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42 魔王、妻にしっかりと愛を伝える

「レイティア、このガルトー・リューゼンはこれまでの再婚以来、円満な家庭環境を築けるように努力してきたつもりだ。とくに、年頃の義理の娘でしかも女勇者のアンジェリカに嫌われないように、アンジェリカのほうも気まずくならないようにと心を砕いてきた」

 いやあ、本当に心を粉になるぐらいに砕いたよ……。

 せめてアンジェリカが男だったら、もうちょっと気楽だったかもな。おいおい、そんな感慨は今はどうでもいい。


「ええ、あなたはアンジェリカのいいお父さんになってくれていますわ。それはアンジェリカも感じてる。ああいう性格だから素直には言わないだろうけど、わたしにはわかります」

 レイティアからの評価はワシもうれしい。


「ワシもアンジェリカの父親役を果たそうと躍起だった。それはある程度果たせたと思っている。だが――」

 ワシはじっとレイティアの瞳を見つめた。

 そして、ゆっくりとこう付け加えた。


「このガルトーはアンジェリカの父親ではあるが、レイティアの父親ではない。レイティアの夫だ」

 恋愛感情を伝えるとはこういうことだよな、トルアリーナよ。

 愛しているというごく当たり前のことをしっかりと確認すること。

 それが今日という日の役割だ。


「夫として愛している、我が妻レイティア」

 レイティアは涙を目に浮かべながらうなずいた。

「ありがとう、あなた」


 ワシは再婚直後から、よき父親として振る舞うことを意識してきた。

 それは大切なことだが、ワシが再婚したのは、あくまでもレイティアのことを愛していたからだった。

 その愛を伝える場面はどこにでも転がっているようで案外、少なかった。

 どうしても父親と母親の間の関係になってしまうのだ。


 それ以前に男と女の愛し合う関係がなければおかしい。


 だから、それを誕生日のこの日に伝えようと思った。


「誕生日おめでとう、レイティア」

「ええ、こんなに素晴らしい誕生日、今までなかったかもしれないわ」

「指輪、つけてもいいかな」

 レイティアがうなずいたので、ワシはその手に指輪をはめた。


「この指輪は豪華すぎて、わたしにはちょっとおかしいかもしれませんね」

「そんなに自分を卑下しちゃいけない、レイティア。君は魔王の妻で、勇者の母親なんだから」

 間違いなく、レイティアは偉大な存在なのだ。そこに一点の誤りもない。


「あなた、ちなみに、この呼び方、いつまで続けるつもりなの?」

 くすくすと笑いながら、レイティアが言う。

「うっ……ワシが無理をしていると思っているな……」

 実を言うと、当たりだった。無茶苦茶緊張している。現在進行形で、今も緊張している!


「あんまり、男と女って空気を出しすぎると、アンジェリカも嫌がると思うので、帰宅したらまた、レイティアさんと呼ぶつもりだ……」

 アンジェリカも今後ずっと家の空気が変わってるとなると家にいづらいと文句を言うだろう。それこそ、グレかねない。勇者がグレるのもまずい。


「ええ、今のあなたもかっこいいけど、いつもの魔王らしくない魔王のあなたもわたしは好きですよ」


 結局、レイティアの掌の上で俺は転がされているな……。



 帰宅すると、もうアンジェリカは家にいた。

「おかえり、二人とも。楽しかった?」

「アンジェリカ、ガルトーさんが指輪くれたのよ~。すっごく、きれいなんだから~」

「それを娘の私に自慢するのおかしくない?」


 ああ、もういつもの空気に戻ってるな。たしかにワシもこっちのほうが落ち着く。

 ワシも格好をつけるキャラじゃないのだ。

 気を張る必要もないやさしい家庭にあこがれたから、レイティアさんと再婚しようと思ったのかもしれんな。


 レイティアさんがお風呂に入ったところで、アンジェリカが話しかけてきた。

「首尾はどうだったの、魔王?」

「手抜かりはない」

 ぱちぱちとアンジェリカは手を叩いた。


「よかったじゃない。ママもきっと喜んでるわよ」

「これも、お前を含めて相談に乗ってくれたみんなのおかげだ」

 トルアリーナにも、セレネにも礼を言っておかんとな。何かお菓子でも渡そうか。勇者パーティーの魔法使いにお菓子をお礼に渡す魔王って何だよという気もするが。


「やるべきことはすべてやったぞ。いい時間を過ごせた」

 しかし、なぜかアンジェリカが顔を赤くしていた。

 そんな変なことを言った覚えはないぞ。


「やるべきことはすべてやったってことは……その……子作り的なこともやったの……?」

 ワシは思いっきりむせた。

「そういうことを聞くな! ワシはそんな意味で言ったつもりはない!」

 また、娘と父親の関係が気まずくなるだろ……。その手の話に踏み込むのはやめてくれ!


「魔王、否定しているようでやってないとは言ってないわよね。じゃあ、やっぱり、やったの?」

 喰い気味にアンジェリカが聞いてきた。

「こ、答える義務はワシにはない……。黙秘権というものがある……。だいたい、勇者に聞かれてなんでも魔王が答えると思ったら大間違いだ……」

「うわあ……もう、その反応からして確実じゃない! それ、娘としてはかなりきついんですけど……」

 ガチで引いた態度をとるアンジェリカ。


「聞いてきたのはお前だろうが! なんでこっちが一方的に悪いみたいになってるんだ!」

「悪いけど、何を言っても、今の魔王、説得力ないよ。気持ち悪いからあんまり近づいてこないでくれる?」

「えっ……何、その反応……。とことん思春期は複雑だな……」


「思春期ってあっさり言葉で片付けようとするな! こっちの身にもなりなさいよ! 相当なストレスが来てるんだからね!」

 アンジェリカは部屋のクッションを投げつけてきた。

「おい! ものを投げるな! 家庭内暴力反対!」

「うるさい、うるさい! やっぱり、魔王が父親とか最悪だわっ!」


 そのあと、しばらく魔王と勇者の壮絶な戦いが続いたが、お互い、床に落ちても壊れないものだけを投げたので、とくに掃除が大変になったりはしなかった。


 魔王の義理の娘が勇者というのは、いろいろと無理があるらしい。


妻の誕生日編はこれにておしまいです。次回から新展開です!

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