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33 魔王、職場見学を提案する

今回から新展開です。よろしくお願いします!

「今日はガルトーさんのためにステーキにしてみたんですよ~」

「おおっ! 肉汁があふれている! ありがとうございます、レイティアさん!」

 肉が嫌いな奴とか、そんなにいないと思うが、ワシも肉は好きである。


「でも、いいんですか、これだけのお肉はなかなか高かったでしょう?」

「前のお祭りのねぎらいもかねてね。それに、ガルトーさんのお給料なら、これぐらいどうってことはないわ~」

 うん、いやらしい話ではあるが、魔王の月給というのはかなりのものなので、この家の家計も以前より安定しているはずである。


 とはいえ、アンジェリカは冒険者として一定の実力を示していたので、最低でもアンジェリカが冒険者になってからは、貧しい暮らしなんてことはなかっただろう。勇者に選ばれた時点で、王国からもお金とか出るはずだし。


 それこそ、もっと贅沢をすることぐらい簡単だったと思う。大都会の立派な家に引っ越すことだってできる。それをしないのは、レイティアさんの中に虚栄心みたいなものがまったくないからだ。


 その点は多少、アンジェリカにも遺伝している。

 アンジェリカも勇者として見てもらいたいという欲はあるが、自分のブロンズ像を建てたいとか、自伝本を出版したいとかいった欲はない。むしろ、ブロンズ像を建てようとしたら恥ずかしいから絶対にやめろと言うだろう。


 どうでもいいが、自伝本を出す社長って、どんな神経してるのか。自伝本だけならいいが、なかには歌手デビューするとか言って、舞台で歌う者までいるという。

 そこまでいくと、狡猾なイメージを人は抱きにくいので、他人を安心させるためにわざとやっているのかもしれない。考えすぎかな……。


 でも、そんなことは本気でどうでもよくなった。


「はい、ガルトーさん、あ~ん」

 レイティアさんが肉を切り分けて、ワシに食べさせようとしてくれているのだ。

 神よ、ありがとう!


 ううむ、これはこれで恥ずかしいのだが、幸せではある。躊躇はしまい! 再婚とはいえ、まだ新婚のカテゴリーに入るぐらいの時期なのだ!


 ワシは口を開けた。

「ふふ、大きな口ね~」

 レイティアさんは微笑みながら肉のブロックを口に投下してくれた。


「うまい! レイティアさんのおかげで二倍うまいです!」

「ガルトーさんは、本当にお上手ね~」


「――寒い」

 ぼそっとアンジェリカがつぶやいていた。

 表情からして、イライラしていることはわかる。


「寒い、寒い、寒い! 寒気がする! マジでやめて! やるのはいいけど、娘の前で、それはやめて! それとも、勇者である私を精神崩壊させるつもり!? ある種、魔王として正しい判断だわっ! クソッ!」

 ずいぶん、アンジェリカは荒らぶっている。女性の身体については詳しく知らんが、月のものが来ているとかもあるのかもしれん。


「おい、アンジェリカ、女の子がクソッとか言ってはダメだぞ」

「じゃあ、アンジェリカも口を開けて。ママが食べさせてあげるわ~」

「二人とも論点ずれてるわよ! 私が言いたいのは私の前ではそんなにいちゃつかないでってことよ!」


 たしかに、これはやりすぎだったか。ワシが義理の娘の立場だったら、やはりきつかった。

「わたし、そんなにいちゃついてるつもりはないんだけど~。これぐらい、夫婦ならごく自然じゃないかしら?」

 レイティアさんは素だったらしい。素でこれができるのは、それはそれですごい。

「ママ、時々、抜けてるわよ……。そこがママのいいところでもあるのはわかってるけど……」


「でも、ガルトーさんはアンジェリカにも父親らしく接してると思うし、これぐらい許してあげてもいいんじゃない? 世間的に見ても尊敬できるお父さんじゃないかしら?」


「勇者が魔王を尊敬するのもおかしいけど……それは別にしても、私は魔王を尊敬しづらいのよ!」

 なんか、ワシを置いて、レイティアさんとアンジェリカの口論になった。レイティアさんがのんびりしているから、口論というほど殺伐とした空気にならんのだが。


「たとえば、実家がパン屋さんだったら、子供の頃から一生懸命パンを作ってるところを見てるわよね。農家でも畑を耕してるところや収穫してるところを見るわよね。そういう親の背中を見て、子供は育つものよね?」

「ガルトーさんの背中はとっても大きいわよね。こんな背中の大きな人、なかなかいないわ~」

 やはり、レイティアさん、ずれている。


「私は魔王の働いてる姿をちっとも見てないわけよ! そもそも、魔族の城に行くこととかないし、一度行って戦った時も命懸けだから、じっくり観察する余裕もないし」

 アンジェリカが立ち上がった。こいつ、すぐに熱くなる癖があるな。

「親としてのかっこいい姿を知らないまま、いちゃついてるところだけ見させられたらきついでしょ? せめて、真面目に働いてるところを教えてから、いちゃついてよ!」


「そういえば、そうね~。わたしも魔族の城に行ったことはないわ~」

 一般の人間はないと思います。

「どうせ、この魔王も魔族の城では、部下の魔族に血も涙もない極悪非道なことをたくさんしてるのよ。それで、魔族の国家はまわってるのよ。ええ、なにせ魔王なんだから」

 おい、その言葉、魔王差別だぞ……。


「そういう魔族らしいところを知れば――――私も少しは魔王を尊敬できるかもしれない」

 ワシは脳内にデカい「?」を浮かべた。


「おい、それ、おかしくないか? なんで極悪非道なことをしてるところを見たら、尊敬できるようになるのだ? お前はとてつもないサディストか?」

「だって、魔王なんだから極悪非道なことを魔族の中でしてることは、許容範囲というか職務の一つでしょ。人間の盗賊団だって、妻と子にはすごく甘いかもしれないけど、盗賊の仕事をしてる時も甘々だったら仕事にならないでしょ」


 どうも、アンジェリカの中ではその役割を見事に果たしているかどうかが重要であるらしい。まあ、親が詐欺師だとか犯罪者稼業ということだってありうるしな……。


 だが、これはいい機会かもしれん。

「わかった。じゃあ、職場見学に来い!」

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