7 女勇者と魔王の家の朝
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「朝食美味かったか?」
「知らない。普通。あと、話しかけてくるな」
アンジェリカが冷たく言った。心を開くつもりはないか。それでもワシは攻めるぞ。勇者の嫌がることをしてこそ魔王だからな。
朝食を食べると(残さず食べていた)、アンジェリカは冒険に出る支度をはじめた。
「暗くなるまでには帰るのだぞ」
「父親役だからって、女勇者にかける言葉としてはおかしいでしょ! 魔王の城に行けるぐらいまでは強いから安全よ!」
「それだけではない。夜遊びが習慣になると、体のリズムも悪くなるからな。太陽がのぼっている時間に働き、沈んだら休む、そのサイクルが正しいのだ。夜になっても残業し続けるとかは、根本からおかしいのだ」
言った手前、魔族の労務管理も一度見直さんとあかんなあと思った。
冒険者と前線で戦う者には危険手当とかもっと出すべきだろうか。
「冒険者は時間が不規則になるものなの。ダンジョンの中って光が当たらなくて時間感覚がわかりづらかったりするし。もうすぐで攻略できるってところまで来たら進むしかないでしょ」
「攻略に余裕がないなら、まだ未熟でクリアに達してないということだ。そういう時は無理をせず、こつこつとやれ。でないと全滅するぞ」
「あんた、さっきから魔王として発言してはいけないことばかり発言してるわよ……」
しょうがない。(義理の)娘なのだから。再婚相手の娘に冷たく接する奴とか、クズにもほどがある。そんなクズが再婚相手だったらレイティアさんもつらいだろう。
惚れた相手を悲しませるようなことをしてはならん!
「ところで、今日はどこへ行く予定なのだ?」
「娘の予定を聞くとか、ほんとに父親か!」
ほんとに父親だ。ごっこではない。
「魔王の城に直行で行っちゃったから、攻略できてないエリアがいくつも残ってるのよね。亡霊の塔か嘆きの洞窟に行くつもり」
「ああ、行ってもいいが、どっちもボスはおらんようになるぞ」
「へっ!? どういうことよ……」
「だって、ワシがレイティアさんと再婚した時点で魔族と人間の間に同盟関係が締結されたとみなされるべきであろう。だったら戦う意味もないから撤退させる予定だ」
むしろ、そうせんと、レイティアさんが人間たちに白い眼で見られかねん。
魔王に与して人間を滅ぼそうとしてるとか人間に思われたら困る。
「えーっ! じゃあ、女勇者の存在意義なくなるじゃない……」
「それは言い過ぎだ。ワシが統括しているのはあくまでも魔族であって、知能の低いモンスターは各地にはびこり続ける。そういうのを退治してくれ」
モンスターは動物みたいなものだから、管理もできない。それじゃ、なんで魔族といっしょくたにされているかというと、死んだ時に宝石の姿に変わるからだ。
どうやらワシら魔族は魔石とかいう魔力を秘めた石から突然変異として出てきた種族らしい。
繁殖能力はあるし、石を触ったからといって魔族に変化させたりもできんのだが、本来、石からできた存在なのは間違いない。
「納得はいかないけど、意味はわかったわ……。でも、ザコモンスターを倒すだけの日々とか地味すぎるでしょ……」
「勇者の目的は人々の暮らしに平和をもたらすことであろう? じゃあ、平和になるからいいではないか」
おかしなことは言ってないと思う。
「そうなんだ……そしたら、勇者はただの冒険者になるのね。ゴロツキ崩れとか陰口叩かれたりするんだ……」
「自分も冒険者なのに冒険者をあまり悪く言うな」
「なによ……。魔王にとって冒険者は敵なんだからいいじゃない……」
うっ……それはそうだったのだが、魔族と人間の争いが終われば別に敵ではなくなるのだ。
「と、とにかく、冒険者であるのが嫌なんだったら、国の騎士団にでも入ればよかろう。戦うという意味では同じだ」
アンジェリカはじっと黙り込んでしまった。
しばらく無言の時間が続く。
気まずい……。
どこで道を誤った? 朝食を食べてる時は多少、関係改善のきざしも見えてきていたのに、またおかしな方向に来ているぞ……。かといって、義理の娘のために人間と戦い続ける魔王をやるっていうのはおかしいだろう。争いを中断させるのは必要だ。
「騎士団になれですって?」
ぼそりとアンジェリカがつぶやいた。小声だったので、聞き逃しそうになるところだった。
「そうだ! 騎士団なら給料も出る。つまり、生活も安定している。お母さんだってそのほうが安心する。誰にとってもいい選択――」
「やっぱり、あなたは勇者のことも、私のことも何もわかってないし、わかる気もないんだわ!」
娘に怒鳴られた……。
そのまま娘はワシから背を向けたまま、玄関のほうへと歩いていく。顔は見えないが、かなり険しい表情をしているだろうことは想像がつく。思春期の男女はややこしいのだ。
「……出かけるわ」
「夜遅くなる前に帰ってくるんだぞ」
「魔王には言ってないから!」
また怒鳴られた……。
「ママ、行ってくるから」
「アンジェリカ、ガルトーさんは間違ったことは言ってないと思うわ。争いがなくなるんだから、いいことじゃない。それに魔族との争いをなくすのが勇者の目的だったんでしょう?」
レイティアさんがワシを弁護してくれるのはうれしいが、それでこの状況は緩和するのかというと怪しいなという気もする。でも、やっぱりうれしい。
「あと、ガルトーさんと仲良くなれないのはしょうがないかもしれないけど、かんしゃくを起こすのはよくないわよ。それは勇者の生き方としてもおかしいでしょう。アンジェリカ、そのことはガルトーさんに謝りなさい」
レイティアさんの目が少し細くなっている。おそらく娘を叱る時の表情なのだろう。そういう表情も美しいなと思うが、それどころではないよな。
「レイティアさん、ワシは別に気にしていませんから……」
「でも、ガルトーさん、今のアンジェリカはあんまりだわ」
「……行ってきます」
アンジェリカはそれだけ返事をすると、家を出ていってしまった。
ここで謝罪してもらっても、どうせもやもやしたものは消えずに残るだろうし、ワシとしてはこれでいい。アンジェリカ本人が納得していないのであれば、どんな言葉をもらったところで同じことだ。
「ごめんなさい、ガルトーさん。娘が失礼なことを言って」
「いえ、ワシも頭ごなしに彼女に言ってしまったところもあります。ワシだって自分が子供の時に突然親が新しくなったり、親ができたりすれば冷静ではいられませんよ」
「そうですね。まだまだ時間はかかるみたいですね」
そこでレイティアさんはにっこりと笑って、腕まくりをした。
「今日はアンジェリカのために、豪華な料理をたくさん作ります! 人間と魔族の争いが終わったお祝いです!」
「おお! ぜひともワシも協力します!」
やはりレイティアさんは素晴らしい人格者だ。もう、太陽そのものだと言ってもいい!
だが、そこでふと時間が気になった。
アンジェリカが出かけようと仕度していた時間ということは…………あっ、ワシの出勤時間もかなり迫っている。
「すいません、レイティアさん。ワシ、魔王城に出勤せねばなりません。なんとか、夕飯の時間には間に合わせて帰ってきますので」
「はい、行ってらっしゃい!」
ワシは空間転移魔法で城へと飛んだのだった。
明日も複数回更新できればと思います。よろしくお願いいたします!