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68 勇者、パジャマパーティーをする

 夕食中はさすがにパーティーの男の悪口にはならなかったので、ほっとした。

 パーティーの男に同情する義理はどこにもないが、同じ男として不憫ではあったからな。


 とくに二人とも武道家と盗賊だから、知識の点では女子陣に負けるもんな……。ゼンケイとジャウニス、ある程度の勉強はしておいたほうがいいぞ。あんまりマニアックな知識は実用的ではないが、初歩的な範囲なら勉強はそのまま血肉になるぞ。


 けど、あんまりあの二人が賢くなると、アンジェリカが惚れる危険とかが出てくるのか。

 現状、男子たちってバカよねって空気になってるから、恋愛になってないとも言える。じゃあ、やっぱり勉強しなくてもいいや。バカのままでいてくれ。


 夕食の時も三人はしゃべっていたが、明らかにさっきのトークのノリではなかった。


「魔王殿、義理の娘のアンジェリカに対するこまやかな心づかい、神官としても素晴らしいと思う」

「ですわね。わたくしも魔王さんを見ていると、この家も安泰だなと感じますわ」

 ナハリンもセレネもワシを褒めてくれた。お世辞とはいえ、ありがたい。


「ちょっと、ちょっと! この魔王を評価しても何も出ないよ。魔王は魔王なんだから」

 アンジェリカはワシが評価されると、だいたい落とそうとする。これは勇者の本能みたいなものだろう。


「そんな魔王から爆発魔法を教わったのはどこの誰ですの?」

「しかも、おぬしは次の魔王になるかもしれぬ存在」

 二人にやり込められて、「むむむ……」という顔になるアンジェリカ。

 このへんはたいして変わってない。まあ、賢くなったといっても、マジでガワだけだからな。内面はこれまでのままだ。そっちはもしかしたら死ぬまで変わらんかもしれん。


 でも、総合的に見て、女子三人での話は盛り上がっていると思った。

 おそらく、これまでは話に入れなかったようなセレネとナハリンによる知的な話題にも参加できるようになったりしたのだろう。


「ふふふ、娘が増えたみたいだわ~」

 レイティアさんもとても楽しそうだった。娘の友達との食事と考えれば、それも当然かもしれない。

「ガルトーさん、帰りは二人を送ってあげてくださる?」

「ええ、もちろん。空間転移魔法を使えばすぐですからね」


 二人からも礼を言われた。

「魔王もそういうところは役に立つわね」

「そうだぞ。お前ももっと感謝しろ」

「感謝は……してるつもりではあるんだけど……」

 目をそらしてアンジェリカがぼそっと言った。これは最大級の賛辞と言っていいのではないだろうか。


「あらあら。アンジェリカもガルトーさんのよさがわかってきたみたいね~」

 レイティアさんがこんなことを言ったので、アンジェリカがすぐに抗議したが、そんなに効いてはいなかった。


 うむ、父親冥利に尽きる一日だ!


 そのあと、約束どおり、アンジェリカの友達二人を家へと送った。

 送ったといっても空間転移魔法を使うので、すぐだが。


「今後ともアンジェリカをよろしくお願いしたい。あいつはすぐに調子に乗るところがあるので、場合によってはしっかり叱ってやってくれ」

「そんなにかしこまらなくてもいいですわよ」

「間違った道に進もうとする者を止めるのは宗教家として当然の役目。言われるまでもない」


 両者から信頼できる答えが返ってきた。


 よし、当面はアンジェリカも安泰だな。

 お前はいいパーティーというより、いい友達を持ったな。

 そんな友達を集められるのもお前がいい勇者である証拠だ。そこは誇っていいぞ。



 それから先も三人の交流は密に続いた。

 翌週にはパジャマパーティーが行われた。


 アンジェリカのパジャマは見慣れているが、セレネがベビードールというのか、少し透けているのを着ていたのでびっくりした。

 お風呂に入る時に廊下で偶然、出くわしてしまったのだ。


「わっ! これは失敬!」

「いえ……こちらもうかつでしたわ……。気になさらないでくださいませ……」

 やはり、大人びているだけのことはあって、妖艶な夜着だ……。アンジェリカも五年後とかにはこういうのを着るのか……?


「ちょっと! 魔王! セレネのこと、変な目で見ないで!」

「変な目で見たりはしてないぞ。それは言いがかりだ」

 あと、ナハリンは猫の着ぐるみみたいなパジャマだった。神官らしい服なのかは不明だ。


「とっととお風呂に行ってきて! 魔王で最後だから三時間でも四時間でも入ってていいから!」

「そんなに入ったら湯冷めする!」

「いい? 絶対に私の部屋には入らないでね。神聖なる勇者パーティーのパジャマパーティーなんだからね! 魔王は立ち入り禁止よ!」

 魔王じゃなくても男子禁制だろう。

「今の、勇者パーティーとパジャマパーティーをかけたのか?」


 偶然、ギャグみたいになってしまったことに気づいたのか、アンジェリカの顔が赤くなった。

「いちいち、しょうもないこと言わないでいいから! ほら、お風呂入って!」


 ワシは追い立てられるように脱衣場に移動した。

 女勇者という特異な人生を送ってきたアンジェリカだったが、ここに来てパジャマパーティーか。

「まっとうな女の子に育っているなあ」

 入浴中は独り言が多くなる。


 もしかして、これもワシがレイティアさんと結婚したことによる効果と言えるのだろうか。

 ワシが魔王として君臨していれば、アンジェリカも勇者として戦うしかないからな。いや、今もワシは魔王として君臨はしてるんだけど。


 あいつを皇太子という形にした自分が思うのも身勝手かもしれんが――

 ごく普通の幸せな生活を送ってほしいと願う。


 好きなことをやって、仲のいい友達と笑って、今日も楽しいなと感じて生きていってくれればいい。勇者や魔王としてすごいことをしなくてもいい。他人から見た時に平凡な人生でもいい。


 なにせ、娘が不幸になったら、親として最悪だからな。

「ワシ、最近、ずいぶんとあいつのことを考えてるな。時間としてはレイティアさんより長くなってるかもしれん……」

 ある種、それはレイティアさんとの間に何の問題もないからなわけだが。

 ワシもすっかり親が板についてきて、娘のことを考えるようになってきているのかもしれん。

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