表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/178

51 魔王、親類を黙らせる

 そして、いよいよその日がやってきた。

 立太子の儀が行われる日だ。


 ワシは前日からアンジェリカとレイティアさんを連れて、城に泊まっていた。早朝からいくつも準備がある。

 アンジェリカとレイティアさんには朝から儀礼用のものに着替えてもらった。


「どう、魔王? これ、似合ってるかしら?」

 アンジェリカは本当に角の付いたカチューシャを頭に装着していた。

 ほかの服も全体的に魔族の様式に近いものだ。遠目には人間ではなく魔族であるように見えるだろう。


「ワシはとくにかまわんけど、お前はそれでいいんだな。魔族にどっぷりつかってる印象を与えるぞ」

「皇太子をやれって言ったのは魔王でしょ? 私にどうしたいのよ」

「それもそうだな。お前が楽しいようにやれ。どうせ、前例はないんだから、何をやったっていい」


「うん、こんなアンジェリカもかわいいわ~♪」

 レイティアさんも喜んでいるのでいいか。

 一種の成人儀礼だと思えば、そんなにおかしなものでもない。


 そこにドアがノックされる。

 この音は間違いなくトルアリーナだ。


「入っていいぞ」と言った直後、ドアが開いた。

 今日も低血圧気味のあまり楽しくなさそうなトルアリーナだ。

「魔王様、ご親類の方々がお見えになりました」


 ああ、少し前までもしかしたら自分が魔王になれるかもとわずかな望みを抱いていた連中だな。

 向こうからあいさつに来させてもいいが、ここはワシから出向いたほうが向こうも強く出れんかもしれんな。

「わかった。こちらから行く。案内してくれ」

 ワシはアンジェリカとレイティアさんを残して、トルアリーナと遠縁の者たちのところに向かった。


「奴ら、さぞかし不満でいっぱいの顔をしているだろうな」

 廊下を歩きながら、ワシはトルアリーナと会話する。

「はい。表面上は皇太子が決まったことは喜ばしいと言っていましたが、誰も顔は笑っていませんでした」

「ふん、勝手に希望を持って、その希望を失ったら逆恨みか」


 仲の良くない親戚より、かかわりのない他人。

 魔族に昔から伝わっていることわざだ。


「優遇しているという印として、どこかの土地でも与えてやろうか。見返りがあれば納得もするだろう」

「その案自体は悪くありませんが、たいして継承順位の変わらない親類が多すぎるので難しいでしょう。誰かを優遇すればなんであいつだけ優遇するのだとほかの者が怒りますよ」


 ワシはため息をついた。

 本当に地獄の猟犬ケルベロスみたいにしつこい奴らだ。


「いっそ、系図を操作して、何の血縁関係もないようにできんのか」

「そんなことをするぐらいなら、攻め滅ぼしたほうが話が早いかと」

「そういうわけにもいかん。武力で解決すると、結局、別のもめ事が生まれるのだ」


 親類の控え室に入ると、全員が一斉にこちらを見た。

 いずれも公爵や侯爵といった高い爵位は持っているが、実権はろくにない者たちだ。

 魔族の世界は弱肉強食の論理が根底にある。力のない者は威張ることもできない。まして、魔王になどなれない。


「リューゼン家の一門の皆様、本日はお越しくださいましてありがとうございます。一門の長として光栄ですよ」

 連中が「再婚おめでとうございます」などと形式的な礼を述べた。


 こいつらはワシがずっと再婚相手を決めないから、余計にチャンスがあるのではと思っていただろう。

 たんに前妻ササヤを失った悲しみから結婚相手を決められなかっただけなのだが、それでつまらない期待をさせてしまったとしたら、ワシの失策だった。


 お前らでは、アンジェリカにも勝てんぞ。あいつもワシが特訓をつけているから以前よりも剣に迷いがなくなった。最近は歌手になれるかもとかかなり血迷っている気もするけど。


 さて、ここでお前らの怒りを倍増させるほど、ワシは愚かではないぞ。

 ワシは気配りのできる魔王だ。


「このたびは、皆には大変迷惑をかけた」

 ワシは連中の前で、丁重に詫びた。


 連中が困惑した顔になる。ワシが何かに謝罪するとは思っていなかっただろう。

 こいつらを滅ぼすより、よほどこちらのほうが効率がいい。


「今でこそ明かせるが、長らく、再婚相手を決めなかったのは、リューゼン家の中にすぐれた者が何人もいたからだった」

 なわけないだろうが。お前らのことなんてどうでもよかった。

「だが、血筋としての遠さは皆、同じようなもの。誰を選んだところで、またいさかいのもとにもなろう」

 これは本当。


「そこをリューゼン家以外の悪しき者に利用されれば、リューゼン家全体の滅亡につながりかねん。そこでワシはあえてリューゼン家と何のつながりもない者を妻として迎えることにしたのだ。この意味、どうかご理解いただきたい」


 親類連中は堰を切ったように「いえいえ、ご英断です」とか「正しい方策かと」などとおべんちゃらを言い出した。

 今の魔王がワシであることにはなんら変わりはない。どうせなら、媚びを売っておきたいのだ。


「皆のご理解、感謝する。今回の皇太子もワシの娘である以上はリューゼン家の者も同然。どうか盛り立てていってほしい」

 よーし。やるべきことはやったぞ。

 ワシは紳士的に対応するからな。お前らに付け込まれる隙とか与えんからな。


「魔王様、ご親類の方々の席次の確認をいたしますので、私はここに残ります」

 トルアリーナがそう言った。うむ、恨まれん程度に適当にやってくれ。


「では、ワシはこれにて失礼する」


 よし、次の仕事まで部屋に戻ってのんびりするか。

 あと、見張ってないと、またアンジェリカとレイティアさんが勝手にどこか出かける可能性がある。

 勇者というのは好奇心旺盛なのだ。かつての勇者の中にはタンスの中や壺の中をあさりまくっていた者もいるという。ただの犯罪じゃないのか?


 だが、ワシが歩いていると、柱から何者かがさっと飛び出してきた。


「ちょっと! いったい、どういうことですかっ!」

 女子の魔族にしては背の高い奴だった。

活動報告に書店販促用の画像が解禁になったので、アップいたしました! 書影は来月頭に解禁になるので、その時に公開いたします! ガガガブックスさんより9月19日発売です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ