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22 娘のパーティーをチェック

 翌日、アンジェリカが玄関に大きめの革袋を置いていた。

「アンジェリカよ、どこかに出かけるのか?」

「ああ、魔王、しばらく冒険に出るの。魔王軍との戦いがなくなってから暇にしてたしね。腕がなまらないように、パーティーで強力なモンスターが巣食ってるダンジョンの探索に行くのよ」


「そうか、そうか。それはけっこうなことだが、ワシにパーティーの編制を念のため教えてくれ」

 アンジェリカがけげんな顔になる。

「なんで、魔王にパーティーのことを教えないといけないの? 別にあなたの城に攻めにいくわけじゃないし……。まあ、城を攻めにいくなら余計に教えられないけど」

 それはそうなのだが、ここで折れてはどうしようもない。適当な理由をでっちあげる。


「ワシのためではない。レイティアさんのためだ。娘がどんな友人たちと遊んでいるか気になるだろう」

「友人って……。私たちはあくまでも仲間であって、遊び友達じゃないんだけど……」

「金で雇った傭兵と旅をするわけじゃないんだから、友達みたいなものだろう。教えなさい。場合によっては、いつも娘がお世話になっていますとお宅に何か送ったりすることもあるかもしれん」


「言いたいことはたくさんあるけど、教えておくわ……」

 アンジェリカも以前よりはワシの言うことを聞いてくれている気がする。


「まず、女魔法使いのセレネね。王家に仕える魔法使いの分家の家柄なんだって」

「丁寧な話し方の子だな。なるほど、そんな家系だったのか」

 ワシは早速メモをとる。

 すぐにメモをとる者のほうが出世すると、最近買った『よい勤め人になるための本』にも書いてあったしな。ワシは魔王だからこれ以上出世せんが、秘書のトルアリーナは細かなことまで手帳に書いていたはずだ。


「次に神官のナハリン。幼い頃から回復魔法を使うことができて、地元では奇跡の巫女と呼ばれていたそうよ。今は修道院で暮らしてる」

「奇跡の巫女ということは、その友達も女性だな」


「そうだけど、魔王と一回戦闘したんだから、覚えてないの……?」

「アンジェリカよ、十七日前に食べたごはんを朝昼晩と全部言えるか? 言えんだろう。つまり、そういうことだ。特別なこと以外は記憶に残らん」


「あの……私たち勇者パーティーだったんだけど……。王国公認なんだけど……」

 しまった。多少、アンジェリカを傷つけてしまっただろうか。

「それはだな……魔王ともなれば、何度も冒険者と戦うから記憶が混ざるんだ。アンジェリカたちのパーティーが弱かったから覚えてないわけじゃない……」


「私たち、やっぱ、弱かったんだ……。たしかにナハリンはもっと堅実に進むべきだって言ってたわね」

 あっ、やさしさがかえって人を傷つけるパターンに入っている! 笑うしかない時に出る苦笑いの表情になっている!

 やむをえん。あまり触れんようにして誤魔化すか。


「次の四人目の子は誰かな」

「武道家のゼンケイ。敵の急所を一撃で突いて、打ち崩すだけの力を持っているわ」

「ゼンケイ。これは男か?」

「うん、男だけど、性別ってそんなに気になるの?」

 ワシは「要注意」とメモに書いた。


「何か贈る時に性別によって変わってきたりするだろう。深くは気にするな。で、あとは、ええと、盗賊か」

 そう、盗賊といううさんくさい職業の奴が混じっていた。


「ほとんど覚えてないのに、盗賊がいたことは覚えてるの、変じゃない?」

「変ではない。うろ覚えということは、部分的には覚えているということだ。何一つ記憶にないのとは違う」

「最後は盗賊のジャウニス。職業柄、素性も不明な部分が多いけど、歳は二十歳ぐらいじゃないかしら。いつも一言多くて、神官のナハリンなんかは苦手そうだけど、罠の発見や敵の様子のチェックなんかはかなりの腕前よ」


「素性不明か。一言多いと。で、性別は男だな?」

「ああ、うん。そうよ……。そこはけっこうこだわるんだ」

 ワシはメモに「要注意×2」と書いた。


 やはり、こいつが一番怪しい。盗賊といっても冒険者として登録できる程度にはまっとうなのだろうが、過去の危険な来歴を誤魔化している可能性もある。あと、女性問題でもめて故郷を離れたとかいうケースもありうる。


 これは見張るべきだな。

 久しぶりに透明化の魔法を使用するか。


「アンジェリカ、今日は何時ぐらいに帰ってくる?」

「いや、数日は帰らない予定よ。南のほうにある規模の大きなダンジョンを重点的に攻略するの。実力的にも今の私たちでちょうどいいぐらいだし」


「外泊か。了承した。宿は面倒でも、女子用の部屋と男子用の部屋とに分けなさい。お互いに気をつかうとあまり体力が回復した気もせんものだ」

「普段からそうしてるわよ。ほんとに魔王のくせに細かいわね」


「それと、香水をつける女性冒険者がいるが、あれは洞窟など狭いところだと、モンスターに遠くからでも場所を知られることにつながる。ひかえておいたほうがいい」

「それもとくに使ってないから」


「うん、それならよろしい」

 あまり色気づいてる感じもないみたいだな。

 とはいえ、ウブな女子を食い物にしようとする男もいるから、必ずしも安全とは言えない。アンジェリカはレイティアさんの血を引いて、それなりに美しいので、通常以上に気をつけるべきだろう。


「ああ、それと、暑いところでもあまり露出の多い格好はしないように。肌が出ていなければ、すり傷などを防ぐことにもつながる」

「きりがないから、もう行くわね! いいかげん、うっとうしい!」

 アンジェリカは荷物を背負って出ていってしまった。


 さてと、ワシも動くとするか。

 ワシは空間転移魔法で、職場に行った。

 秘書のトルアリーナが牛乳か何かを飲んでいた。髪を後ろでくくっているのは朝活か何かで走ってるからだ。体がなまらないようにしているらしい。やけに意識が高い。


「トルアリーナ、今日は有休をとる」

「えっ? たしかに会議とかは入ってないからそんなに問題はないですが、唐突ですね!」

「仕事の一部は持ち帰ってやるから心配するな」

「あの、厳密には書類の持ち帰りは紛失の危険があるので、ダメなんですが――」

「ワシが魔王だ!」


 ワシはまた家に空間転移魔法で戻った。

 アンジェリカは隣町へと向かう街道を歩いていた。

 いざ、尾行だ。

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