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23 アンジェリカのパーティー

 ワシは透明化の魔法でアンジェリカのあとをつけた。

 といっても、かなりの距離をあけている。冒険者の集団だし、あまり近いとあっさり気配を悟られるおそれがある。それにワシは目もいい。ある程度離れていても、状況は把握できる。


 アンジェリカ、足が速いな。早歩きは健康にいいらしいが、それにしても速度が出ている。冒険者が街道を歩く時ってこんなに速いのか。

 だが、人家が途切れたところでアンジェリカはふいに周囲をきょろきょろ見回した。

 いったい、何だ? 人目をはばかるようなことがあるのか?


「勇者、勇者、勇者で勇者、ふんふ~ん♪ ふんふ~ん♪」

 変な歌、口ずさみだした!

「勇者、勇者、戦え勇者~、ふふふ~ん♪」

 しかも歌詞が雑すぎる。絶対にオリジナル曲だな! 作詞作曲アンジェリカだな!


「勇者キック! 勇者パンチ! 悪は絶対許さ~な~い~♪」

 うわ、これは知っても何も得はしないし、知られたほうもまあまあ恥ずかしい秘密を知ってしまった。


 でも、尾行ってこういうリスクもあるものだしな。甘んじて受け入れよう……。


 やがて、アンジェリカは町に入り、魔法使いのセレネと合流した。

 ワシはいったん透明化を解除して、その町でパンをいくつか買った。張り込みの最中に食べるのだ。なお、パンもまた透明化の魔法をかければ見えなくなる。

 体だけ消えるんだったら全裸になる以外、姿を隠す方法がなくて、あまり現実的ではないからな。


 そして、アンジェリカのほうも二人になって、自然と会話が生まれやすくなる。

「ねえ、アンジェリカ、あのあと、魔王さんとは上手くやれてますの?」

 魔法使いのセレネが尋ねた。

 おっと、いきなりワシの話題だ!


「何をもって上手くと言うべきかは謎だけど、大きなもめ事はなく、ここまで来てるわ。家を魔王の城みたいに改造するとか言い出したら追い出そうと思ったんだけど」

 そんな非常識なこと、するか!

 立地条件ぐらい気にするわ。平穏な農村にいかめしい城が出現したら明らかに周囲から浮くし、防御機能としても中途半端だろう。


「やっぱり魔王さん、常識人のようですわね」

「セレネ、スタート地点がおかしいわ。勇者の母親と再婚する魔王の時点で非常識極まりないって」

 うん、この部分はアンジェリカのほうが正しいと思う。ワシも自分が魔王のスタンダードだとまでは考えていない。


「最初のうちはぎくしゃくして当然でしょうけど、いずれ、父親として定着すると思いますわ。そしたらアンジェリカも甘えてみてもいいかもしれませんわね」

「勘弁してよ。だいたい、魔王はママに恋をしたわけであって、私のことはどうでもいいのよ。お互い、あまり干渉せずに生きていくのがいいんだって」

 その考えもわからなくはないが再婚した以上はワシにとってお前は娘だ。立派に育ててみせるぞ。そう、立派な魔王後継者に!


 あれ、勇者を魔王後継者にするのって何かおかしいのか……。


「うっ……やけに悪寒がしたわ……」

「あら、おなかでも壊しましたのかしら」

「ううん、誰かが私に対してよからぬことを考えてたような感じだった……」

「魔王もいなくなったんですし、そんな存在いませんわよ」


 これに関してはアンジェリカのほうが正しい。

 次の魔王候補のことは追々考えていくことにしよう。アンジェリカは魔王の血を引いてないし、これから少しずつ決めていけばいい。



 街道先の大きな町のギルドで、アンジェリカのパーティーは全員合流するらしい。

 すでに女神官のナハリンが来ていた。

 背の低い女の神官だ。一見、とても冒険に出られるような年齢には見えないのだが。


「神を……崇めよ……」

 口元を布で隠しているので、細かな表情はわからない。この女、口元を隠すと、脳内補完効果によって実際よりも美しく見えることを知っているのか?


「うん、うん、崇めてるよ。だから、ナハリン、今日も一緒に頑張ろうね」

「よろしくお願いいたしますわ、ナハリンさん」


「よろしい」

 こくこくとナハリンがうなずいた。かなり変なキャラだな。それでもアンジェリカのパーティーに加入しているということはかなりの実力者ではあるはずだ。


 そこにほかのメンバーもやってきたようだ。「お待たせー」という声がした。


 残りのメンバーは二人とも男だ。気をつけねば!

 だが、その人間は正直、あまり男っぽくなかった。

 むしろ、ショートカットの女武道家のように見えた。

 あれ? 武道家ゼンケイは男じゃなかったか? 聞き間違いか……?


「ごめん、ごめん。おやつを選んでたら少し遅刻しちゃったや」

「別にいいわよ、ゼンケイ。いつものとおり、ジャウニスがもっと遅刻してるし」

 やはりゼンケイであっているらしい。ゼンケイは手を合わせてごめんのポーズをとっている。


「じゃあ、おやつでも食べて待つ? マカロンで有名なお店なんだよ」

 おやつのチョイスも女子っぽいな!


「マカロンっておいしいけど、少し高いのよね。もうちょっとおなかにたまるもののほうがいいわ」

「じゃあ、パンケーキで有名なお店があるから行こっか」

「ゼンケイさんは甘いものに本当に詳しいですわね」

「拙僧も一ついただく。かたじけない」


 ううむ……。やはり女子にしか見えんぞ。

 でも、これならゼンケイという奴はあまり気にせんでもよいか。アンジェリカを狙うことなどないだろう。むしろ、アンジェリカより女子力が高い。まあ、元気に育ってくれれば、やんちゃだろうとおてんばだろうとかまわんのだが。


 けれど、その女子ばかり(?)のはなやかな空気が急に変わった。

「ちわ~っす。遅刻しちゃったかな。メンゴ、メンゴ」

 短めの髪を逆立てた男がアンジェリカのパーティーに声をかけた。


「ジャウニス、ただいま参上。今回もシクヨロ~」

 こいつが盗賊のジャウニスか。想像以上にチャラいのが出てきたぞ。ていうか、今時、シクヨロとか言う奴いるのか? チャラい奴でも言わなくないか?


軽佻けいちょう浮薄ふはくな……」

 女神官ナハリンがむっとしていた。たしかに性格が合わなそうだ。


「ナハリン幼女先輩、許して、許して。しっかりやるからさ~」

 これは気をつけねば。

 アンジェリカが食い物にされる恐れがある!

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