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40 魔王、勇者に妻の誕生日について相談する

 ワシは城に着くと、早速、秘書のトルアリーナに尋ねてみた。

「なあ、お前がもらってうれしいものと言えばどんなものだ?」

「推しが私に何かくれたら、どんなものでも最高ですね」

 真面目な顔でふざけたことを言われた。いや、ふざけてはないんだな、多分……。


「ああ、お前はアイドルのファンだったな……。応援してるアイドルから何かもらえたらうれしいか。うん、そうだね……」

「ゴミとかでもいいです。そのために最前列に行く時もありますから」

「何の参考にもならん意見ありがとう」


「ありがたみゼロのお礼なんていりませんよ。だいたい、なんでそんなことを聞いてきたんですか? 魔王様が私に何かくれるなら特別賞与でお願いします」

 これぐらいストレートに要求を言ってくれるとわかりやすいけど、こんな妻は嫌だ。


「いやな、来週が再婚した妻の誕生日なのだ。しかし、何をあげれば喜ばれるかまったくわからん……」

「そういうの気持ちが大事なんですよ」

 書類の整理をしながらトルアリーナが言う。まさに他人事という感じだ。


「それ、逆の立場で言われたら、お前もイラッとするだろ……。気持ちが入っているのは大前提だ。そのうえで、何を渡すかだ」

 想像以上にトルアリーナが何の役にも立たない。


「そうですね~。となると……」

 考えようとしてくれてはいるのか。期待すると裏切られた時のショックが大きいから、期待はしないようにしておこう。

「再婚してから最初の誕生日ですよね。奥さんがキュンとするイベントになればいいですね」

「抽象的すぎて、いまいちよくわからん」

「たとえば、推しがはっきりと私に向かって、ポーズをとってくれるとか」

 推しでたとえるの、汎用性が低いのでやめてほしい。


「いや、ほら、結婚した二人って何年も経つとだんだんと相棒感が出てくるというか、恋愛感情じゃないものに変化していくっていうじゃないですか」

「ああ、それはそうかもな。ずっとラブラブって空気のほうが特殊というか、多少痛々しい」

「ですが、魔王様は再婚してまだ日も浅いわけです。ということは、恋愛感情を表現するような方向にしてはいかがでしょうか。それは女性からしてもうれしいと思いますよ」


「おお、思ったよりも本格的なアドバイスだ!」

 期待せずに聞いた価値があった。得した気分になる。

「どうせ、たいしたこと言わないと思ってましたね。まあ、いいんですけど」


「で、恋愛感情を表現するってどうすればいいんだ?」

「そこは自分で考えてくださいよ! そんなところまで他人任せはおかしいでしょ! 奥さんの気持ちは私より魔王様のほうが知ってるでしょ!」

 なんか、すっごく怒られた!


 でも、何かプレゼントしたとしても、すべて職場の女性に言われたとおりにしただけですというのでは、心がこもってるのかと疑われてもしょうがない。

 そこは自分の頭で考えねばな……。


 恋愛感情を表現するといえば、シンプルな方法だと、好きですと口で言うことだ。

 でも、よほどロマンティックな状況を作らないと、

「レイティアさん、愛してます」

「わたしもですよ~」

 ――で終わる……。

 うん、すっごく生々しく想像できた……。日常の一コマで片付けられる危険がある。


 どうやら、本格的に考えないと失敗しそうだ。失敗してもレイティアさんはなんとも思わないだろうけど、ワシが引きずる。もう、絶対に引きずる。

 なにせ結婚して最初の誕生日だ。再度チャレンジすることとかできない。確実に成果を出したい。


「悩むのはいいですが、仕事もしてくださいね」

「うん。すまん」

 ワシは仕事に取りかかった。

 勤務時間中は真面目に働かなければ。


 で、休憩時間は誕生日対策を本格的に考えた。

 いまいち、いいアイディアは出てこなかった。

 こんなアイディアがひょいひょい湧いてくるような遊び人ではないからなあ……。むしろ、部下たちからも堅物だと言われてきた人生なんだし、そんなにすぐ気の利いた策は出ないか……。


 だいたい、魔王って策士や軍師のポジションでもないし……。どちらかといえば、堂々と構えていて、勇者を待ち受ける立場だし……。あの手この手で人間を撹乱することにけた魔王とかあまりよくないだろう。

 人間側も文句言うし、魔族側からも、フットワークの軽い魔王は困る、威厳が損なわれるとか非難されそう。


 ワシは結論を出した。

 よし、もっといろんな奴に聞こう。


 このままだと、おそらく微妙な形で落ち着いて、努力賞で終わる。

 で、レイティアさんは喜ぶが、ワシのほうはもやもやするということになる……。

 ワシは子供ではない。努力賞で褒められるところで妥協するわけにはいかん!


 ――というわけで、ワシは仕事が終わると、魔法使いセレネのところを訪ねた。

 人間の知り合いで、かつ、レイティアさんのことを知っていそうな者は数が限られているのだ。


 早速、ワシは事情を話した。

「話はわかりましたわ。これはなかなか重大な局面ですわね」

 セレネは一度ゆっくりとうなずいた。

「うむ、秘書のトルアリーナからは恋愛感情を表現できるようなことをと言われたのだが、何かヒントでいいのでいただけないだろうか……」


「魔王さんはおうちではどのような態度で過ごされていらっしゃいますかしら?」

「そうだな、レイティアさんのことが好きなのはもちろんなのだが――アンジェリカもないがしろにしないようにということは気をつけている」


 レイティアさんの許容ゾーンが広すぎるので、アンジェリカの許容ゾーンが基準になりがちというせいもあるのだが、年頃の娘だからさらにデリケートになってはいる。

「母親の再婚相手が魔王だった時の衝撃はワシもイメージするぐらいはできるからな。いい父親であろうという努力は払っているつもりだ」


「つまり、普段の魔王さんは父親として暮らしているわけですわね」

 微笑をたたえながら、セレネが言う。本格的なカウンセラーに相談しているようだ。

「ああ、アンジェリカからすれば父親だからな」


「でも、レイティアさんにとったら、魔王さんは父親ではありませんわよね? あくまでも再婚相手ですわよね?」


 その言葉で、ワシはあることに気づいた。

 ああ、そうか、そうだった。


「ありがとう。少し方向性が見えてきた」

「いえいえ、これは勇者アンジェリカを助けているも同然ですから」


 アンジェリカ、いい仲間を持っているな。今後とも仲良くしてもらうのだぞ。


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