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34 職場に妻と娘を呼ぶ

「え? 職場見学……?」

「そうだ。ワシがしっかり働いてるところを見れば、リスペクトもできるようになるだろう。文句を言うなら一度じっくり観察したらいいのだ」


「あら~、面白そうね。わたしも行ってもいいかしら~?」

「もちろんです。レイティアさんも来てください。魔王の妻としてとことん接待させるようにしますので!」

 実はこれも狙いの一つだった。


 レイティアさんにワシが働いている姿を見せたことがない。

 どうせなら活躍してるところを見てもらいたい。


 いや、夫の職場に奥さんが来ることってほぼないと思うが、働いてる姿を見せていくべきだと思う。そしたら、うちの夫も頑張ってるんだと考えて、夫を見直す奥さんも増えたりするのではないだろうか。


 その逆で、夫も妻の仕事を三日ぐらい徹底的にやる日とか決めてもいいと思う。仕事のしんどさがわかれば、相手をいたわる気持ちも自然と芽生えるはずである。とくに、たかが家事とか言ってる層ほど、一度、しっかりと家事をやらせるべきだ。


 話が途中でそれたが、ワシが最も輝いている瞬間を知ってもらえれば、レイティアさんからの愛も深まるのではないか。


 なにせ、レイティアさんは(いいことなのだが)やさしすぎる。

 ワシのこともたいして知らんのに、プロポーズを受けてくれたほどだ。それはうれしいが、どんな仕事をしてるか不明なままというのもあまりよくないだろ。


「わかったわ、ママ一人で魔族の本拠地になんて行かせるのは怖いからついていく」

「うむ、いつでも来るがいい――と言いたいところだが、いきなり来られるとほかの職員が混乱するかもしれんし、事前に日程の候補を教えてくれ。見学日を決める。見学希望者は一週間前までに連絡することと規約でも決まってるし」


「だから、そういうところが、魔王っぽくないのよ……」



 ワシは職場(城)のほうで、妻と娘が来るという許可を得た。

 許可というか、ワシが一番偉いので、なんでも好きなようにやっていいんだが、ちゃんと報告をしておかないと今はコンプライアンスとかそういうのが厳しいので、まあ、そういうことだ。

 独裁的に動かしたほうが強くなるということであれば問題ないのだが、コンプライアンスがしっかりしてる組織のほうが強いというデータが出ている以上、採用せんわけにもいくまい。


 そして、職場見学当日になった。

「平常心、平常心、平常心……」

「魔王様、絶対に平常心を保ててないですよ。不自然極まりないです」


 いつも冷静にもほどがある秘書のトルアリーナに言われた。

「むしろ、お前はいつ平常心を失うんだ。教えてくれ。今度試す」

「なんでそんなこと、魔王様に言わないといけないんですか。はい、今日も決裁書類がたくさんありますよ。サインをお願いしますね」


 ワシは書類を見てはサインを書いていく。

 本音を言うと、書類など読まずにサインしてしまいたい。

 最後の最後でワシが片っ端から差し戻したら業務が滞りまくるわけだし、そんな大問題の書類が作られてワシのところまで回覧で回ってくることなどないはずなのだが、テキトーにサインをするとトルアリーナに怒られる。


「この移動用魔法陣のあるほこら、まだ維持するのか。もう、赤字垂れ流しだし、廃止してもいいんじゃないか?」

「いえ、その魔法陣がないと家に帰れない住民が二世帯、まだ住んでるんですよ」

「昔の魔王なら、強制移住させたんだろうけどな……。せめて、移動した先に観光名所でも作って、利用者を増やしたりとかできんのか」

「そういう、ふるさと創生事業みたいなのをやると、結局、うさんくさい業界ゴロがやってきて、金を騙し取るみたいなことになるんです」

 よほど上手くやらんとかえって損をするのか……。難しいものだ。


 そんな時、こんこんとドアがノックされた。

「入ってください」とトルアリーナが許可を出した。


 ドアの先には案内役の魔族と、その魔族に連れられたレイティアさんとアンジェリカがいた。


「あら、ここがガルトーさんの政務室なのね~。とっても立派じゃない」

「思ったよりも地味なのね。ドクロとかも置いてないし」

 なんで、仕事部屋に骨を置かないといけないのか。不気味だ。


「二人とも、よく来てくれた。今日は好きなだけワシの仕事振りを見ていってくれ。そちらは秘書のトルアリーナだ」

 トルアリーナが礼をした。

「お初にお目にかかります。秘書を務めますトルアリーナです」


「夫がお世話になっております、妻のレイティアです」

「え、ええと……娘のアンジェリカです……。勇者やってます……」

 アンジェリカが一人だけ露骨に緊張していたがわからんでもない。大人ばかりのところに連れられてきたら、落ち着かなくなるよな。目立つから視線もじろじろ浴びるし。


「こちらへどうぞ。今、お茶を出しますので」

 トルアリーナは来客用のテーブルに二人を案内した。

「魔族のお茶は味が独特で合わない人が多いそうなので、人間の世界で流通しているものです。お菓子も好みが分かれるらしいので、できるだけ無難なものにしました」

 そんなこと、わざわざ説明せんでいい。


 来客用のソファから、ワシの仕事振りを二人に見てもらおうではないか。

 随時、トルアリーナが二人の話し相手をやってくれるので、退屈してしまうこともないはず。席の配置的にしゃべりながらでも、ワシの仕事はよく観察できる。

 この日のために、ソファの位置も少し動かしている。ワシってば、なかなかの策士だ。


 ワシは建設省の役人を呼んで、塔の新設について、ヒアリングを行った。


 続いて、外務省の役人を呼んで、人間の王国にどの実務者を派遣するかの話をした。


 さらに消費者省の役人から、新手の詐欺についての手口を確認した。


 うむ、魔王らしい仕事をできている!

 普段は書類のサインが中心だから、意図的に職員と話す予定を多目に入れたのだ。


 その間、職場見学に来ている二人はワシの仕事の様子を嫌でも目にする。これでワシの株も上がったな!


「ねえ、魔王」

 ほら、アンジェリカもワシを見直したはず!

「あなたって、とことん魔王っぽくないよね……。THE官僚って感じ……」


 あれ、反応が予定と違うぞ!?


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