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77 魔王、家族サービスをしてよかったと思う

 しばらくすると、二人がワシのところに戻ってきた。

「魔王も水着、まあまあ似合ってるね。ていうか、筋肉すごいよね」

 アンジェリカがワシの腹筋の触ってくる。


「魔王だからな。体も鍛えている。魔王がぶよぶよの体だったら、臣下に示しがつかんからな」

 戦闘でも活躍できることが、魔王に求められる点の一つだ。そこが人間の王とはちょっと違う。

 それにしても、やたらとぺたぺた触ってくるな。家だったらありえないことだが、これも南国の空気によるせいだろうか?


「これは並みの剣だと皮膚だけではじき返されるわね。セレネに攻撃力を強化する魔法を唱えてもらったほうがいいわ」

「なんで、倒し方を考えている!?」

 お前の要望どおりに、こうやって場所取りもして、荷物番もしたのだぞ。そこはもうちょっと評価してくれてもいいだろ。


「冗談よ、冗談。ありがとね。ここを拠点にして今日は楽しむわ」

 アンジェリカがワシの肩をぽんぽん叩いた。やはり、いつもよりはボディタッチが多い。


「ママはしばらくここでゆっくりしておくわ。アンジェリカと同じペースではしゃいでると疲れちゃうから」

「私はせっかくの海だから、ひと泳ぎしてくるわ!」

 アンジェリカは走って、また海のほうへと向かっていった。


 泳いでいる最中にナンパされることはないだろうし、しばらくは安心だろう。


 さて、レイティアさんとワシの二人の時間になった。

 もしや、アンジェリカはそこまで考えて、一人で海に行ったのか? それは考えすぎだろうか。どっちみち聞いたところで教えてくれないだろうから、真相はわからない。


「ガルトーさんはも泳ぎに行ったりします? わたしはゆっくりお昼寝でもしてますから」

「いえいえ、ワシもここに残ります!」

 泳ぐより、ここに残るほうがはるかに有意義だ。


「じゃあ、二人でゆっくりしましょうか~」

 レイティアさんは布の上に腹這いになる。これは海で定番の姿勢らしい。

 ただ、大きな胸がぎゅっとつぶれて、そこに目がいってしまう。本当にレイティアさんの胸はただものじゃないな……。スライムでも飼っているみたいだ……。


 あと、背中から腰にかけてのラインも素晴らしい。ここだけを見れば、清楚という言葉もしっくりと来る。まるで天使の肌だ。


 しばらく、ワシは言葉を失っていた。

 きれいな肌ですねと言うのも感想としておかしい気がしたし。


「ガルトーさん、旅行を計画してくれてありがとうございました」

 レイティアさんが顔をこちらに向けた。

「喜んでいただけているなら、ワシは本望です。家族旅行らしい家族旅行もしてなかったですしね」

「わたしもアンジェリカにこういう家族らしいことをしてあげることができてなかったから、ちょうどよかったです。こんなに無邪気なアンジェリカを見るのは、すごく久しぶり」


 その言葉は少し意外な気がした。

「レイティアさんの前では、アンジェリカは素直だと思っていましたが」

「わたしに迷惑をかけないようにしようって気持ちが強すぎたんですよ。だから、無理してでも強気に振る舞うことが多くてね」

「強情なところがあるのは……よくわかります」

 嫌というほど経験させられたからな。


「でも、シルハ海岸に来て、あの子もあくまでも普通の女の子なんだなってわかりました。これはガルトーさんのおかげですよ」

「そう言っていただけて、光栄です」


 ああ、魔王だとか勇者だとか、あまり気にしなくてもいいのだ。

 ほかの家族がやっているようなことをワシらもやっていこう。それが幸せへの近道なのだ。


「そうだ、焼きソーススパゲティを買ったんですが、食べますか?」

「あら、いただこうかしら~」


 まず半分ほどレイティアさんに食べてもらおうと渡した。でも、想定と違うことが起こった。


 レイティアさんはフォークに麺を巻き付けると――

「はい、ガルトーさん、あ~んして♪」

 ワシの口のほうに持ってきた!


「なっ! それは少々抵抗が……」

 うれしくはあるが、こんなことをして許されるのかという気持ちがある。しかも、もしかしたらほかの海水浴客に見られているかもしれないし……。

「いいじゃないですか。わたしたちも新婚さんなんですから~♪ うふふ♪」

 楽しそうにレイティアさんが微笑む。その微笑みにやられた。


 家族サービスなんだもんな。ワシだって家族の一員だ。サービスされたっていいのだ。

 口を開けて、麺を入れてもらう。


「どうです? おいしいですか?」

 あ~んしてもらった時点で、毒物でもおいしいですと思ったが、そんなことを言ったら気持ち悪いよな。


「美味というわけではないのですが、チープな味がこの土地にはなぜか合いますね」

 絶品ではないが名物という理由がなんとなくわかった。水着で浜辺で食べるのだから、格式ばったマナーも宮廷料理の味付けも必要ないのだ。


「じゃあ、もう一口。あ~ん♪」

 ああ、心が浄化されそうだ……。ここに来てよかった……。


 ただ、この逆をするには、羞恥心で勝てなかった。

「じゃあ、わたしも少しいただきますね~」

 レイティアさんはフォークを自分の口のほうに入れる。二人でシェアする形だ。


 だが、そこでアクシデントが起こった。

 具のキャベツと肉、それと麺が少し、レイティアさんの胸の上と胸の隙間に落ちた。

「あらあら、いけないわね。食べ慣れてない料理だから、汚しちゃったわ」

 レイティアさんはその具や麺を手でとって、口に入れてから、指も舐めた。


 ワシは真正面でその様子をずっと見ていた。


 なんでだ、とくにいやらしいことをしているわけではないはずなのに、やけにいやらしい。


「あら、ガルトーさん、どうかしましたか~?」

 レイティアさんはきょとんとした顔をしている。何もかも素であったらしい。

「ははは……何もありませんよ……」

 家族旅行って、とってもよいものだなと思った。

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