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魔王です。女勇者の母親と再婚したので、女勇者が義理の娘になりました。  作者: 森田季節
魔王、地域の祭りに参加する編

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30 魔王、出店をやる

 そして、祭り当日。

 ワシは村の街道沿いでやっている出店の一つに座っていた。

 出店の看板には「~味自慢~ 焼き鳥串 ~秘伝のタレ~」と書いてある。


 作業としてはブロック状の鶏肉を串に刺して、網で焼いて、タレにつけて、また焼いて、タレにつける。二度づけが基本だが、三度づけをしてもよいらしい。別に有名店でも何でもないので、そのあたりは雑で許される。


 なお、「秘伝のタレ」と書いてあるが、とくに秘伝のものではなく、地元のおばさんが作ったものである。

 もっとも、とくに情報を一般公開してるわけではないんだから、秘して伝えてない、つまり秘伝と強弁することもできなくはないのでは。知らんけど。


 地元の祭りといっても、地元の人間だけで楽しんで終わりというものではない。ほかの村や町からも人がやってくる。

 それに祭りの最中は地元の家庭でも祭りがメインで料理を作っている暇がないところも多い。なので、こういう出店が必要なのだ。


 鶏肉は今時、祭り以外でも食べられるが、ずっと昔は祭りの時に飼っている鶏をしめて、肉を家族で食べたという。この出店も案外、そういう伝統のもとに成り立っているのかもしれない。


 なんとなく、雰囲気が出るのではと思い、頭にバンダナらしきものを巻いてやっている。このほうが専門店ぽくなった気がする。


「おじさん、串三本」

「あいよ。三本で四百五十ゴールドね」

 最初の客に皿に串三本を置いて渡した。皿はあとで返却してもらう。盗まれると損失になるが、タレのついた皿をそのまま持って帰る奴とかあまりいないだろう。祭りを見学するにしても、皿は邪魔だから、ちゃんと返却してもらえる。


「大将、こっちは五本ちょうだい」

 大将というのもワシのことであろう。バンダナをすると大将らしさが出る。

「あいよ。七百五十ゴールドね」


「けっこう安いね。町の祭りだと一本二百ゴールドだったよ」

「ここは鶏も地元のを使ってるから、安くできるんじゃないかな。はい、五本、お待ち」


 それから先も客はどんどんやってきた。

 目の前でモノが売れて、お金をもらう体験ってけっこう楽しいぞ。


 お金としては魔王として働くほうがずっと大きな額が動くに決まっているのだが、直接お金のやりとりを、直接購入者と行うこっちのほうが、ライブ感というか、客の顔が見える楽しさがある。

 大きなプロジェクトほど、労働をしている実感がわかなくなってきたりするものだが、これは誰がどう見ても労働であり、目に見える形で対価が支払われるので、なかなかいい。


 いや、ほんとにいいぞ。こういうの、魔族の中でも研修で取り入れようかな。ごっこ遊びの延長でもいいんだ。値段を設定して、その場で売るという行為が一周して意外と斬新なのだ。


「魔王さん、こっちは十本ちょうだい」

「おお、十本ですか。焼くのに少し時間かかるけど、待っててね」

「こっちはタレをもう一度つけて出して」

「はいはい。秘伝のだからおいしいよ」

 ワシ、生き生きしている。輝いているのでは?


「二本いただこうかしら~」

 次のお客はレイティアさんだった。

「あっ、レイティアさん。二本だから三百ゴールド、いや、お金とるのもおかしいんですかな」

「ダメよ、それは村の出し物だから、家族割引はないの。それに結局利益は村で使うからまわりまわって損はないの」

 おお、レイティアさんらしい賢い判断だ。


「はい、三百ゴールドね」

「たしかに受け取りました。串二本です、どうぞ」

「ガルトーさん、すっかりサマになってますね~。はしゃいでるようにすら見えるわ」

 しっかりとレイティアさんには見透かされていた。

「わかりますか。最初は地元に受け入れられるようにってはじめたんですけど、すっかり楽しんじゃってますね」


「楽しめてるなら、それが最高ですよ。もっと楽しんでくださいね」

 ありがたい言葉をもらった。

 うん、しっかりと串を売るぞ。出店の中で一番の売り上げと言われるぐらいに売るぞ。


 レイティアさんはあっちの飴を買ってきますと言って、去っていった。買い食いをいろいろするタイプらしい。レイティアさんもかなり楽しんでいるな。


 よし、さらに気合い入れていくぞ!

「鶏串おいしいよ、一本百五十ゴールド。鶏串、鶏串~!」

 せっかくなので、客を引く声でも出そう。


 と、店の前に数人の団体が止まった。おっ、子供たちが集まってやってきたか?


「魔王、テンション高すぎでしょ……」

 ――アンジェリカとそのパーティーたちだった。


 アンジェリカを含め、全体的にあぜんとしている割合が高かった。

 その中で、魔法使いのセレネだけが違和感なく接してくれた。

「魔王さん、串三本くださいませ。すっかりなじんでらっしゃいますわね」

「はいはい、四百五十ゴールドです。串がけっこう鋭いから気をつけてね」


「はーい。肉の回転のさせ方、上手ですわね」

「なにせ、店をやってるぐらいだからね。この道、三百年です」

 もちろん三百年もやってない。それではとてつもない老舗である。


「おっ、おいしそうじゃん。魔王さん、俺っちも三本」

 盗賊ジャウニスもこのノリに順応してくれた。

「はいよ。盗賊だからって盗まずに金はちゃんと出してね」

「わかってますって。はい、五百万ゴールド」

「おっ、おつりの五十万ゴールドね」


 この単位を「万」にするやりとり、一度やってみたかったんだよな。


「待て待て待てーっ!」

 そこにアンジェリカが声を上げた。

「魔王も待って。あと、セレネやジャウニスたちも待って!」


 なんだ? 何か問題でもあるのか?


「みんな、私たち、魔王と勇者パーティーだよ。交戦状態は終わったわけだけど、それにしてもリラックスしすぎじゃない? もう少し緊張感とか持ったほうがよくない?」

「アンジェリカ、戦争をしていた国同士も、それが終われば平然と交易の船を出す、それが人間というものですわ」

「いや、セレネ、私も理屈はわかるの……。でもさ、やっぱり、これはやりすぎでしょ……。受け入れすぎでしょ……」


 まだ、アンジェリカは細かいことを気にするらしいな。

「アンジェリカ、もっと大人になれ」

「魔王が大人すぎるのよ!」

 またキレ気味だな。思春期は難しい。


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