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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王、家族サービスで旅行をする編

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78 魔王、二日目も頑張ろうとはりきる

 その日は海岸の後ろ側に建つ立派なホテルに泊まった。ここに二泊することになっている。


「うわあ! こんなに豪華なホテル、冒険者やってる時は泊まったことないよ!」

 アンジェリカがこっちの想像の斜め上をいくぐらいに喜んでいた。天井の模様やら、窓のあたりの細かい造作とかをチェックしていた。


「冒険者やってると汚い宿に泊まることも多いから、きつかったわ。ノミとかシラミがやたらといたりして……ああ、思い出しただけでトラウマになりそう……」

「そんな冒険者残酷物語は言わなくていい! こっちまでかゆくなる!」


 勇者といっても、あまり楽な生活は送れてなかったんだな……。まあ、自称勇者なんて全国にいただろうし、結局はうさんくさい冒険者稼業の一団とみなされたのか。


 でも、そのハングリー精神みたいなものがあるから、ワシのところまでたどり着けた部分もあるし、難しいところだ。


「わたしなんかにはもったいないわ。ここはおきさき様が泊まるようなお部屋よ~」

「レイティアさんはまさしくお妃様ですよ、魔王の妻なんですから」

 一瞬、レイティアさんはぽかんとしていた。それから、ぱんと手を叩いた。


「あっ、そうだったわ~。ガルトーさんは魔王ですもんね~♪」

 この様子だと、本当に忘れていたな。とくにかまわないんだけど。


「魔王、気落ちしないでね。魔王がふだんから魔王らしくないせいだから」

 アンジェリカがくすくす笑っていた。

「気落ちなどしておらん。家族旅行をしている時点で魔王らしさもないしな」

 むしろ、魔王らしく振る舞ってない証明みたいなものでうれしいぐらいだ。


「夕食は一階のレストランを予約している。アンジェリカ、お前はせっかくだから食事のマナーを勉強しろ」

 アンジェリカがものすごく嫌そうな顔をした。

「次の魔王になるかはともかくとして、人間としても王国で会食することとかあるだろ。その時に笑われないように最低限のことは学んでおけ」


「王国ってケチだから勇者になっても、ほとんど招待とかしてくれなかったのよね……。ああ! 思い出したらムカついてきた!」

 こいつ、勇者になってからいい思い出、ないのか。


「魔王に剣や魔法を習うのはいいんだけど、テーブルマナーまで習うのは敗北感があるのよね」

 しょうがないだろ。実際に敗北してるんだから……。思い出すだけでかゆくなる宿に泊まってた連中に負けてたまるか。


「アンジェリカ、わたしが教えてあげるわ。わたしもだいたいのことはわかるから」

「それがいいですな。レイティアさんは、誕生日の時のお店でも完璧な振る舞いでした!」


「じゃあ、ママに教えてもらうわ。魔王は一言多いイメージがあるし。魔王はなんでもくどいのよね」

「自分の物覚えが悪いことを棚に上げるな」


 部屋では文句を言っていたアンジェリカだったが、レストランで料理が出てきたら、機嫌が直っていた。


「宮廷生活も悪くないかも……うっとりしちゃうわ……」

「言っておくけど、毎日こんなものばかり食べてたわけじゃないからな」

 あと、魔王が行う会食は、ほぼすべて政治的な意味合いを持ってるので、そんなお気楽な空気にはならないことが多い。


「冒険者時代は、食べるものがなくて、洞窟でカビの生えたパンをかじってたりしたもの。思い出しただけで――」

「もう、思い出すな! 冒険者のことはすべて忘れろ!」

 飲食店の中でカビの話をしないでほしい。


「魔王と勇者って立場的に近いイメージがあったんだけど、生活はずいぶんと違うのね~」

 レイティアさんが感心した顔をしていた。どちらかというと、勇者の生活一方的にひどいのだ。


「冒険者の頃は戦闘で服がボロボロだったりすることも普通だったから、お金がある時でも、こんなお店に入れなかったのよね」

「それはわからんでもないが、マスゲニア王国って勇者に厳しくないか……」

 これも魔族と王国の戦いがなし崩し的になあなあになっていたことと関係するのかもしれない。勇者の価値も昔よりはずいぶん下落しているのだろう。


「今、初めて魔王の娘になってよかったと思ったかも」

「お前、褒めてるようで褒めれてないぞ」


「ごめんごめん、魔王」

 冗談みたいにアンジェリカは舌を出した。それはテーブルマナーとしてはダメだが、かわいいから許してやる。

「それと、家族サービスありがとうね。こういうことは魔王でないと思いつけないから」

 アンジェリカの表情がふっと大人びたものになっていた。

 いつもの、どこか頼りない様子とはまったく違った顔で、少し焦った。


「ち、父親としての義務を果たしたまでだ……」

 その「ありがとう」はうれしかったが、同時に物悲しくもあった。

 そんなに早く物わかりがよくならなくてもいいんだ。バカをやってる子供のままでもいいんだ。


 貴族なら、もう嫁いだりしても早すぎるということはない歳なのか。

 三人の生活がいつまで続くかわからないんだな。

 一日一日を大切に過ごしていかないと。


 よし、これからもしっかりと家族サービスをするぞ!

「魔王、なんか気合いが入ってるね」

「明日も、しっかりと旅行するからな。楽しみにしてろよ」

「あっ、明日は海は行かないんだ」

 アンジェリカのやつ、完全に海にはまっているな。

「朝早くに泳ぐなら好きなだけ泳ぎに行けばいいが、一日中それでは飽きるだろう。せっかく遠出しているのだから、この土地でしか見られないものを見るぞ」


「うん、どこに連れていってくれるのか知らないけど、そこそこ期待しておくわ」

「わたしもガルトーさんセレクトの旅、楽しみだわ~」


 ガルトー・リューゼン――父親一年目。

 初の家族旅行、このまま大成功で終わらせるぞ!


 食後、ワシは温泉で疲れを癒した。

「戦闘とは違う疲れ方をしておるな……」

 精神的な疲労というやつだろうか。気をつかうところが多かったのかもしれん。


 もしかすると、ストレスを与え続けると、魔王を倒すことができるのだろうか。

 何十年計画でずっとストレスがたまるように仕向けられたら、過労死してしまう気がする。

 その倒され方はあまりにもみっともないから、あまり溜め込まないようにしよう……。

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