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55 魔王、勇者の親らしい魔王になる

「今からすべてをお前に話す。それで判断してくれ。それがワシにできる精いっぱいだ」

 ワシはアンジェリカの目を見ながら、順番に事情を話していった。


 抱きついていた女はダットル公女フライセという者だということ。

 落ちぶれている一族で、そこから一気に逆転するためにワシと結婚するよう迫ってきたこと。

 あと、強引に抱きつかれたけど……女性に抱きつかれて、その時はあまり悪い気もしなかったこと。


 とくに好きじゃない女でも抱きつかれたら、そこそこうれしいのだ……。もう、これは男の本能みたいなものなんだ……。


「魔王、そんなことまで娘に言わないでもいいんだけど……。むしろ、言ってほしくないわよ……」

 たしかに、これって義理の父親の性欲についての話だもんな……。聞かされるほうもきついか。けど――


「ワシが何か隠しているように思わせてしまったら、意味がないからな。それに、抱きつかれた時にすぐさま離れることだってできたはずなのにしなかったのが、すべての発端と言えなくもないし……」


 ワシとフライセとの能力差は月とスッポン、ドラゴンとアリ。一秒で叩きのめすことだってできた。

 マジでそれぐらいに親類衆って弱いのだ。もし、ワシに匹敵するぐらい強かったら、そいつらを次の魔王にと考える者がもっといたはずだ。


 まあ、女子を叩きのめしたら、それはそれで男としてどうよって話ではあるから、そこまでひどいことはしないが。ただでさえ弱いものいじめみたいで、いい気もしないし。


「その点でお前に誤解を与えてしまったとしたら、ワシの落ち度だ。謝らせてもらう。あと、これでお前の誤解が解けたら、うれしい」

 話すことはすべて話した。だから、この話はおしまいだ。


「魔王、それで私が『信じない、あなたは浮気してる』って言ったら、どうするつもりなの?」

 まだアンジェリカからぴりぴりした空気はある。

 が、戦闘時のような緊迫感まではない。たんに不服といったところか。


「少なくとも立太子の儀は中止だろうな。しょうがない」

 答えは決まっているから、ワシはすぐに返事をした。


「えっ? でも、それ、ものすごく不祥事でしょ? 困るじゃん……」

 なぜか、アンジェリカのほうが信じられないという顔をする。

 えっ? なんで、そこでそういう反応になるんだ? 今回も年頃の娘の気持ちはよくわからん。


「参加者には謝り倒すしかないが、皇太子を拒否している者を強引に皇太子にするわけにはいかんだろう。無理矢理、皇太子ですと引っ張ってもこれんし」


「え、マジ? マジで言ってるの?」

 アンジェリカは目をしばしばさせた。

 だから、ワシの言葉のどこにショックを覚えてるんだ、いったい?


「あ~あ、なんだかなあ」

 アンジェリカは両手を首の後ろで組んだ。

 リラックスしているというか、気が抜けたような表情だ。


「魔王ってさ、政治家に向いてないよね。魔王としてはともかく、政治家としては二流だと思うわ」

「そういうディスられ方は想定しなかったから、反応に困るぞ……」


「そこはさ、魔王じゃなくても権力者だったら、殴ってでもお前を連れていくとか言いそうなもんじゃない。皇太子がドタキャンしたら、政治的に大混乱なわけだしさ」

「だからって娘を不幸にするようなことは選べんだろう。ワシは魔王である前に、お前の親なのだ」


 また、娘って言うなとか文句が来るだろうか。

 しかし、そういう反応はなかった。


 その代わり、アンジェリカはワシに近づいて、ぽんぽんと背中を叩いた。

「なんかさ、魔王、いい親をやろうと努力しすぎなんだよ。それが全然隠せてなくて、娘のほうが恥ずかしくなってくるぐらい」

 あれ? 娘って呼ぶなとか言われないのか。


「もうちょっとクレバーにやってほしいんだよね。魔王なのに腹芸とか全然できずに、いつも真っ向勝負じゃん。ああ、でも、魔王って玉座にどーんとかまえてるものなのかな。補助系の魔法を使いまくって、万全の態勢を整えてくる魔王とかおかしいのか。じゃあ、あってるわね」


 独り言が長いが、アンジェリカが怒ってないことまではわかる。

 もっとも、そうだと思ってたら、いきなりキレたりするかもしれんから、要注意だが。ただでさえ女心はアウトとセーフの区別がつきづらいし、さらに思春期もプラスされていて、無茶苦茶難しい。


 くるっと、アンジェリカは背中を向けた。

 ただ、首は曲げて、ワシのほうを見ていた。

「魔王、立太子の儀の準備があるから戻るわよ」


「あ……ああ。ちゃんと受けてくれるんだな」

「よく考えたら、こんな不器用な人間が浮気なんてできるわけないもん。人間っていうか、魔王なんだけどさ」

 もう、どんどんアンジェリカは先へ、先へと歩いていく。


 ワシもそれについていく。大股で歩けばすぐに追いつく。

「ワシは不器用ではないぞ。いくつも仕事を同時並行でこなせるし。むしろ器用とすら言える」

「いや、仕事は器用にできても、人間関係は別じゃん」


「そうか? あんまり、人間関係が下手ですねと言われたことはないが」

 アンジェリカはそこでくすくす笑った。

「魔王、ある種、勇者の親っぽいよ! これぞ、勇者の親だね!」

「褒められてると受け取っておくぞ」


 危機管理研修とかもやったことがあるからな。

 まずいことがあったら包み隠さず、全部言うことで、かえって信頼を得られる。情報を小出しにするのが最も愚策である。

 あの研修は半信半疑な面もあったが、アンジェリカからの信用は得られたらしい。


「この角付きカチューシャ、けっこうかっこいいね。ダンジョン行く時も装備していこうかしら」

「かまわんけど、儀礼用のものだから防御力は知れてるぞ」

小学館ガガガブックスより、9月19日発売となります! よろしくお願いいたします!

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