41 魔王、妻とレストランへ行く
ワシは自分の中で案を具体化させて、アンジェリカにも是非を聞いてみた。
家族であるアンジェリカの協力も必要不可欠だからだ。
「うん、いいんじゃない? 魔王の気持ち、きっとママも喜んでくれるはずだよ」
「そうか。では、当日もよろしく頼む」
「私がやることって何もないでしょ。しっかり、やりなさいよ、魔王」
アンジェリカが笑いながら握りこぶしをワシの前に向けた。
別に勇者と魔王で殴り合って勝負を決めようという意味ではないだろう。
「ああ、魔王の意地を見せてやるわい」
ワシも握りこぶしを作って、アンジェリカのこぶしにこつんとぶつけた。
再婚直後と比べれば、アンジェリカとも親子らしくなってきたかもしれんな。
●
レイティアさんの誕生日二日前の朝。
ワシはレイティアさんにこう言った。
「レイティアさん、二日後、レストランで食事をしたいのですが、どうですか?」
「あらあ、いいですね~。じゃあ、アンジェリカも一緒に――」
「ママ、その日は悪いけど、パーティーで夜遅くまで洞窟に潜るの。だから、参加できないわ」
危ない、危ない……。事前にアンジェリカに話していてよかった。
そりゃ、天使のようなレイティアさんならアンジェリカも呼ぼうとするに決まっているからな。
「そうなの。じゃあ、日を延期して――」
「待って待って! せっかくだし、その日は二人で行けばいいと思うわ!」
「そうなんです……。安くなるチケットがその日まででして……」
アンジェリカもワシも、軽く焦った。やはり、レイティアさんの善人力は舐めてはいけない。
しかし、どうにか誕生日にレストランで会食するところまではこぎつけた。
●
会食の日、ワシは勤務時間が終わると、すぐに空間転移魔法で家に帰宅する。
ここで、礼服に着替える。
「あら~、ガルトーさん、かっこいいですね~」
レイティアさんは完全に普段着だった……。いや、普段着のレイティアさんも当然、素敵なのだが、もうちょっとだけ特別な日という意識がほしい!
「レイティアさん、今日予約しているレストランはかなりいいお店ですので、すいません、ドレスがあればそちらに着替えていただくほうが無難かなと……。ほら、ドレスコードというやつです……」
「あらまあ。だったら、なおさらアンジェリカを連れていけないのが残念ですね~」
いまだにアンジェリカが冒険者パーティーの都合で行けないと信じている。レイティアさん、純真すぎる! そして、そんなレイティアさんをだましているみたいで罪悪感が出てきた!
ちなみにドレスに着替えたレイティアさんは、天使の中でも最高位の天使というぐらいに輝いていた!
「この服、若い時に仕立てたものだから、少し恥ずかしいですね。似合わないかしら。背中も開いてるし」
「いえいえ! 最高です! どんな王侯貴族だって振り向かずにはいられませんよ! では、もういい時間ですし参りましょうか」
ワシはレイティアさんの手をとると、空間転移魔法を唱えた。
たどりついた先は王都でも最高級の店だ。
魔族の土地の店のほうが人間の土地の店より詳しくはあるが、レイティアさんはこの土地の料理のほうが口に合うだろう。
「まあ、こんな立派な店、一度も入ったことがありませんわ」
「ワシはこれでも魔王ですからな。店を押さえるぐらいはどうということはありません」
「わたしへの誕生日プレゼントということですよね。それにしても恐縮しちゃいますわ」
店に入り、名前を告げると、落ち着いた雰囲気のテーブルに案内された。ほかの客からの視線もない。魔王のワシが入店すると、どうしても目立つからな。
「もう、コースは注文しています。飲み物をお選びください」
「やっぱり、お酒も高いわね~」
「今日ぐらいは値段は気にしなくてけっこうです! 最高級のものでもいいですから!」
ぜいたくをしてもらうのにも一苦労だな……。
一皿一皿、クオリティの高い料理が運ばれてくる。
王都で一番の店だけのことはあるな。料理長をワシの城に引き抜きたいぐらいだ。城には会食用の高級レストランも完備している。
「どれもおいしいです。おいしすぎて舌がびっくりしているぐらいです。田舎者の私には似合わないわ~」
そう言いながらもレイティアさんのテーブルマナーは非の打ち所がない。両親の愛をしっかりと受けて育てられたのだろう。
そして、ワシのメインディッシュの仔羊の料理も空になった。
実を言うと、ワシは量的にあんまり足りてないのだが……二皿ずつ注文すると恥ずかしいのでやらない。
「ガルトーさん、おなかすいてるんじゃないですか? わたしの分、食べます?」
「いえいえ! 今日はレイティアさんを祝う日ですからっ!」
ここで気をつかわせたら本末転倒である。
レイティアさんも料理を食べ終えた。
さっと、給仕の人間が皿を回収してテーブルが空く。
「次はデザートかしら。ガルトーさん、本当においしかったですよ~」
「実はまだメインは残っているんです」
ワシはさっと用意していた小さな木箱をレイティアさんのほうに持っていった。
「開けてみてください。レイティアさん」
レイティアさんはゆっくりと、その木箱を開ける。
「まあ! とっても素敵な指輪だわ!」
そう、それは貴族階級の婦人向けの指輪だ。
もちろん、最高級の品だが、価値はこの際、二の次だ。
この指輪を贈るということのほうに意味がある。
「レイティアさん――いえ、今だけはレイティアと呼ばせてください」
俺の表情が真剣なものに変わっていることに彼女も気づいたようだ。
「はい、ガルトーさん」
「ワシのことも、そんな他人行儀なものではなく、ガルトーとかあなたとか呼んでくれませんか?」
「それじゃ……あ、あなた」
その「あなた」という言葉は本当に甘美な響きだった。
でも、その響きにゆっくりとひたっているわけにはいかない。
まだ伝えないといけないことがある。




