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73 温泉旅行に決定

 ワシは帰宅すると、夕食中に早速切り出してみた。


「アンジェリカよ、お前、どこか行きたい場所とかってあるか?」

「レアアイテムが眠ってるダンジョン!」

「違う。そういうのじゃない」

 やっぱり、冒険者なんだよなとこういう発言を聞くと思う。


「もっと、こう……観光地とか温泉とか、そういうところだ」

「北の温泉街の奥地に隠しダンジョンがあるって噂なのよね。お湯を吐き出し続ける泉源のライオンの口があるって噂」

「だから、ダンジョンに結びつけるな」

 あと、そのライオンの口を持っていかれたら、お湯が止まりそうだから、探さないでやってほしい。温泉街が滅びそうだ。


「でも、温泉は悪くはないな。アンジェリカ、温泉なんて行きたくないか? 泊まりがけになる場所でもいいぞ」

「えっ? 泊まりがけ? それって面倒よね。温泉とか、とくに興味ないし……」

 うっ……若い世代にはあまり訴えかける力がないのか? ワシは温泉とか、かなり高得点なのだが。


「温泉、いいわね~。たまには行きたいかも~」

 レイティアさんがほわほわした笑顔で言った。

「ですよね! ぜひ、温泉行きましょう!」

 レイティアさんの願いとあらば、聞かないわけにはいかない。もはや、家族サービスではなく、ワシが行きたいから行くというものになっているな。


 だが、アンジェリカがあきれたような顔でワシを見ていた。

「はいはい、今日もお熱いこと。うん、愛する妻のために旅行に行くっていうのも悪いことじゃないんじゃない?」

 また、悪い癖が出ていたと反省した。

 いつもの調子で、レイティアさんの要望だけを聞いていた。これが誕生日プレゼントでお願いされたとかなら何も問題ない。


 だが、ワシが旅行を考えた発端は家族サービスだったはずだ。アンジェリカの要望が反映されてないなら、家族サービスとしての価値は低い。


 ワシは体を前のめりにさせて、少しアンジェリカに顔を近づけた。

「アンジェリカ、温泉の中でお前が行きたいところとかあるか? この温泉はすっごく入りたかったとか、冒険者の間で話題だとか」

「いや……私、温泉にそこまで興味ないし……。それって、おじさんの趣味な気がするのよね……」


 おじさんと言われて地味にショックだったが、盗賊ジャウニスみたいなチャラいキャラの趣味が温泉だとか想像しづらいから、当たっているのかもしれない。


「まあ、調べては見るわ。全国の情報をまとめてるものはあるから」

 アンジェリカは一度、自室に入ると、本を一冊持ってきた。


『全国旅ガイド』という書名だった。あまり質の良い紙は使ってないから保存はきかなそうだ。

「お前、そんな本を持ってるのか」

「冒険者は持ってる率、高いわよ。街道のどこにいい休憩施設があるとか、どこの宿屋が豪華だとか書いてるから。とくに、女性冒険者はトイレの場所とか、トイレが清潔かとか、気にするからね。そういうことも列挙してあるのよ」

 ワシが幼い頃は人間の冒険者はトイレの場所まで考えて移動してなかったはずだが、時代は変わってきているらしい。


「そういや、冒険者って職業が全国を移動する旅行者みたいなものだものな」

 ある種、アンジェリカは旅行の達人なのかもしれない。でも、それだと家族サービスもしづらいな。


「この本、観光情報も載ってるのよね。温泉があって、さらに行きたくなるようなところなんてあるかしら。ええと、ええと……」

 ぱらぱらとアンジェリカは本をめくりだす。

 食事が終わってからにしろと思ったが、話題を出したのはワシなので、言いづらい。説教くさい父親もよくないし、黙っていよう。


「あっ、ここも温泉があるんだ!」

 約一分後、アンジェリカが元気な声をあげた。

 楽しそうな顔になっているから、何かいい場所が見つかったのだろう。


「ねえ、魔王、ここなら私も行きたいわ!」

 アンジェリカがワシのほうに本を開いて見せてきた。

 そこには、砂浜の絵ともにこんなことが書いてあった。


===

シルハ温泉

白い砂浜がどこまでも続く、南国のリゾート。青い海を泳ぎに来る観光客も多い。しかも、温泉もあって、中高年でも楽しめる。

===


 ちょっと、最後の一文が気にかかる。中高年じゃなくても温泉が好きな奴はいるだろ。それに青い海で泳ぎたい中高年だっているだろ。

 いや、分厚い地誌を読んでいるのではなくて、冒険者用のガイドブックだ。内容にツッコミを入れるのはやめよう……。


「なるほど、シルハ温泉か。ちと遠いが、いけない距離でもないな」

「私、南国のほうに冒険で行ったことがないから、きれいな海って見たことがないのよね。知ってる海は青いというより、黒い感じのところばっかりだったし。砂浜もゴミが散乱してた……」

 たしかに土地によって、海の風景も大きく変わるからな。


「いいわね~。わたしは温泉があるなら、それで十分うれしいわよ。しかも、海も美しいとか最高だわ~」

 レイティアさんも絶賛してくれている。もはや、ここにしない理由がどこにもない。


「よし! 三人でこのシルハ温泉に行くとしよう!」


 そうと決まればすぐに行動だ。

 まず、ワシは仕事の休みが重なっている時期を確認した。いきなり、明日から数日、城に出勤しないというわけにはいかないからな。魔王の決裁が降りないと困る書類なんかもあるので、前触れのない休暇は嫌がられる。

 連休のある時期を発見した。日程はここで問題ない。


 続いて、シルハ温泉のホテルに向かって、ワタリガラスを一羽飛ばした。

 宿泊場所を確実に押さえておくためだ。行ってみて泊まれる場所が埋まっていて探し回るだなんてことになったら、旅行気分も台無しになるからな。


 数日後、ワタリガラスは宿泊OKの紙を持って戻ってきた。

「うむ! 家族旅行の予定は完璧だ!」


 ワシはワタリガラスに褒美として獣の肉をしこたま食わせた。

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