぞ。お前、墓石の上に糞されてもいいのか?


 まあ、そんなことはどうでもいい。

 ワシは全力でレイティアさんを守る!


 レイティアさんの背中に後ろから両手を置いて、包み込むようにして歩きだした。


 妻を守れない夫など、世間の笑い者だ。まして、それが魔王なら、なおさら恥ずかしい。

 ワシは自分が留守の時に起きた謀反で、妻を失った。

 もう、あんなことは二度と経験はしまい!


 そんなワシの裂帛の気合いに気圧されたのか、野生モンスターもワシのところには寄り付かなかった。

「けっこう、快適ね~。荒涼としてる雰囲気も慣れてくると楽しいかも。ここにしか生えてない植物なんかも多いし」

「そうですね。植物などに興味がある方は面白いかもしれません」


 一方で、アンジェリカは度重なる戦闘でひいひい言っていた。


「魔王に来ない分、こっちにすっごく寄ってくるんだけど! これ、登山した時と同じ展開だわ!」

「野生モンスターは本能で弱そうな者を狙うからな」

「いちいち言わなくてもいいわよ! ああ、もう! ここで特訓したら、無茶苦茶強くなれる気がする!」

「強くなれる可能性もあるけど、死ぬ可能性もあるからな。あまりおすすめはせんぞ」


 それでも、アンジェリカは極力ワシの手助けなしで戦闘をしていたので、なかなかやるなと思った。

 強くなったというより、単純に戦い方が上手になった気がする。

 娘の成長が見られるというのは、うれしいものだ。


 三十分ほど歩いて、ワシらはついに目的地に到着した。


 そこにはワシの背の高さほどの墓碑がある。

 魔族の言葉でこう書いてある。


===

魔王ガルトー・リューゼンの妻ササヤ・リューゼン、ここに宝石となって眠る

===


 宝石となって眠るというのは、墓碑の定型文だ。

 命を失った魔族とモンスターは宝石に姿を変えるからだ。


「ササヤ、今年もやってきたぞ」

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