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63 魔王、心の教育の大切さを知る

「だって、爆発させるのってすごくかっこいいじゃない!」


 とても純粋な、曇りなどまったくない瞳でそう言われた。

「昔からあの魔法、あこがれてたのよね。ドカーンってやったらストレスも解消できるよな~って、あれを使える魔族と戦うたびに思ってたの」


「そ、そうか……? そりゃ、かっこいいと言えば、そうかもな……」

 なぜだろう。

 親の魔法に興味を持ってくれることへの喜びよりも、そこはかとない怖さを感じる。


 こいつ、爆発させるという行為に興味を持ってるんじゃないか……?

 将来、なんでもかんでも爆発させる奴とかにならないだろうな……? とんでもない危険人物だぞ……。


「まず、爆発魔法を教えることはできる。古代魔族語の詠唱に慣れるまでは時間がかかるかもしれんが、手順を踏んでいけばできる。詠唱だからな、ぺらぺら会話できるレベルでしゃべれなくてもいいしな。発音がきれいなら丸暗記でもいける」

「うんうん! やる! しっかり覚える!」

 ううむ、娘がやる気なのにいまいち喜びきれない……。


「ただし、爆発魔法を使用する者は人間社会では恐れられるかもしれんぞ? 魔族が使う魔法というイメージがあるだろうし……」

 ワシとしてはできれば習うのを思い留まらせたい。


「あと、勇者らしいのかっていう部分もあるし……。勇者ならもっと四大元素の地水火風に関する攻撃魔法を使ったほうが正統派っぽいというか……」

「いや、むしろそれは古臭いと思うの。もっと派手なのがほしかったの」

 やはり、こいつ、印象で選んでるな!


「すべてを爆発させて解決する女勇者、なかなかいいと思わない? 新時代の勇者って感じがするわ!」

「それは個人の感想だろ……。それなりに危ない魔法だから、嬉々としてやりたいと言われても教えづらいんだが……」

 この魔法、免許制にしたほうがいいんじゃないか? ムカつく冒険者ギルドとか吹き飛ばしそうだぞ。


「心配しないで。たしかに破壊したい冒険者ギルドも旅の途中で何箇所もあったけど、そこを私怨で爆破したりはしないわ」

「うん、少なくとも発想としては頭にのぼってるんだな……」

「やらない、やらない。だって、そんなのすぐ足がつくじゃない。お尋ね者にはなりたくないわ」

 理屈としてはわかるが、そこは「勇者は人を傷つけるために魔法を使ったりはしない」とか言ってほしかった。


 どうしよう。だが、ここで教えないと言うと、「お前は何をしでかすかわからないから、教えたくない」と言っているのと同じになってしまう。

 つまり、人間として信用できないと言ってることになる。

 娘に対して言ってはダメなことだろう。全否定みたいなものだろう。


 それがきっかけでグレるかもしれん。

 そして、どこかの魔法使いから爆発魔法を習得して、爆発魔になるかもしれん。

 あれ? どっちみち爆発魔法で犯罪者になる流れになってないか?


 ワシが迷っているのを感じ取ったのか、アンジェリカはワシの真正面に立った。

 むっ、文句でも言われるかな……。

「魔王、私は次期魔王になるかもしれない存在なわけよ!」


 胸に手を置いて、アンジェリカはそう宣言した。

「そんな私が魔王の使っていた魔法を習得してないままっていうのはどうなのかしら? 勇者が使うのが変だとしても、魔王が使うと考えれば、ごく自然でしょ?」

「うん、お前の言ってることは正しい」

 ワシは論破された。


 勇者としてではなく、魔王の皇太子として考えればおかしくないな。

 ていうか、こいつ、自分の好きなことに関しては頭の回転早くなってる気がする。


 もはや、断る理由もない。

 それに、将来、魔王になることを意識しているというのは悪い気はしなかった。

 あくまで形式的に皇太子という立場になるのを認めただけだと思っていたが、魔王をやる覚悟も持ち合わせていたんだな。


 人間で、かつ女でもある魔王というのは、史上初のことではないか。

 アンジェリカがまったく新しい時代を切り開いてくれるかもしれない。


「よし、教えてやる」

「ありがとう、魔王! 私、努力するよ!」

 両手を握りこぶしにして、気合いを見せるアンジェリカ。


「だが、魔法の習得のためにまずは詠唱に関する古代魔族語を習わないといけないぞ。地味な作業になるぞ。途中で投げ出したりするなよ?」

「爆発魔法のためなら我慢できる!」

 どんだけ、爆発に興味を持ってるんだよ……。


 いやいや、娘に正しい魔法の使用法を教えるのも、親の仕事ではないのか。

 どんなことに注意して爆発魔法を使うべきなのか、ワシが一つずつ丁寧にアンジェリカに教えていけばいいのだ。それを教える前から逃げていてどうする。


 それが許されるなら、この世の中でちょっとでも危険がある職業になど誰もつけなくなってしまう。ワシは親の責任をいいように解釈して、厄介事から距離を置こうとしているだけだ。


 今こそ、ワシの親としての素質が試されているのだ。


「アンジェリカよ、お前の気持ちはよくわかった。ワシを師と思ってついてこい!」

「うん、やる! 魔王の弟子になってでも爆発魔法を覚える! ぶっ放す!」


 爆発魔法のためになら、世界の半分ぐらい差し出しちゃいそうな勢いがあった……。


「じゃあ、今日はもう遅いし、家に入ろうか」

 ずっと、外に突っ立っていたせいで、体が少し冷えた。


「私、今からでも練習するわよ!」

 意欲のかたまりか。戦闘民族か。


「あのな、どっちみち古代魔族語の発音を覚えないといけないから、外でやる必要はないんだ。あと、あまり張り切りすぎると、息切れするからこつこつやるぞ」

「そういや、そうね。うん、今日はお風呂に入って寝ることにするわ」


 ワシの肩に新たな責任が載っかった一日だった。

 なあに、レイティアさんだって剣舞で暗殺をしたりしたことはない。しっかり教育すれば、手当たり次第爆発させるような人間にはならんさ……。


 この世界すべての子育てをしている親と、子育てを経験した親に、リスペクトの念を覚えた。みんな、すごいことをしている。


 人間の倫理学の本とか買ってこようかな……。

 心の教育って大事な気がしてきた。

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