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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王、家族サービスで旅行をする編

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72 家族サービスという概念

今回から新展開です、よろしくお願いします!

「魔王様、お疲れじゃありませんか~?」

 フライセが確実に何か邪まな意図を持って話しかけてきた。

「疲れているといえば、まあまあ疲れている」

 このあとには「でも、帰宅して妻の笑顔を見れば、その疲れも吹き飛ぶ」という文が隠れているが、言うと新婚バカっぽいので言わない。


「あらあら、それは大変ですね! 実はですね、私、指圧が得意でして。ちょっと、二時間ほど有休を取って仮眠室まで来ていただけませんか? そこで、ゆっくり、ねっとり、指圧しますから!」

「指圧にねっとりって表現は絶対に出てこんだろ」

 溶けたスライムでも乗せるのか?


「大丈夫ですって。壁のシミを数えてる間に終わりますから。だから、ぜひ仮眠室まで! サービスしますから!」

「少なくとも、お前と二人きりの状態で眠るような危ない真似はせんから無駄だぞ」


 もう、フライセはセクハラでクビにできる範囲には達していると思うが、案外、仕事のほうもやっているので辞めさせると業務に支障が出る。

 その証拠に他人に厳しいトルアリーナが何も文句を言ってきていない。


 ただ、ワシ個人で見ると、気が散る発言をしてくるので以前より固い意志というか集中力が求められる。なかなか、世の中、上手い具合には回らないものだ。

 今も頭に胸の感触がある。フライセが当ててきているのだ。


「これだけサービスしてるんだから、もうちょっと反応を示してくださいよ。こっちがみじめになってきますって」

「知らん。ワシはそういう露骨なのは動じんのだ。というか、さんざんやられて比較的動じなくなった」


「過去にフライセさんのような策を考えた方は、魔族の有力者に何人もいましたので」

 トルアリーナが説明を加えてくれた。こっちは一仕事終わったのか、お茶を飲んでいた。トルアリーナはお茶をいれるスキルが高い。


「娘や妹を嫁がせて、あわよくば魔王様と親類関係にと思った方なんて、珍しくなかったでしょうから。初期には、もっとひどい色仕掛けみたいなのをやってきた魔族もいました」

「うえっ……。それはドン引きですね……」

「フライセ、お前、鏡を見ろ」

 自分も同じことをしてるのに、それに気づかん奴は一定数いる。


「ですが、あまりにも魔王様が動じないので、積極的な方法はむしろ逆効果だという結論に達したようです」

 そりゃ、そうだろう。面識もない異性が急に誘ってきたら、誰だって怖いだろ。


「そこから先は、自称『幼馴染おさななじみ』が何人もやってくるという大変面白い事態まで発生しました」

「マジですか! それ、すっごく見たかったです!」

「ワシは思い出したくもない」

 実際、トルアリーナは思い出し笑いでもしたのか、口元がゆるんでいる。


 一週間で幼馴染だと名乗る女が五人やってきたからな。何の企画だよと思った。せめて、貴族たちも時期をずらせよ。


「それから先もいろいろありましたよ。ツンデレな方たちがやってきたりとか。魔王様に失礼な言動をしてくる方が多かったので罰金刑にしました」

「『ぶっ飛ばすわよ!』とか言ってる奴がいたからな。それは脅迫と言われてもしょうがない」

 フライセすらあぜんとしていたので、相当アホな事態だったことがわかる。

「ああ、いますよね。ツンデレと暴力ヒロインを混同する人……」

 フライセ、変なところに詳しい気がする。


「その次は私みたいなメガネをかけている方が何人も押しかけてくるということもありましたね」

「なるほど~。メガネフェチかもと思ったわけですね~」

 たんに秘書がメガネをかけているだけで、メガネをかけてる女を秘書にしたわけではない。


「あれは私から見てもいただけない内容でしたね。明らかにメガネをかけてない人に無理矢理メガネをかけていただけでしたから。魔王様と会う時だけメガネをかけてる方もいました」

「それはメガネフェチに対する冒涜ですね」

 トルアリーナとフライセ、なかなか意気投合しているな。

 

「うんうん、ありますよね~。本人はサービスしているつもりで、かえってマイナスになってることって。私も見習いたいと思います」

「やっぱり、お前、鏡を見たほうがいいぞ」

 フライセは自己肯定感が高すぎる。低ければいいというものでもないが。


「あっ、そうだ、サービスといえば、魔王様はサービスしてるんですか?」

 フライセが気楽に聞いてきた。最初から知っていたが、こいつは魔王に敬意を払うつもりがない。一応、「様」付けはしてるが、本当に形だけといった感じだ。


「サービス? ワシは魔王だぞ。魔族の中にサービスをする対象がおらん」

 サービス――表現を変えれば奉仕活動にでもなろうか。魔王が配下に奉仕することなどない。


「いえいえ、魔族の中というか、家庭の話ですよ。家族サービスです」

 その言葉が強く頭に刻み込まれた。


 家族サービスだと!?


 そういえば、父親は妻や娘に家族サービスをしなければいけないものではなかっただろうか……?


 あれ、思い返してみると、家族サービスと呼べるようなことをした記憶があまりない。 

 まずいぞ、これはまずいぞ。

 ワシはずっと理想の父親像から、そんなに外れてない生活を送れていると考えていた。アンジェリカとの仲も、合格点をつけてもいいぐらいかなと思っていた。


 しかし、それだけでは足りないかもしれん。

 家族サービスという言葉があるように、むしろ、家族を積極的に楽しませたりするようなイベントを計画することが家長には求められているのではないだろうか。


 自分で非がないつもりでも、それは非がないだけで、アンジェリカに「どこにも連れていってくれないような父親」と思われている危険もある。

 どうしよう……。

 これは大至急、対策をとるべきだ。とらねばならない。


「フライセ、ありがとう。お前のおかげで助かった」

「あっ、魔王様も私にひっつかれて、うれしかったんですね。このむっつり魔王め~」

 にやにやしながら、フライセが小突いてきた。

 そういう意味じゃないし、むっつり魔王という表現が流行したら嫌なので言うな。


 あと、お前、クラスの友達ぐらいの距離感で接してくるよな……。この部屋で働く奴、ワシに対する敬意を失う呪いとかかかるのか?

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