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21 娘の彼氏疑惑

今回から新展開です。よろしくお願いいたします!

「それでアンジェリカが朝に起こしに来てくれたんだよ。あのアンジェリカがだぞ。ずいぶんと優しくなったと思わんか?」

「魔王様、いいかげんうっとうしいので私語をやめて仕事に集中してくださいませんか」

 秘書のトルアリーナに文句を言われた。


「そんなことはない。まだ五分しか話してない」

「魔王様の家庭の話なんて、スライム倒して得られる経験値ほどの興味もありませんよ。雑談なら、私の結婚相手候補を探してるとかそういうのにしていただけませんか?」


 口に出すとセクハラに当たるおそれがあるので言わないが、トルアリーナはまだ未婚だ。魔王の秘書をやっているぐらいだから、成績とかはすごくいいはずなので、本人が高望みしすぎてチャンスを逃しているのだと思う。

 セクハラに当たるから口には出さないけど。


「かといって、ワシがこんな合コンがあるぞとか紹介したら面倒くさそうな顔をするだろう?」

「率直に申し上げてすると思います」

 ほら、やっぱり。

 ちなみにこういうやりとりをしている間も、ワシトルアリーナも仕事の手は止まっていない。しゃべりながら仕事を続けるぐらいのスキルはあるのだ。


「なんだかんだで、一人のほうが気楽なんですよね。もう、一人で人生を満喫するスキルを学んでしまったというか」

 たしかに年齢を重ねてから結婚するほど、ハードルは上がるよなあ。一人で生きることが常識としてより固定化するのだから。


「でも、ペットぐらいは飼ってもいいかなと思っています。休日は小型ケルベロスをペットショップに見にいってますよ」

「言っておくけど、ペットを飼ったが最後、絶対に結婚しなくなるぞ。もう、独身フラグの中でもかなり高いやつだからな」


「はいはい。まあ、頑張っていい男を見つけますよ」

 どこまで本気かわからんが、トルアリーナはそう言った。お前の場合、いい男を見つける能力がないんじゃなくて、多分、男に過大な何かを求めてるんだから条件を下げればどうとでもなるぞ。


「あ、そうだ、男と言えば」

 トルアリーナが手を止めた。

 わざわざ止めたということはよほど何か特別なことなのだろう。


「義理の娘さんの女勇者って彼氏とかいないんですか?」


 ワシも持っていたペンを止めた。

「これまで全然考えていなかった。少なくとも彼氏がいるとか聞いたことはない」

「いや、それはいてもあまり父親には言わないでしょうけど……」


 そういえば、年頃の娘だし、彼氏がいてもなんらおかしなことはない。


「ま、まあ……彼氏がいてもいいんではないか。それですぐに目くじらを立てるのもおかしな話だしな……」

「それはそうでしょうけど、少し気がかりなんですよね」

「おい、お前のそういう変にタメを作るところ、悪い癖だぞ! 不安になってくるから、すぐに話せ!」


「女勇者は冒険者ですよね?」

「なんだ、そのハチは昆虫ですよねみたいなわかりきった質問」

「ということは付き合う彼氏も同業者である冒険者の確率が高くなりますよね。とくに同じパーティー内の男と付き合うケースが多いとか週刊誌で読んだことがあります」


「ソースが週刊誌かよ……。まあ、いい。続けろ」

「冒険者って、これは差別とかみひとえですけど、中にはゴロツキみたいなのもかなりいるんで、そういうのに騙されてなければいいんですが」


 ワシは持っていたペンを落とした。

 それは考えていなかった……。盲点だった……。


 そうだ。ワシはアンジェリカの親だ。親であれば、子供がすくすくと健全に育つように手助けをしてやるのも責務である。

 となると、娘に変な虫がついてないか確認することも必要だ。


「それに、勇者って歴代の人もそうでしたけど、真面目バカというか、抜けてる人や思いこみが激しい人が多いじゃないですか。騙されやすいんじゃないかな~と。魔王様もせいぜい気をつけてくださいね」

「わかった。徹底的に気をつける。いや、悪い虫がついていた場合は殺虫する」


 アンジェリカはまだ十六歳だ。

 彼氏がいることまではかまわんが、あまり進みすぎた交際には早い。

 それでアンジェリカが傷つけば、レイティアさんも深く悲しむことになる。決して看過できることではない!


 ワシは決意した。

 人間を滅ぼすことなど不可能だとしても、愚かな人間は排除せねばならぬと。

「魔王様、なんだか急に魔王らしさが出てるんですが、どうされましたか?」


「ワシは魔王なのだから、それで当然だろう」



 帰宅後、ワシはアンジェリカがお風呂に入ってる間にレイティアさんに尋ねた。

 内容はもちろん、アンジェリカに彼氏がいるかどうかだ。


「え~? そんなの聞いたことないですけど、お年頃だしそんなに変なこともないんじゃないかしら~」

「心当たりとかはありますか?」


「さあ。でも、パーティーの盗賊とかが男の人だったから、そのあたりの可能性はあるかもね~」

 盗賊だと? いかにも得体が知れないというか、悪いことを平気でやってそうではないか! アンジェリカぐらい、ころっと騙されてしまいそうだ……。


 あと、やはりというか、レイティアさんはアンジェリカの交際について一切把握してなかった。そういうことはとことんおおらかな人だと思っていたので不思議はない。でなきゃ、魔王のワシと結婚してくれんだろうし。


 しかし、今回はそのおおらからさがリスクを招いているかもしれん。レイティアさんが知らないうちにアンジェリカが黒く染まっているおそれがあるのだ。


 ここはワシが娘のために一肌脱いだほうがよいな。

 娘の安寧はワシが守る!


 そこにアンジェリカがやってきた。

「お風呂あがったよ~。ママか魔王、どっちでもいいから入って。でも、二人で一緒に入るっていうのはナシね。娘として拒否するから」


「なあ、アンジェリカよ、一つ質問があるのだが、よいか?」

「何よ。遠慮せずに聞けばいいじゃん。魔王のくせに勇者に遠慮しすぎでしょ」


 許可が出たので、これでおおっぴらに尋ねることができる。

 とはいえ、聞く時に勇気はいるが。

「お前、す、好きな人とか……付き合ってる人とか、いるのか……?」


「は、はあ……? なんで、そんなこと聞くわけ? 意味がわからないんだけど!」

 顔を赤くしてうろたえるアンジェリカ。これは彼氏はいるのか? いや、こんなことを聞かれたら驚くほうが自然かもしれん。まだ、判断するには早い。


「意味は簡単だ。保護者として娘が悪い男に騙されてないか確認せんといかんだろう」

 アンジェリカからバスタオルがワシの顔に飛んできた!

 視界がバスタオルで覆われた。


「バカ! へ、変なところで父親ヅラするな! 仮にいたとしても、そんなの私の勝手なんだから!」

 そのままアンジェリカは自分の部屋に行ってしまった。

「あらら。お父さんとして嫌われちゃったわね~」


「父親たるもの、嫌われるのも仕事のうちですよ」

 ワシは右の拳を強く握り締めた。


 この反応からしても、調査を行うほうがよいだろう。

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