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28 魔王、地域の祭りに興味を持つ

今回から新展開です。よろしくお願いいたします!

「荷物たくさん持ってもらってごめんなさいね~」

「いいんですよ、レイティアさん。こちとら、力にはちょっとばかし自信がありますから」


 ワシは両肩および頭の上に小麦粉の袋やらタンスやらいろいろ置いて歩いていた。

「あなたの場合、ちょっとって次元じゃないでしょ」

 あきれた顔をしているアンジェリカも勇者だけあってかなりの量の荷物を持っている。


 今日は休日ということもあって、近所の町で大量の買い物をしたのだ。荷車をレンタルする予定だったのだが、これぐらいなら運べるとワシが言って、手で持って帰ることになった。


「家族三人で買い物って、いいものね~」

 レイティアさんが目を細めて笑っている。まったくだとワシも思う。実に仲むつまじい家族像ではないか。これからの魔族と人間の新しい時代を象徴する一ページだとすら言えよう。


「魔王、あなた、もう少し魔王らしく振る舞わなくていいの? けっこう楽しそうだけど」

 アンジェリカの質問はなかば答えの出ているものだ。その証拠に本人はやれやれといった顔をしている。


「楽しいに決まっているだろう。どうして肉体労働をすると楽しくないと決めつけるのだ。冒険者だって基本的に肉体労働だが、それが苦痛でたまらんなら、誰もやらんだろ」

「ああ言えばこう言う」


「まだアンジェリカはガルトーさんに厳しいわねえ。でも、一時よりはずいぶんよくなってるのかしら」

「レイティアさん、この年頃の娘なら実の父親でもべったりくっついたりなんてしませんよ。洗濯も別々にしてくれとか加齢臭や口臭が気になるとか言われたりするものです」

 魔王の城で働いてる者たちでもそういう嘆き節をよく聞く。


「私は勇者よ。勇者が魔王と仲良くなったら世の破滅よ」

「う~ん。現実には勇者が魔王と仲良くしたほうが世の中は丸く収まりそうだけどね~」

 レイティアさんの反応はどこか天然なところがあるが、言葉はちょくちょく真理を突いてくる。


「はいはい……。世界が破滅しない程度に魔王とは上手く付き合っていくわよ……。ママにはかなわないわ。博愛精神がすぎるわ」

 レイティアさんはもっとワシとアンジェリカに仲良くなってほしいようだが、ワシとしてはこれでも十分である。もっと娘に嫌われている父親なんていくらでもいるはずだしな。


 うん、義理の娘と仲良くなるという大きな課題は一つクリアできたんじゃなかろうか。


 と、村のほうに入ったところで、おばさんたちが道端でなにやら天幕のようなものを作っていた。

「あら、勇者さんところの一家じゃないかい」

 おばさんの一人が話しかけてきた。魔族でもそうだが、おばさんの気さくに話しかけてくる率はかなり高い。


「こんにちは、ガルトーです」

 ワシもあいさつをする。村の新参者だしな。愛想よくしなければ。


「いやあ、ガルトーさん、やっぱり魔王だねえ。この腕ものすごくがっしりしてるよ。木なのかと思っちゃうぐらいさね」

 べたべたとおばさんはワシの腕を触った。人間の冒険者でも恐れて、そうそうこんなに至近距離で触ったりできんと思うのだが、おばさんってもしかしてとてつもなく強い生物なのか?


「毎日、鍛えてるの? どんなトレーニングしてるの? 馬車を片手で持ち上げるとか?」

「いえ、半分は種族的なものというか、遺伝的なものですよ」

 昔の魔王なら、ここで「お前はワシを辱めて無事ですむと思っているのか?」などと恫喝するところだが、ワシは気楽に答える。

 当たり前だが、地元住民とのコミュニケーションは大事だ。地元にいて、ぎすぎすした気分になっていたら最悪である。


 と、作業をしていた別のおばあさんが不思議そうにワシの顔を見ていた。

「なあ、魔王さんや。魔王さんは世界を滅ぼしたこととかるのかねえ?」


 おばあさんはふざけているのではなく、素で聞いているのだとわかった。

「いえ、滅ぼしたりなんてしたことないですよ。だいたい、滅ぼしてたら、今、住めなくなっちゃうじゃないですか。そんな育ちの悪いリンゴを間引くみたいなノリでは滅ぼせませんよ」


「そうなのかい。いやあ、うちらの世代だと魔王さんっていうと、怖いものだって親から教わったもんだからねえ。子供は早く寝ないと、魔王が来て食べちゃうぞとか言われたものだよ」

 無論、夜更かししてる子供を狙ってわざわざ食べに行ったりなどしない。


「ははは、そりゃ、迷信ですよ、迷信」

「そうそう、ガルトーさんはとってもいい人ですよ~」

 ぽんぽんと後ろからレイティアさんがワシの背中を叩いた。


 おばさんやおばあさんもレイティアさんが言うなら本当だねといったことの発言をした。本気で警戒されてるなら、こんなことを聞かれること自体ないので、今のところ、地域にもなじめはじめていると考えてよいだろう。


 しかし、やはり魔王が住んでいるということに不安を感じている人もいるようだなというのもわかった。

 ただ、それは当たり前である。ワシが魔王じゃなくて、オークでもエルフでも全然違う国の人間でも、多少の不安とか懸念とかは出てくるだろう。

 差別感情までひどいものでなくても、文化とか習慣が違うから、上手くやっていけるかなみたいな次元のものも含めて、身構えてしまうほうが普通だ。


 とはいえ、そういった身構えも少しずつ解き放っていかねばならぬ。いつかはこの土地の者としてワシも受け入れてもらわねば。

 それにワシが受け入れてもらえんと、レイティアさんとアンジェリカも肩身が狭いかもしれん。再婚というだけでも、とかく噂されたりしがちだからな。


 まあ……レイティアさんはそういうことを気にせん性格だから、魔王のワシと結婚してくれたのだが……。


「お祭りの準備、かなり進んでたわね~」

 レイティアさんがぼそりと言った。

 あっ、そういえば、さっきの人たちは何か作業をしていたな。


「あの、お祭りというのは、どういうものなのですか?」

 レイティアさんではなく、アンジェリカが答えた。

「収穫祈念のお祭りよ。今年も豊作になりますようにって神様にお祈りするの。さっき作ってたのはここからがうちの村ですよって神様に示すためのゲートね。メインの祭りは村の広場でやるわ」


「それは参加せねば……」

 地域住民の一員として祭りに出れば、ワシも一気に受け入れてもらえる可能性大だ!


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