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35 城の表と裏

6000点超えていました! ありがとうございます!

 あれ、反応が予定と違うぞ!?

「そりゃ、官僚をまとめあげるのがワシの立場であるからな……。そのワシが官僚らしく見えたとしても不思議はない。うむ、アンジェリカよ、よくわかっておるではないか。勇者だけのことはある」


「いやさ、もっと魔王らしい仕事ってないの? 臓腑が飛び出るようなやつ」

「そんなん、ないわ」

 なにそれ、怖い。


「あのさ、全体的に地味なのよ……。ていうか、まっとうすぎるのよ……。ここに入ってくる部下も、額を床に打ち付けて魔王に平伏って感じでもないしさ。ごく自然に立ったまま話したりしてるし」

 そんな格好されたら話がしづらくてたまらんわ。


「勇者さん、あなた、それは物語の読みすぎです。たしかに、ずっと昔の魔王様なんかはそういう態度を取っていたそうです。今はもっと官僚の力が強いですし、議会の影響も受けます」

「ふ~ん。ていうか、議会とかあるんだ……」


「ありますよ。貴族院と庶民院の二院制です。資料が必要ならお持ちしますが」

「いや、いらない。そういう制度に興味があるわけじゃないの」

「ですよね。勇者とか、いかにも政治とかに関心なさそうですよね」

 トルアリーナ、一応客人なのでワシの時みたいな毒舌は控えろ。


 ちなみに、レイティアさんは「ここのお菓子、おいしいわ~」とお代わりをしていた。お菓子もいいのだが、もうちょっとワシの仕事も見ていてほしい。


「ていうか、魔王、ここさ、私が前に行った城と全然違うじゃない。どうなってるのよ」

 アンジェリカが立ち上がって、ワシの机の前に来た。

「前に入った城は拷問器具が置いてある部屋があったり、落とし穴とか毒矢スイッチとか罠があったり、マグマみたいな煮えたぎった沼が屋内でも設置されてたりしてたわよ。そういうの、ここまで一切見てないわよ!」


 ああ、そういうことか。

「あのな、あれは――」

「勇者さん、それは裏口のことをおっしゃってますね」

 トルアリーナがお茶を飲みながらそう言った。

 もう、トルアリーナに説明は任せるか。説明に関してはトルアリーナのほうがプロだし。


「裏口……?」

「はい、裏口です。時に勇者さん。お城には古来、大きく二つの要素があります。わかりますか」

「城は城でしょ」

「やっぱり、頭はあまりよろしくないようですね」

 おい、ワシの義理の娘だぞ。言葉のチョイス、もうちょっとほかにないのか。


「城は敵の攻撃を防ぐ防衛拠点です」

 トルアリーナは人差し指をぴんと立てた。

「そうそう。魔王がいる城ってそういうものでしょ」


 トルアリーナの立てた指が二本になる。

「ですが、それだけではありません。城には魔王様のような為政者がいます。となると、当然、政治の中心ともなるわけです。そこからお城は政庁の意味を持つようになります。人間の国家のお城もそういう機能を持っていませんか?」

「あ、そういえばそうだわ!」


「トルアリーナさんはとっても賢いのね~」

 レイティアさんは誰でも平等に褒める。

「高学歴ですので」

 トルアリーナが静かにそう言った。とくに謙遜したりはしない。


「それで、冒険者などが攻めてくる側には、防衛拠点の顔としての城が作られています。一方、こちらは政庁の側の城です。防衛拠点のほうは勇者さんのような方が来た時だけ利用する臨時のもので、メインはこちらの政庁の側です」


 ワシは自分の後ろにある扉に手をかけた。

「アンジェリカ、これを見ろ」

 扉を開けると、そこは以前、ワシがアンジェリカたちと戦った空間とつながっている。


「あっ! ここ、来たことある!」


「そりゃ、そうだろう。お前たち御一行様が来たからな。警備の者も少ない日だったし、楽に進めただろう」

「魔王様はいっそ、行かなくてもいいかなとおっしゃってましたが、それは勇者さんたちが落胆するので顔を出してくださいと言いました」

 うん、魔王が玉座に座ってないのはまずいとトルアリーナに言われた。


「それで、こっちの政務を切り上げて、あっちの部屋に移った。お前らが来る三分前まで書類を見ていた」


「ガルトーさん、ほんとに頑張り屋さんね~。しかも、とっても律儀なのよね。初めてお会いした時にすぐわかったわ~」

「レイティアさん、ありがとうございます。光栄です」


「いやいやいや! ママ、褒めてる場合じゃないでしょ! もっとツッコミどころがあるでしょ! 魔王の魔王っぽい仕事って、そんなおまけみたいなものなの!?」

 アンジェリカは全然納得がいってないらしい。


「おまけというより、人間用のアトラクションみたいなものですね。ちなみに、拷問器具が置いてある部屋があったかと思いますが、あれはすべてレプリカです。実際に使用したものではありません。残酷な刑罰は法で禁止されてますし、拷問も同様です」

「レプリカなのっ!? 武道家のゼンケイとか、まあまあ怯えてたわよ!?」


「怯えるように作っているのですから当たり前でしょう。落とし穴もケガをしないようにスロープ状のところを落下していくように作っています。高いところから真下に落ちると死にますからね」

「そんな安全が配慮されてたんだ……」

 アンジェリカが愕然としていた。


「とくに近年は勇者が本気で城を目指して攻めてくることも少なくなってきていましたからね。なんとなく魔族も人間も戦争状態が続いているというような状況になっていました。でも、戦争状態なので廃止することもせずに城の裏側も存続させていたというわけです」


「それはご苦労様ね~。掃除だけでも大変だろうし」

 レイティアさんの論点はまたずれているようだが、実際、掃除代だけでもバカにならん。シルバーエイプ人材センターと毎年、契約を結んでいる。


「というわけで、大半の仕事は政務だ。王なのだから、政務をやるのはごく普通のことだな」

「魔王っぽくないわ! ていうか、勇者を名乗ってたのが恥ずかしくなってきた……」


「そこは魔法剣士とかそれっぽいのに変更したらいいんじゃないか?」

 アンジェリカは頭を抱えていた。


 む、あまり父親として尊敬はされてなくない?

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