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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王、娘を後継者にする編

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56 立太子の儀

 そのあと、予定どおり立太子の儀は執り行われた。

 まず、臣下が並んで待っているところに後ろからワシおよび妻のレイティアさんが現れる。

 前妻ササヤがいなくなってから、玉座は中央に一つ置かれていただけだったが、レイティアさんが妻となったことで、玉座を少し横にスライドさせて、王妃用の席が設置されている。


「立派な椅子ですね~。座るのがもったいないわ~」

「いや、レイティアさん、座ってくれないと困ります」


 レイティアさんは儀式がはじまっても呑気だ。やはり、とんでもない大物だと思う。

 目の前には無数の魔族が並んでいる。なかにはいかつい顔の奴だっている。なのにこの態度はすごい。冒険者だって恐れおののいても不思議はないというのに。


 重臣クラスの者の中からも「人間だというのにまったく動じんな……」「さすが魔王様がお選びになった女だ」「女傑ということか」といった声がする。

 そんな観点で選んだわけではないが、妻が評価されているのだから、素直に喜んでおこうか。


 出会いに理由とかつけるのは野暮なんだよ。会って、好きになってしまったらしょうがないのだ。そんなところからぐらい、理由は退散させてくれ。


 レイティアさんが座ると、ずいぶん体が沈んだ。

「うわあ、本当にふかふかねえ~。ベッドみたいだわ~」

「レイティアさん、後ろに座りすぎなんです。もうちょっと前のほうに重心を移動させてください。それ、人間用の椅子じゃないんで」


 いざ、王妃用の椅子に座ると、レイティアさんがとても小さく見える。無論、レイティアさんが縮んだのではなく、椅子が巨大なのだ。座ることよりも権威を示すことを目的としているアイテムだからな。


 親類衆の中にはダットル公女フライセもいた。

 ちっ、作戦失敗か――みたいな表情をしている。悪いが、お前のいいようにはさせんぞ。

 あと、アンジェリカはともかくとして、レイティアさんはワシが「浮気はしてません」と一言言ったら、すべて信じてくれると思う……。


 ありえない話だが、本当に浮気をしてたとしても、「浮気はしてません」の一言で何もかも信じてくれるはずだ……。

 レイティアさんは夫を疑うとかそういう発想が絶対にない。

 なので、ワシもとことん夫として正しくあるように注意しなければ……。


 さて、式次第としてはワシのあいさつがあるところだな。

 レイティアさんの前だし、しっかりやるぞ。いい仕事ぶりであるところをアピールしなければ。


 ――と、なんか式典参加者から歓声が上がっていた。

 レイティアさんが参加者に向けて手を振っていた。


「皆さーん、夫をよろしく支えてあげてくださいねー」

 あの、それなりに厳粛な式なんでもうちょっとゆるくない調子でお願いしますと言いたいところだが――


 亡き妻ササヤもこんなふうだったな。


 ササヤの面影をワシはレイティアさんにはっきりと見ていた。

 あのササヤもどんな式典でもにこにこしていたっけ。それで、抜けたことを言って、周囲を笑わせていた。


 安らぎを与えてくれる女性ひとをワシは求めているのだな。


 ササヤに似ていると感じたのはワシだけではなかったようだ。

 式典の参加者の中からも「前の王妃様の再来のようだ……」「ああ、心がほっとする」といった声が聞こえた。


 これからの魔族に必要なのは、安らぎかもしれん。

 人間との争いも終わり、戦闘体制みたいなものも変わっていくわけだし。

 うん、大きな方向性が決まった気がする。今後、本格的に議論していこう。


 さて、式を進めていこう。

 ワシはゆっくりと玉座から立ち上がり、魔族たちの前に出た。


「皆の者、今から立太子の儀をはじめる。異論がある者はいないな?」

 ちなみにこれはあくまでも形式的な質問だ。本当に異論がありますとこんなところで言われても困る。実際、フライセすら、「ぐぬぬ……」という顔はしてたが黙っている。


「よし、満場一致であることを確認した。それでは、皇太子よ、入ってくるがいい!」

 正面の扉が開き、正装したアンジェリカが姿を現す。頭には角付きカチューシャがはめられたままだ。


 なかなかアンジェリカは誇らしげな顔をしている。

 魔族の格好も思った以上にしっくりきていた。


 式典の参加者たちが息を呑むのも聞こえた。

 うむ、アンジェリカはまぎれもなくワシの娘であり、魔王を継ぐにふさわしい存在だ。魔王になっても、きっと立派に魔族を率いてくれるだろう。


 ゆっくりとアンジェリカは歩みを進めて、ワシの前に来て、立ち止まった。

 玉座のあるところは階段数段分高いので、ワシが見下ろす形になる。


「アンジェリカ、そなたを皇太子に任命する」

 アンジェリカがワシの顔を見上げた。父親に向ける顔というよりは、戦友に向ける顔といった表情だった。


「光栄なことです。謹んで拝命いたします」


 なんだろう、目頭が熱くなってきた。

 ああ、そうか。これは娘の晴れ姿そのものだからだ。


「アンジェリカ、とってもかっこよくて、かわいいわよ。うん、ママもうれしいわぁ……ぐすっ……」

 すでにレイティアさんのほうは泣いていた。やはり、レイティアさん、心がきれいだ。


「こんなんじゃアンジェリカの結婚式の時はどうなっちゃうのかしら……」

「それはまだ先だから安心してよ、ママ」

「うん、そうよね……。ごめんね、うれし涙が止まらないの……」


 なんか、公的な式典というより家族の大切な日みたいになっているが……別にいいのかな……。

 式典の参加者もハンカチを出して目を押さえているのがけっこういるし。


「いいものを見た……」「魔王様万歳!」「皇太子万歳!」「人間で魔族の皇太子やるの大変だろうけど、頑張れよ!」


 それから自然発生的に拍手が起こって――

 立太子の儀は感動的な空気のまま、幕となった。


 これから新しい時代を迎えるわけだし、こういう式典もいいんじゃないだろうか。



勇者が皇太子に編はこれでおしまいです。次回から新展開です!

19日には書籍版が出ます! よろしくお願いいたします!

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