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29 魔王、祭りに参加することにする

「それは参加せねば……」

 地域住民の一員として祭りに出れば、ワシも一気に受け入れてもらえる可能性大だ!


「え、魔王も出るの……? マジ……? 魔王って地域の祭りとかに出るもの……?」

 アンジェリカは軽く引いていた。

「なんだ、魔王だってそれぐらいの自由はあるだろ。たとえば、集落対抗の運動会とかに出てもいいだろ」

「出る権利はあっても、それは魔王が入ってるチームが無茶苦茶有利になりそうだから出場辞退してよ……。うちの村がセコいとかかえって言われそうだよ。それは置いておくとして……村レベルでやってる祭りにまで参加するの?」


「草の根の活動が大事だと最近では魔族も学校で教わっているぞ。教義的にも魔族を生贄にする祭りとかじゃないだろうから問題なかろう」

「うん……。どっちかというと、古来から受け継がれてる素朴なお祭りだけど、今年はうちの家は何もしなくていいんだよ。とくにうちはママが片親だったから、余計に免除されてたし」


 片親――物悲しい響きの言葉だ。

「そうなのよね。とくにアンジェリカが幼い頃は、祭りの準備なんかはこっちでやっとくからしっかりアンジェリカを育てろってみんな言ってくれたの。そのあたりはやさしい人たちなのよ」

 レイティアさんがこれだけのほほんとしていられるのは地元の人の温かい反応もあったのかもしれんな。シングルマザーが大変であることをよく知っている。


 だが、ならば、だからこそ今年は参加するべきではないか。

 ワシが入ったことでアンジェリカも片親ではなくなったのだから。


「やはり、ワシは何かやろうと思います。地元の人に顔も覚えてもらえるいい機会ですし」

「魔王の顔はすでに村の人間、全員、知ってると思うわよ……。超目立つわよ……」


 アンジェリカにナチュラルにツッコミを入れられた。

 それはそうなのかもな……。だって、魔王だもんな……。


「顔は知られていても恐ろしい奴だと思ってる人もいるかもしれん。そこで気さくな人だと理解してもらう機会としたい」

「ああ、魔王のイメージが崩れるわ……」

 アンジェリカが頭を抱えていた。


「なんでだ。悪いことはしてないだろ!」

「むしろ、悪いことをしてないから、イメージが崩れるのよ!」

 娘に逆ギレをされた。キレやすい年頃だからやむをえんだろう。



 こうして、ワシは休日に地元の公民館に行った。今日は神様を迎える踊りの練習をするらしい。


「ガルトーです! 魔王をやっております。よろしくお願いします!」

 ワシはまずは頭を下げる。新参者は謙虚にやらねばな。


「村長ですじゃ。あの、魔王殿、頭を上げてください。そんなかしこまらんでええから、ええから! もっとリラックスして、リラックスして!」

 むしろ、老齢の村長をあわてさせてしまった。なんか、失敗しただろうか……?


「ていうか、魔王殿がこんなローカルな祭りに参加なさらんでもよいですぞ? なにせ魔王なんですから。それで裏で陰口叩くみたいなこともしませんので。変わったご職業ということぐらいは、村の者どももみんなわかっておりますんで」

 やっぱり、この土地の人はやさしいな。

 そういや、アンジェリカの勇者という職業もけっこう突飛だしなあ。


「いえいえ。せっかくですし、何か些細なことでもお手伝いができればと思ったまでです」


 公民館に来ている人たちから「よくできた人だなあ」「意識高いのう」といった声が聞こえた。よし、好感度は確実に上昇しているぞ。


「それでは、当日の踊りの参加と、あと、出店を一つやってもらってもよろしいですかな? 出店のほうはあとで婦人会の者が教えますので」

「わかりました。なにとぞ、よろしくお願いいたします!」

「あの、魔王殿に頭を下げられると、こっちもやりづらいので、気持ち、もう少し偉そうにするぐらいでお願いできませんかな……?」


 どこかから「多分、ここの神様より偉いよなあ」「それはある」といった声がした。

 わからんでもないが、地元の神様より偉そうにするわけにもいかんだろう。


 ふんぞり返るのも、あれはあれで精神力を削るのであまりやりたくないんだけどなあ……。


 魔族の行事でも魔王らしく偉そうにしろとトルアリーナによく注意を受けるが、素で偉そうにできる奴ならともかく、偉そうにしようと意識してやる場合、それはもはや演技なので、演技をしないよりも当然ながら大変なのである。


「村長、いっそ、魔王が出てくる踊りに変更にしませんか」「それ、面白いかも」「ほんとに魔王様がいるんだし、何かやってもらわんともったいないよな」


 なんか、変な方向に話が動いている!

「いえいえ! 伝統ある祭りを壊すのは本意ではないので、そのままやってください!」

 どうにか、ワシが主役みたいな形になるのだけは防いだ。


 本音を言うと――あんまり目立ちたくない。

 魔王、魔王と崇め奉られるのは魔族の世界ですでに慣れている。言うまでもなく、各地の王族だって、王族ならではの仕事(たとえば。国内を行幸するとか)があって、大変なのだ。


 だから、ごく自然体で地域の一員として祭りに出るのが楽しみなところもなきにしもあらずなのだ。けっこう、今回、ワシはノリノリである。


「それじゃ、踊りの練習をやりましょうかのう。魔王殿はこの布を使ってくだされ」

 村長から一枚の白い布を渡された。


「振付のご指導よろしくお願いいたします」

「いや、ほんとにずっとテキトーに踊るだけなんですが……」


 踊りの内容は一点のウソもなく、テキトーだった。むしろ、統率がとれてないような変な動きをするほうが趣旨にあっているものらしい。カオスさを表現するべき踊りなのだ。


 そのあと、ワシは婦人会のほうに行って、出店のレクチャーを受けたのだが――

「いやあ、いい体してるわねえ」「うちの旦那と交換してほしいわあ」「レイティアちゃんもいい夫、つかまえたわね」


 やたらとおばさんたちにべたべた触られた。

 ううむ……。地元のおばさんたちのアイドルみたいな存在になってないか、ワシ……。


 アンジェリカもこれぐらいなついてくれればいいのだが……いや、それはかえって不気味だな。


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