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65 魔王、臨時職員に誘惑される

今回から新展開です。よろしくお願いいたします!

「あの、魔王様、書類のここがわからないんですけど、教えてもらえませんか?」

 ワシの横から臨時職員のフライセがひっついてくる。


「教えるのは別にどうでもいいんだが、お前、胸が当たってるぞ」

 ワシの腕が独特の弾力を認識している。

「もちろん、当ててるんですよ。誘惑しているんです!」

 これ、確実に逆セクハラだからクビにできると思う。


「どうですか? ムラムラしませんか? アフターファイブにホテルに行きませんか?」

「いや、アフターファイブの前に、まず勤務時間中は真面目に働いてくれ」

 ワシは淡々と対応する。


「ちょっと! ひどいですよ! あまりにも事務的すぎるじゃないですか! せめて照れるとか、目を白黒させるとかそういう反応があるべきじゃないですか! 女として負けた気分になりますよ!」

 だって毎日のようにやってきてるんだから慣れるだろ。

 胸だって、所詮、肉のかたまりである。そう考えたらどうでもよくなった。


「ああ、それと、そのへんのわからんところはトルアリーナに聞いてくれ。お前を採用することに決めたのはあくまでもトルアリーナなんでな」

 トルアリーナのほうに責任を移動させていく作戦。


「ですね。フライセさん、わからないことがあればお聞きしますので、どうぞ」

 トルアリーナはワシ以上に落ち着いている。これがいつもの執務室の構図である。

「それと、フライセさん、魔王様を誘惑する作戦は無理かと。独身になった魔王様を狙った女性はかなりの数にのぼりましたが、みんな、撃沈していきました」


「ササヤに申し訳が立たないと思ったしな。あと、なにより……」

 ワシは昔のことを思い出してげんなりした。ワシのせいではないのに黒歴史である。

「みんな、顔に『金!』とか『栄達!』とか書いてあるんだ……。そりゃ、魔王との結婚なら政略要素が出てくるけど、もうちょっと隠してほしい……」


 表向きは愛しているとかそういう形で来てくれないと冷める。

 冷める以前にのぼせることがない。


「仕方ないですよ。玉の輿を狙う方が存在するなと言うほうが無理な話です。逆にわかりやすくていいじゃないですか」

「それは、まあ、そうなんだけどな」


 しゃべりながらもワシは手を動かしている。トルアリーナもワシもこの仕事をやって長い。手際はいい。

 それでも仕事が多すぎて片付かないのでフライセを臨時職員として雇った。これでも多少は役に立っている。


「なんだ……。私みたいに魔王の妻になって一気に上流階級になろうという策を立てていた方は過去にもいたんですね……」

 策という次元でもないだろ。金のある奴と結婚しようってだけの話だろ。


「むしろ、フライセに聞きたいんだけど、そんなに上流階級とか金とかあこがれるものなのか?」

 フライセは立場としては上流階級だが、ほとんど形式だけのものなので、ほぼほぼ庶民みたいなものである。少なくともこいつの価値観はバリバリの庶民だ。


「そりゃ、あこがれますよ。これでも公爵家なんですから! お金持ちの人と結婚して、子供も似たようなお金持ちの家庭の子とだけ付き合わせて、場合によっては許嫁いいなずけの約束とか取り交わしたいですよ!」

 欲望にあまりに忠実なので、一周してこいつって幸せな奴なのかもしれん……。どうやって幸せになるかがはっきりしてるから迷いがないもんな……。


「そっか……。頑張れよ……。いい人もいるさ……」

「フライセさん、魔王様にほかのいい方を紹介してもらおうという手は使えませんよ。私もまったく紹介してもらえていませんので」

「トルアリーナは結婚する気がそもそもないだろ。口で言ってるだけで、ガチで婚活とかしないタイプなんだよ。うかつに紹介したら、かえってお前に恨まれるのが目に見えてる」


 トルアリーナのように言葉では「結婚したい」と言ってるけど、結局ただのポーズという奴は多いので、そこは見極めないといけない。

 なんだかんだで一人の生活をエンジョイしているのだ。

 そこにいきなりお見合いとかを提案すると、普通に嫌な顔をされる。


 あと、実はいまだにフライセは胸を押し付けていた。お前、自分の価値が下落してるぞ。

「ってか、魔王様は再婚して義理の娘もできたわけですよね。ほかの貴族の子供と付き合わせたりとかしないんです?」

 フライセが妙なことを聞いてきた。

 ワシとしてはギャグみたいな話だが、アンジェリカのことを知らないなら、出てきてもおかしくない疑問だろうか。

「人間だから魔族の貴族は避けたいのかもしれないですが、人間の国にも貴族はたくさんいますよね。そういう上流階級との交際はしないんです?」


「あのな、うちの娘はそういうキャラではない。どっちかというと、森に分け入って、花の蜜とかすすって笑ってるような奴だ」

「ガキじゃないですか! ツツジ系の植物をちぎるガキじゃないですか! それで、たまに虫が入っててビビる奴じゃないですか! あと、塀の上をわざわざ歩いて、転落して、脚の骨折ったりする奴じゃないですか!」

 こいつもやけに具体的に語るから、やっぱり庶民なんだな……。


「そうだ。だから、娘は上流階級との付き合いとか確実に興味を持ってない。それに冒険者だからな。お庭でティータイムみたいな連中とは話が合わんさ」

 そんなことより、どこの洞窟にいいお宝があるとかって話のほうが盛り上がるだろう。


「へえ……。あの勇者もせっかく魔王の娘という地位についたのに、もったいないですね。宝の持ち腐れですよ」

「人によって価値のあるものも違うってことだよ」

 娘が急に貴族らしい態度をとって、上流階級の娘ですわとか言ってきても気持ち悪いし。こいつ、ワシを利用する気満々だなって思えて腹も立ちそうだし。


 そういう意味では今のアンジェリカを見ていると、ほっとする。


「あっ、そうだ。いいことを思いついちゃったですよ!」

 フライセが高い声をあげた。こいつの手は止まっているので、いいかげん仕事に戻ってくれ。


「私が魔王様の養女という形になればいいんですよ! 何も結婚しなくてもいいんです! そしたら私も上流階級の娘です!」

「却下で」

「せめて作業の手は止めて、否定してくださいよ! ぞんざいにもほどがありますよ!」

「むしろ、お前が作業を再開しろ! 給料払ってるんだから働けっ!」


章タイトルはもうちょっと進んでからつけます!

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