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82 魔王、家族で墓参りに行く

 ワシは帰宅して、アンジェリカに魔法の稽古をつけてやっている時に墓参りの件を切り出した。


「なるほどね」

 重い話題だからか、アンジェリカも真面目な顔で腕組みして考えているようだった。


「まあ、黙って墓参りというのはありえないでしょ。それだけは間違いないわ」

「やっぱり、そうか?」


「だって、ママの視点からしたら、夫がほかの女のことを隠れてこそこそやってるってことになるのよ。そりゃ、ママの性格だから、嫉妬なんて魔法で洗脳でもされないかぎり、ありえないけど」

 広い意味では、浮気と言えなくもないのか。


「それに、魔王って気が小さいから黙ってることを気に病むと思うのよね。それに三年後や五年後に言ったら、そのほうがタイミングとしておかしいじゃない。だったら、早いうちに全部言ってるほうが後腐れがないでしょ」

「さすが勇者だ。的確なアドバイスだと思う」

「勇者の要素、関係ないわよね……。強引に褒めてこなくてもいいわよ……」


 アンジェリカは褒められて、やりづらそうな顔をしていた。義理の親子だからまだ多少の壁はある。これぐらいの壁なら人生のスパイス程度にしかならないからいいが。


「それに、私もママも、パパの命日前後はお墓参りとか行ってるわよ。だから、お互い様よ。時期的に、ちょうど魔王の奥さんの命日のちょっと後ぐらい」

 あっ、そうか。変な話、その点でワシとレイティアさんは対等なのだ。


「よしっ! では、あとで早速、レイティアさんにササヤの墓参りについて話す!」

「うん、それがいいと思うよ。つか、悩むほどのことですらないし」

 アンジェリカも少し笑ってくれているように見えた。


「なので、その時にはアンジェリカも同席してくれ。万全を期したい。もしも変な空気になったら、空気の入れ替え役を頼む」

「魔王って心の中は中ボス未満よね……」

 父親としての威厳はなかなか獲得できそうにない。



 そして、ワシはアンジェリカを連れて、食器を洗っているレイティアさんのところへ行った。


「レイティアさん、お話があります」

「なんですか、ガルトーさん? お弁当に嫌いなおかずとかありました?」

 その話題でアンジェリカを連れてこようとしたら、アンジェリカに全力でバカにされると思う。


 ワシは簡潔に内容を話した。

 ある種、アンジェリカに話すということで、一度予行演習をやったようなものなので、スムーズに伝えることができた。


「――というわけで、今度、ササヤの墓参りに行ってきます。今の奥さんであるレイティアさんにも話だけはしておこうと思って」

「ああ……ガルトーさんはそんなつらい経験をなさっていたんでしたね……」


 レイティアさんの普段から細い目がいつも以上に細くなる。そこに憐憫の感情が宿っている。


 やはり悲しませてしまうな。でも、そこはどうすることもできないか。

 この心根のやさしさにワシは惚れたわけでもあるのだから。


 ただ、そこから先がワシの予想とは違っていた。


「ガルトーさん、わたしもそのお墓参り、同行していいかしら?」

「えっ?」

 ワシは少しぽかんとした。


 それから、脳内に「危険!」という言葉が浮かんだ。文字どおり、物理的に危険なのだ。


「レイティアさん、魔族の土地のお墓は野生モンスターも出現する可能性があります! お気持ちはうれしいのですが……」

「でも、ササヤさんに新しく妻になった者ですってお伝えしたいんです。わたしもお墓とはいえ、一度はあいさつしておきたいの。それにわたしの元夫の墓だって、ちょっとしたモンスターが出るようなところよ。大モグラとかトゲトゲカメムシとか」


 そんなザコモンスターと魔族の土地に出てくるモンスターを一緒にされても困るのだが、レイティアさんは冒険者ではないし、違いがわからないのもしょうがないか。


 あと、レイティアさんの真剣な瞳を見ていると、ダメですと断りづらかった。


 だいたい、前の妻の墓に行きたいと妻が言っているわけだ。もし、つっぱねたら、また後ろ暗いことをしてるような気持ちになるやもしれん。

 いや、亡き妻と密会することとかできるわけないのだが、墓の前で「世界で一番お前を愛してる。今の妻より愛してる」とか言ってるんじゃないかという疑惑が起こる。


 レイティアさんはそんなこと考えないだろうけど、理論上、そういう疑いが起こるということまでは否定できない。


「はぁ……じゃあ、私もついていくわ」

 ワシとレイティアさんの間にアンジェリカが入ってきた。

「私と二人がかりでママを守るなら、安全も確保できるでしょ。それでいいんじゃない?」


 アンジェリカもだんだんと魔王と一般の女性であるレイティアさんの間の仲介役をつとめるのが上手くなっている気がする。それは、素直にありがたい。

 ただ――


「墓地の周辺って強力なモンスターも出るんだよなあ……。ワシからするとお前も守らないといけなくなって、守る人間が二人に増えるような可能性も……」

「勇者を舐めるな! 余裕でぶっ倒してやるから安心しなさいよ!」


 こうして、家族三人で墓参りに行くことになった。


 出発までのわずかな時間、ワシはちょっとしたメモを作っておいた。

 それで、出発前日、アンジェリカにそのメモを渡した。


「アンジェリカ、これを参考に使うがいい」


===

ダンジョン名 魔王とその一族の墓

攻略難易度★★★★☆


出現モンスター

●魔族の土地モリオオゴキブリ

家に出てくるゴキブリとは別の種類。装甲が硬いので、長期戦になる危険がある。たまに攻撃を受けると、マヒする。


●グレイブヤード・ワーム

とにかく、巨体で長いワーム。半分に切られたりしても、それぞれが意志を持って、攻撃を仕掛けてくるので、うかつに切断するのはよくない。剣を使用する場合は突いて攻撃するようにしよう。


●呪いの鎧

しばしば痛恨の一撃を繰り出してくるので、要注意。鎧の隙間に剣を刺し込むとダメージを与えられる。


ワンポイントアドバイス

墓の中には貴重な宝石がある場合もあるが、重罪になるので墓荒らしはやめよう。

===


「なんで、攻略本みたいなの作ってるのよ!」

「娘の安全を考えるのは当然だろうが。魔族の土地は恐ろしいところなのだ」

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