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80 魔王、勇者と手を組む

 ワシは蒼白になって、アンジェリカに尋ねた。

 わからんから聞くしかない。

「なあ、具体的にどこが面白くないのだ? どこが退屈なのだ?」

「全部」

「いや、それは具体的ではないだろう……」


「ここの博物館のどの箇所が面白くないとかじゃなくて、博物館に連れてこられた時点で面白くないの! むしろ『やったー! 博物館だー!』って年頃の娘がなる? そのほうが変でしょ!」


 ワシは目をぱちぱちさせた。

 なんか前提が異なっている気がした。


「知らない町に来たら、博物館や資料館は訪れたりはしないのか?」

「しないわよ」

 アンジェリカに即答された。


「だって、冒険者って各地の町に行くだろう。そこで、この町の歴史や成り立ちはどうなってるんだろうとか思って、博物館に寄ったりし――」

「しないわよ。私のパーティーなら、ナハリンが自由時間に行ってる時もあるけど、だいたい行くのはナハリンだけよ」

 えっ? そんな非常識なことをワシはしておるのか? そんなバカな……。ちゃんと本で調べたりした結果であって、自分の価値観だけを頼りにしたわけではないのだ。


「この博物館はお前の持っていた『全国旅ガイド』にも載っていたぞ。シルハ温泉の観光施設の項にっちゃんとあった」

「あったとしても、家族では楽しめないでしょ。魔王、センスがずれてるわよ」


 ワシはその場に跪いた。

 ダメージが大きすぎる。娘からの言葉が痛い……。


「あらあら。大丈夫、ガルトーさん?」

 レイティアさんがワシの肩に手を置いてくれた。


「アンジェリカ、言い過ぎよ。ガルトーさんも一生懸命、旅行のセッティングをしてくれているんだから」

「じゃあ、ママ、さっきの展示コーナーで何があったか言ってみてよ」


「ええと、そうね~。何だったかしら~。ええと~。あっ、そうだわ。あれ、あれね~」

 レイティアさん、誤魔化すのが下手にもほどがあります!

 でも、そのウソがとてもつけそうにないところも好感が持てます。本当に誠実なお人柄だ。


「ほら、ママも興味がないでしょ。三人中二人が楽しめない場所に案内しちゃってる時点で問題なのよ。さらにまずいのは、魔王はここで私たちが楽しめるだろうって思ってるってこと。善意が悲しいことに空回りしちゃってるのよ! 私もやりきれないわ!」

 今度はアンジェリカが跪いた。


 おかしいだろ、父と娘で跪いて向かい合うって。何かの儀式でもはじめるみたいになってるぞ……。


「いっそ、今日は自分の趣味で行く場所を選んだぞとか言ってくれるならマシだったわ。じゃあ、それに付き合うかって納得ができるじゃん……。魔王本人は私たちをもてなす気で、これなのよ……。そこがつらいのよ……」


 アンジェリカも一緒になって悲しんでくれているのか。

 変な話かもしれないが、なんか、とっても家族らしいじゃないかと思った。

 今のアンジェリカは父親の善意が成立してないことで悲しんでくれている、悩んでくれている。


 失敗はしちゃってるけど、これこそ家族だ。


 アンジェリカはワシに近づくと、ワシの手を取った。

「魔王、あなたのやる気はわかった。でも、魔王にセンスはないわ。そこは残念ながらない。魔法適性がない剣士が何の魔法も使えないようなもので『少ない』じゃなくて『ない』」

「お前、フォローしにきたようで、さらに否定を加えてくるのか」

 ワシ、ボロカスに言われてるな。

「中途半端なやさしさはかえって魔王を傷つけるのよ。私は勇者だから、時には人を助けるために傷口を一時的に広げなきゃいけないこともあるの」


 アンジェリカの瞳の中に、レイティアさんが時折見せる慈愛の感情が見えた。

「だからさ、私と一緒にどこを観光するか決めましょ。魔王よりはマシだから。私も、魔王も、もちろんママも幸せにできるから」

「そうか。わかった……。昼から行く場所は検討しなおそう」


 しばらく議論を交わした後、ワシらの今後の計画が決定された。



「わーっ! ジャンプした! ジャンプした! 輪っかもくぐったわ!」

「ほんとね~。イルカってこんなこともできるのね~」


 ワシらはシルハ・パークという遊園地に来ていた。

 アンジェリカだけでなくレイティアさんもはしゃいでいるから、これが正解なのだろう。


 だが、今度はワシがいまいちピンと来ていなかった。

「なあ、アンジェリカよ。これって、そんなにすごいことなのか?」

「そりゃ、そうでしょ。イルカがあんなにしつけられて、ショーをやってるのよ。とんでもないことでしょ」

「いや、しつけられたドレイクなら、空を飛び回って、炎も吐けるからな……。それと比べるとただのジャンプだし……」

「そんな変なものと比べないでよ!」


 いまいち、すごさがわからない。獰猛なシーサーペントを自在に操るとかならすごいと思うだろうが、イルカごときではな……。


 どうも、魔族と人間の価値観はまだまだ違うようだ。今後もすり合わせをしていかないとな……。

 そんなことを考えている間にイルカショーは終わっていた。


「よかったわね~。それじゃ、次はシロクロクマを見に行きましょうか」

「そうね。ここの目玉だもんね!」


 二人が盛り上がってるところ悪いが、クマなんて見ても面白くないだろう。

 ――とその時はワシも思っていた。



「おおっ! ひっくり返ったぞ!」

「かわいいわ! 餌食べてるところもかわいい!」

「いいわね~。全部、垂れ目に見えるところが面白いわ~♪」


 シロクロクマは模様が白と黒になっているとても珍しい種類のクマらしいが、動きがのんびりしていて、なぜだか癒されるのだ。


「おお! 子供同士でボールで遊びはじめたぞ!」

「あ~、ボールに乗っかって転んじゃってる。運動神経がなってないわね~」

「いつまででも見ていられるわ~♪」


 日が暮れるまでワシらはシロクロクマの檻の前で歓声をあげていた。



 その日、温泉で汗を流したあと、アンジェリカと廊下で鉢合わせした。

 同じく温泉に行っていたらしい。


「アンジェリカ、かわいいという概念が少しわかった気がするぞ」

 ワシが成長できたのはアンジェリカのおかげだ。礼はしっかりと言わねば。

「魔王、家族旅行なんだから家族みんなで場所も決めればいいのよ。一人で抱え込まなくてもいいの」


 ワシは、はっとした。

 そんな考え方もあるのか。

 旅行を実施するのは家族サービスかもしれんが、家族なんだから場所はみんなで考えればいいのだ。


 初めての家族旅行、ワシも少し成長できた気がする。


「じゃあ、私は部屋に戻ったらすぐ寝るわ。最終日の朝も泳ぎたいし」

 その言葉にワシは少し堅い表情になった。

「それはいいが、くれぐれもナンパには気をつけるのだぞ」


「魔王が父親の間は、大丈夫なんじゃない……?」

 アンジェリカは諦めたような顔で言った。


魔王、家族旅行をする編はこれでおしまいです。次回から新展開です!

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