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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王の義理の娘になった女勇者、家出する編
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6 魔王の朝食

 その夜、ワシはレイティアさんの家の客人用の部屋のベッドで寝た。

 いや、「レイティアさんの家」という表現っておかしいのか? 家族になったわけだし、「ワシの家」と言ってもいいのか? いや、しかし「ワシの家」感はまったくないしなあ……。


 かといって、「女勇者の家」というのも何かが違う。だって、義理の娘だからな。たとえば、おじさんの職業が神官だとして、その家を「神官の家」とは言わんだろう。すっごい他人行儀だろう。


 まあ、この問題は今後考えよう。

 ちなみに寝る前にレイティアさんにこう言われた。

「ガルトーさん、わたしの部屋をお使いになってもよろしいんですよ?」

 正直、びくっとした。


 なんら、おかしなことはない。だって、夫婦なんだからな。夫婦が同じ部屋で寝ても問題ない。むしろ、違う部屋を使ってるほうが家庭内別居っぽくて、よろしくないかもしれない。


 しかし、やはり変な意識をしてしまうし、あと女勇者アンジェリカが余計にワシを嫌いそうなので、辞退することにした。


 こういうのは、あれだ。猫を飼う時と同じ感覚だ。

 あんまり積極的にかかわろうとすると、猫はそいつをうっとうしい奴と思って避ける。

 しかし、我関せずでこちらから接することなくしばらく暮らしていると、猫のほうから「遊べ」とか「もっとメシをくれ」とかいった反応をしてくる。


 今回も似ている。ゴリ押しを続けると、悪化する危険のが高い。慎重に、慎重にいくべきだ。


 ちなみに客人のベッドは――小さくて足が出た。


「ワシ、魔王だもんな。デカいもんな……」

 ベッドに関しては魔王城から持ってこようと思って、その日は眠りについた。



 翌日、ワシはかなり早くに起きた。

 なぜかというと、朝食を作るのだ。

 もちろん、レイティアさんのためという面もあるが、むしろ「娘」のアンジェリカのためだ。


 世間には「胃袋をつかむ」という言葉がある。

 おいしいごはんを作る者は、人に愛されやすいという意味の言葉だ。


 たしかに食事は生物である以上、必須の要素。それを支配する者に自然と親愛の情を抱いたり、反抗心が弱まったりするのはごく普通のことではないだろうか。


 つまり、アンジェリカのためにワシがおいしいごはんを作っていけば、いずれ距離も縮まるはず!

 しかも、朝食は一般的に夕飯より、簡単に作れるものが多い。

 いや、土地や文化によりけりだし、一日二食で一食目が昼前という土地もあるらしいけど、人間の土地でもこのあたりは一日三食の文化だったと思う。


 だから、まずは朝食を作るお父さんを演出するのだ。

 そして、アンジェリカからワシへの印象をよくする!


 しかし、キッチンに行くと、もうレイティアさんが支度をしていた。すでに卵をといている。ハムエッグでも作るのだろう。


「あらら、おはようございます、ガルトーさん♪」

「お、おはようございます! まさか、こんな時間から起きられていらっしゃるんですか……」

「ほら、アンジェリカって冒険者だから。冒険者は早朝から旅をすることが多いですからね。なんでも、夜は魔族が活発になるから移動は危険だとか」

「ああ……それ自体は迷信ですけどね……」


 夜型に特化した魔族をのぞくと、生活リズムは人間と変わらない。太陽をほどほどに浴びるほうが体にもいいのだ。なんでも、太陽を浴びることでできる栄養素みたいなのもあるとかいう話だ。

「でも、人間のほうが夜目がきかない者が多いので、戦闘などで不利にはなると思います。なので日が高いうちに行動するべきだというのは理にかなっています」


「そうなんですね。やっぱり、ガルトーさんは魔王だけあって物知りだわ」

 褒められて、ちょっとうれしくなってしまった。部下による「さすが魔王様!」みたいな褒められ方とはまったく違ううれしさがある。


 いやいや、そんなことより朝食作戦を実行に移さないと。

「あの、レイティアさん、ワシに朝食を作らせてもらえませんか?」

「えっ? そんな。悪いですよ」

 ここは素直に理由を話すべきだろう。


「アンジェリカはワシに抵抗があると思います。それ自体は当然の感情です。そのアンジェリカと少しでも距離を近づけるには、料理を作ってあげるとか、そういったところからはじめるべきなのかなと」


「まあ! 本当にご立派な心がけですね! それじゃ、アンジェリカの分のごはんは作っていただこうかしら」

 ぽんと手を叩いて、レイティアさんはワシの発案を褒めてくださった。

 こうやって褒めて伸ばす姿勢は大事だな。魔王城のほうでも、積極的に導入していくことにしよう。


 ワシは卵とハムでごく単純なハムエッグを作ることにした。味付けは……あいつはよく運動するし、若いからジャンクな味のほうが好きだろう。濃いめなぐらいでよいか。

 あと、パンを炎で軽くあぶっておこうか。でも、今、あぶるとあいつが起きてきた頃に硬くなる危険がある。直前に焼くことにするか。


 そんなことをやっていると、ドアががちゃりと開いた。

「ふあ~あ、おはよう、ママ――――って魔王もいるし!」

 パジャマ姿の女勇者アンジェリカが後ろに下がった。まだ、物理的にも精神的にもかなりの距離があるな……。


「おはよう、アンジェリカ♪ よく眠れた?」

「起きてきたか、アンジェリカよ。朝食は元気の源だ。しっかり食べるのだぞ」


「なんで当たり前のように魔王が健康を気づかってるのよ! 立場としておかしいでしょ!」

 アンジェリカの気持ちもわかるが、そこを詰めていかないと何もはじまらん。


「ワシは形式上、お前の父親となった。ならば、娘の健康に意識を向けるのは父親としてごく自然なことよ」

「あなたね、魔王としての威厳とかないの? それでいいわけ?」

「ハムエッグの塩味は少しきつめにしたが、それでも足りなければケチャップを使うといい」


「ああ、もう……」

 アンジェリカは額を押さえた。

「まだ回復しきっていないのか。無理をすることはないぞ」

「違うわよ! 家で魔王が朝食を進めてくる現状に理解が追い付かないの!」

 やはり、まだまだお互い、壁を感じているようだな。だが、ここで逃げては何も変わらぬ。ワシは変わらんといかんのだ。


「いずれ慣れる。アンジェリカよ、ワシの炎の魔法でパンを焼いてやろう」

「アンジェリカって呼ぶの、やめてよ。父親面しないで」

 そこは避けられているか。予想はしていたが、それでも微妙に傷つくな。

 でも、逃げんぞ! 逃げる魔王など魔王とは呼べぬ!

 それこそ、勇者の前で逃げる魔王などあってはならぬのだ!


「では、逆に問おう。どう呼べばお前は満足だ?」

 ワシはテーブルに、どんとハムエッグの皿を置いた。

「うっ……それは女勇者とかでしょ……」


「お前な、自分の親が、子供を職業名で呼ぶか? 『医者よ、ごはんはどうする?』とか『武器商人、明日は朝早い?』とか言う親などおらんだろう。そういうことだ」

「だったら、義理の父親が魔王になってることのほうがおかしいでしょ!」

 ぐふっ! それは正論だ!


 しかし、ここで女勇者と呼ぶようでは、もはや家庭とは言えん。

 だいたい、レイティアさんも悲しむことだろう。夫と娘が不仲なままではダメだ。


「ふん! お前がワシの言うことを聞かぬのなら、ワシもお前の言うことを聞かぬ! よって、今後もアンジェリカと呼んでやる!」

「か、勝手にしなさいよ……。それを止める権利までは私にもないし……」

 やりづらそうにアンジェリカは顔を背けた。


 おや、こいつも少しは妥協の姿勢を見せてきたのか。

「うむ、好きなようにせよ。それと、パンはどれぐらいの焼き具合がよいか?」

「あんまり色がつかない程度にして……」


「心得たぞ、アンジェリカ」

「必要がないところでまで名前を呼ぼうとするな!」


 それでもアンジェリカはちゃんとワシの作ったメシを食べていた。

「ま~、アンジェリカ、ガルトーさんの作った料理、おいしそうに食べてるわね! これで二人は仲良しね!」

「ママ、変なこと言わないで……」


 レイティアさんが喜んでくれているし、今日のところはこれでよいだろう。


今回から新展開ですが、章タイトルつけるとネタバレになるので、あとで章の更新はします。

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