43 魔王、義理の娘の頭が悪いことに気づく
今回から新展開です! よろしくお願いいたします!
夜、ワシはダイニングで人間の王国――マスゲニア王国の本を読んでいた。
昔の人間の魔法について研究した本だ。人間の魔法に関してはやはり人間のほうが詳しいからな。魔族の世界にはないような独特のものもあって面白い。
そこに風呂上がりのアンジェリカがやってきた。首にバスタオルをかけて、しかも髪もぬれて、しかも頭から湯気まで立っているので間違いないだろう。
「魔王、本を読んでるんだ。なんていうか、勉強熱心だね。仕事の時間じゃないのに」
「別に仕事のつもりで読んでるわけではない。娯楽の一環だ」
「ふうん。魔王の考えることはよくわからないわ……って、えっ!?」
急にアンジェリカがワシに顔を近づけてきた。なんだ? 何かおかしいことでもあったか?
「あんた、それ、王国の本じゃない! 表紙も王国の言葉だし……」
「当たり前すぎて、何で驚いているのかいよいよわからんぞ……」
「つまり、あなた、本のレベルでも人間の言葉が読めるってこと!? 魔族の言語って、かなり違うはずなのに……」
「いや、別に読めるだろ、これぐらい。表記法が違うぐらいだし」
アンジェリカの言うように、魔族の言語と人間の言語(ここではとくにアンジェリカとかワシが暮らすマスゲニア王国)は表記法がかなり違う。地域が違うので、それもしょうがないだろう。
言葉のほうは大差もないので、お互いにしゃべればだいたい何を言っているかわかるのだが、表記法自体は独自の発展を遂げたので、文字からしてまったく違う常態になっている。
「魔王って頭いいんだね。しかも、それ、王国の本でも古いやつだから、さらに表記法も今と違うはずだしさ……」
「だから、それぐらい読める。ワシ、大昔にマスゲニア大学に留学してたこともあるしな」
「ほんとにインテリなのね……えっ? え、え、え、え、えーっ!」
「お前、ちょっとうるさいぞ……。近所にまで聞こえそうだから、トーンを落とせ……」
勇者という職業柄、アンジェリカの声はよく通るのだ。
しかし、なんであんなにのほほんとして、すべてを包み込むようなやさしさを持ったレイティアさんから、こんな一本気の女勇者が生まれるのか。
割と永遠の謎かもしれない。父親のほうの血を色濃く受け継いだのだろうか。それぐらいしか説明がつかない。レイティアさんがこんな性格になるようにアンジェリカを育てるとか、どうあがいても無理だしな……。
「それで、今度は何に驚いたんだ。お前の驚きの基準がわからん……」
「なんで魔王が人間の大学に留学してたのよ! そんなの入学許可出ないでしょ」
ワシはぶつぶつと変化魔法を唱えた。
角がぱっと消えた――と思う。鏡で確認はしてないが、こんな単純な魔法は失敗せんだろう。
「こうやって、角を消せば、いくらでも潜り込めるだろうが。ちなみに地位の高い魔族が子供を人間の土地にある大学に留学させるのは一般的だぞ。戦争も含めて、人間と交渉するようなことも多かったから、人間の言葉が何も読めないというのでは困る」
「私、衝撃の事実を聞かされてるんだけど……」
アンジェリカのバスタオルが首から床に落ちた。打ちのめされているらしい。
「まっ、こんなの勉強すれば誰だって読めるようになる。覚えるか覚えないかだけだ。それに、この本は神聖文字を使ってるわけでもないしな。ほら」
ワシは本をアンジェリカのほうに向けた。
アンジェリカの頭に「?」みたいなマークが浮かんだ気がした。
顔を見ると、どうもまったく理解してないようだ……。
「ええと……この単語は『魔法』を表す言葉よね……うん、それは魔法使いのセレネや新歓のナハリンから聞いたことがあるから知ってる……。次の単語は……少し変わってるから飛ばしてと、その次ね。……これも飛ばして、そっちも飛ばして……」
こいつ、本を何も読めてないな。
古文と言えなくもないが、そんなに現代文と大差ないだろう。こんなに固まるものか……? 石化魔法を受けたみたいになっている。
ワシは嫌な予感がした。
部屋から最近出版された王国の本をとってきた。
「アンジェリカ、これを読んでみろ。マスゲニア王国の農業について書いてある本だ」
「これぐらいわかるわ。キャベツのことについて書いてあるわね!」
うん、キャベツの挿絵が横についてるからね……。
「そのキャベツがどうだって書いてある?」
「…………新鮮なキャベツは甘いって書いてある」
「正解は『キャベツ農家、台風で打撃。公的支援必要か?』という内容だ……」
これではっきりとわかった。わかってしまった。
アンジェリカのやつ、かなりあほだぞ!
「なあ、勇者というのは魔法も使えるものだろう? ある程度の知性がないとつとまらないものではないのか?」
「魔法は詠唱を丸暗記で覚えたから。あとは気合いよ。発音してるところを夢に出てうなされるぐらい、ひたすら唱え続けたわ。いやあ、あの時は苦しかったわね」
すっごいゴリ押しで魔法を習得している!
その苦労は苦労ですごいと思うが、アンジェリカの学力はかなり低い。
むしろ、勉強をしなきゃいけない時に勇者として旅に出ているので、その時に学ぶべきことがぽっかり抜けているのだ。
このままではいけない。
戦乱の時代なら脳筋でもやっていけるかもしれないが、もはや魔族と人間が争う時代ではないのだ。今後、頭を使わないと生きていけない局面がどんどん増えていく。
しかも、あほということはそれだけだまされやすいということだ。
詐欺とかにもあっさり引っかかるおそれがある。悪い男にいいカモにされることだってありうる……。
あと、義理の娘がすっごいあほだったら、まともに教育をしなかったとしてワシも白い目を向けられるかも……。
ワシはぽんとアンジェリカの肩に手を置いた。
「明日からお前はワシと勉強をしてもらう」
このままでは恥ずかしくて、どこにも嫁に出せんレベルだ……。相手も退くぞ。で、同じような知能レベルの奴とばっかりつるむようになったりするぞ。
まともな結婚相手ができるようになるぐらいには、義父のワシが責任を持って教育せねばっ!




