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3 妻と料理を作る

3話目更新です!

 ひとまず、ワシは空間転移魔法で魔王城のほうに戻った。

 政務部屋に戻ると秘書のトルアリーナが事務作業をしていた。


 トルアリーナはメガネをかけた黒髪の女魔族だ。学校時代は委員長をやっていたらしい。そのせいか、今でも部下からたまに委員長と呼ばれている。そう言うと、だいたい怒るが。


「魔王様、外出が長すぎます。そういった場合は事前にご連絡いただきませんと」

 くいっとメガネを押し上げながら、トルアリーナが言った。一種の嫌味みたいなものだが、ワシも慣れている。本当に苦痛だったら解任するし。


「すまんな。ちょっと急用が入った。ちょっと人事に変更を加える。ええと、まず、ワシが寝る時の身辺警護の近衛兵だが、違う部署に移したい」

「はぁ……。でも、なんでですか?」

 そりゃ、理由は聞かれるよなあ。


「再婚して、違うところで住むことになった」

「はっ!?」

 喰い気味の「はっ!?」だった。


「あの、再婚まではまだ理解できます。むしろ魔王様が子供もないし、再婚もしてないというのは、それで将来的に後継者争いとか起こりかねませんし。各所から再婚しろと言われていましたしね。ですが――」

 トルアリーナの目つきが怖い。


「なんで、魔王城で暮らさないのでしょうか? 魔王様が再婚相手の家に住むっていうのは魔王という地位を考えると、あまりよろしいことではないかと」

 わかっている。そんなことぐらい、ワシだってわかっている。


「かといってだな……人間を魔王城で住まわせるのはまずいだろ……」

「はっ!? はっ!?」

 さっきより「はっ!?」の回数が増えた。


「だいたい、勇者が裏切った的な空気が出たら、また別の勇者が魔王城に派遣されたりするかもしれんし……」

「えええええっ! どういうことですか! 詳しく聞かせてください! それとも酔ってますか?」

「酒は入れてない。しらふだ……」


 すると、今度はトルアリーナはゴミを見るような目でワシを見つめた。いくらなんでも不敬だぞ。


「あの、もしかと思いますが、今日来た女勇者に惚れましたか? まだ十五、六年間しか生きてないような小娘ですよね。魔王様、それは外聞が悪いです。魔王様の見た目が人間で二十歳ぐらいであればいいですが、もう中年です」


 つまり、犯罪っぽいと言いたいのだろう。気持ちはわかる。でも、十五、六の娘がかわいく見えるのは男として自然なことだと思うので、その感情までは許してほしい。


「違う。結婚するのは……女勇者ではない……」

「ああ、よかった。すいません、さっきのゴミを見るような視線は撤回いたします」

 自覚あったのか、あの視線の……。


「結婚するのは女勇者の母親のほうだ」

 事実を言ったが、「何言ってるんだ、こいつ」という顔をされた。


「何を言ってるんですか……? 正気ですか……? 精神錯乱の魔法とか誰かにかけられましたか……? でも、魔王って原則、即死系とか精神錯乱系の魔法は無効化されるはず……」

 べたべた肩とか背中とか触られた。お前、それ、男が女にやったら絶対にセクハラ案件だぞ。


「本当だ……。ちなみにすでにプロポーズはして、承諾は得た」

「もう話、進んじゃってるんですか!」


「というわけで、なにとぞよろしく」

「よろしくないですよ! ダメでしょ、そんなの……。いくら最近は魔族と人間の雪解けが進んでるとはいえ、前代未聞ですよ!」

 やはり理解はしてもらえなかった。

 しかし、ここで諦めますとは言えない。


「まあ、そこは愛があれば、歳の差とか種族の差とかは克服できるというやつだ。そういう話とか昔からあるだろ? 魔王と勇者がカップルみたいな話も割とあったはずだし……」

「それはフィクションですし、今回の場合は勇者が義理の娘になるので、かなり状況が違いますよ!」


「とにかく、魔王としての職務は今後とも果たすから! ちゃんと空間転移魔法で仕事しに来るからいいだろ! ワシは魔王だからワシがルールだ!」

 まだ秘書のトルアリーナが何か言いそうだったので、ワシは空間転移魔法で強引に離脱した。



 ワシはレイティアさんのキッチンに移動した。

 鍋からは湯気が立っている。ちょうどレイティアさんが料理を作っているようだ。今日のメインはシチューだろうか。


「あっ、魔王さん、おかえりなさい」

 にっこりとレイティアさんがこちらを振り向く。

 エプロン姿のレイティアさんの破壊力がまたすごい。なんだ、これは……。女神か……。


「た、ただいま……レイティアさん……」

 まだ呼び捨てにするのは気まずい。出会って数時間しかたってないし。

 というか、すぐに同居というのでよいのだろうか。そこはもっと時間をかけてからやるべきだったのかもしれない。


「魔王さんの分も作りますからね。別に食べられないものとかはないですよね?」

 ごく自然とワシがここで食べることになっているらしい。

「あ、はい……。聖水とかでなければ大丈夫です……」

 魔族も人間も基本的に体の構造は同じだ。毒などの耐性は魔族のほうが強いが。


「アンジェリカはいつ目を覚ますかわからないから、シチューにしました。これなら冷めてもすぐにあっためられますから。魔王さんの口にあえばいいんですけど」

「なるほど! ところで……魔王さんというのはやめてくれませんか……」


 本音を言うと「あなた」と言ってほしい。が、それを言う勇気はない。なれなれしいと思われそうだし、実際なれなれしいだろう。


「ワシの名はガルトー・リューゼンなので……ガルトーでお願いできますか?」

「わかりました、ガルトーさん。ガルトーさんかあ。かっこいい名前ですね」


 かっこいい名前、か。家臣たちには何度も言われてきたが、あんまり心に響かなかったのだよな。かっこいいと思ってなくてもそう言うしかないからな。今はやたらと心に響く。素直に自分の名前を誇ることができる。


 それと、今、気づいたが、料理中は髪の毛を後ろで一本にまとめているのだな。そうやって髪をまとめた姿も美しい。


 はっ、そうだ。

 料理を彼女だけに作らせてよいものだろうか。

 今時、女子が料理を作って当然みたいな価値観ではまずいのでは? 幻滅されるのでは? やっぱり魔族は野蛮だとか思われるのでは?

 そもそも、ワシのほうからプロポーズしたのに最初の食事から一方的にやらせてはいけない気がする。


「あの、ワシも何か手伝います。野菜の皮むきぐらいなら、おそらくできます」

「別にゆっくりしててくださっていいんですよ~」

「いえ、ここはやります!」

「じゃあ、ニンジンとタマネギの下準備をお願いできますか?」


 ワシは丹精込めて作業を行った。

 愛妻との共同作業か。……いいなあ。


 こういったものもある種の労働だと思うのだが、いつもの労働などとはまったく違う。異質の幸せを実感する。


「あら、皮むき、お上手ですね~♪」

「魔族はタマネギ程度では目もしみませんからね。どんどんやらせてください」

「そしたら、タマネギを使ってもう一品作りましょうか」

「それも手伝います!」


 長らく魔王をやっていたが、ここまで充足感を覚えているのは、本当に久々だ。

 家庭での安らぎ、ワシはずっとそれを忘れていたのだな。


 忘れていたから、とくにつらいとも感じなかったが、こうやって一度思い出してしまったら、これまでのように働いて寝る、働いて寝るの繰り返しだけの生活はできんかもしれん。


 食事だって、店で食べるか、弁当をとるかだけだった。

 それも、もちろんおいしいが、おいしさの種類がまた違うのだ。

 ワシは料理を食べる前からもう幸せだ。


「あら、ガルトーさん、タマネギはしみないんじゃないんですか?」

 ワシは泣いていたらしい。


「ははは、これは目にしみているのではなく、感動しているんです」

 誰かと料理を作るだなんて何百年ぶりだろうか。


今日中にもう1話更新できればと思います!

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